天野理事長ブログ&スケジュール

2016.10.19

遺伝性血管性浮腫を御存知ですか?

千葉県柏市 春日医院 春日葉子先生の投稿です。

 

ある男性の患者さんが「私はこの病気かもしれません」と、おもむろに新聞の切り抜きを差し出して言いました。

「遺伝性血管性浮腫?」 お恥ずかしながら私はその疾患名を知りませんでした。患者さんは、突然、上唇が腫れ、痛くも痒くもなく23日で治癒するという経過を何回か経験しているとのことでした。

 

血管性浮腫の中で、遺伝性が明らかなものとして区別された疾患が遺伝性血管性浮腫(HAE:Hereditary angioedema、以下HAE)です。

眼瞼、口唇、喉頭、舌、手、足、消化管など様々な場所に浮腫が起こり、初発年齢は20歳までが多いようです。5~10万人に1人の有病率と言われていますが、日本での有病率は明らかになっていません。2008年末に実施された日本全国9279名の医師を対象としたアンケート調査(回答者4495名、回答率48.4%)では、HAEを知らなかったと回答した医師は55.2%で、医師であっても皮膚科、血液内科などを除くと認知度の低い疾患です。 

 

HAEの「浮腫」の原因は、遺伝子の異常によるC1インヒビター(C1-INH)の減少、機能異常です。血液中の補体系、カリクレイン・キニン系、線溶・凝固系が活性化するとブラジキニンが発生し、血管透過性が亢進して浮腫が起こります。

C1-INHはこれらの系を抑制しブラジキニンの産生を抑える働きがありますが、C1-INHの減少もしくは機能異常がある場合は、ブラジキニンの過剰産生により浮腫が生じやすい状態となります。

 

病型は1~3型があり、3型は稀ですが、エストロゲン依存性でほとんどが女性に発症すると言われています。発作は精神的ストレス、外傷や抜歯、過労などの肉体的ストレス、妊娠、月経、薬物などで誘発され、皮下浮腫では前述の患者さんのように何事もなく軽快することもありますが、消化管に浮腫が起これば激しい腹痛、嘔気、嘔吐、下痢などの症状が出現することがあります。喉頭浮腫が起こると窒息する恐れがあり危険です。HAE患者の半数以上は、生涯のうちに少なくとも1度は喉頭浮腫を生じる可能性があり、適切に治療をされない場合の致死率は30%と言われています。

 

妊娠や月経、誰もが行う歯科治療、日頃から頻繁に使用される降圧剤(アンジオテンシン転換酵素阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)およびエストロゲン含有製剤などで発作が誘発されることがあるため、稀な疾患とは言え知っておいた方が良さそうです。

 

医療情報があちらこちらに溢れている昨今、全てに目を通すことは不可能で患者さんから教えて頂くことも多く、今回も勉強する良いきっかけになりました。

詳細は、HAE情報センター(http://www.hae-info.jp/index.html)、特定非営利活動法人血管性浮腫情報センター(http://create2011.jp/link.html)のホームページをご覧頂くと良いと思います。

 

春日医院(千葉県柏市) 医師 春日葉子

薬を飲む女性

 

 

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