2016.05.13
「病は気から」と言うけれど。。。
和歌山労災病院 呼吸器内科・働く女性研究センター長 辰田仁美先生の投稿です。
女性外来で診療を行っていると、色々な患者さんが来られます。
65歳のYさんは、気力が出ないのを漢方薬で何とかしてほしいと受診されました。
既往歴は腰部脊柱管狭窄症で、下肢・足先の冷え、しびれがあります。
娘さんが離婚し、一人暮らしで健康面・収入面に不安があるため、近医よりミルナシプラン(トレドミン®:SNRI)の処方を受け、不眠に対してゾルピデム(マイスリー®)を服用していました。
東洋医学的所見は、中背やや痩せ型、脈候:沈・弱、舌候:歯痕(-)、舌下静脈怒張(-)、 白色苔(+)、腹候:腹Ⅱ/Ⅴ 胸脇苦満(-)、小腹不仁(+)、瘀血圧痛点(-)でした。虚証であり、気滞、気虚、血虚と腎虚と考え、香蘇散( 2.5g×3包/日)+プレガバリン(リリカ®)25㎎を処方しました。
3週間後、漢方時々忘れるが、朝まで眠れるようになった。しかし、気分が晴れないとのことでした。
その時の所見は、腹症:腹力Ⅱ/Ⅴ 下腹部の腹直筋の緊張(小腹弦急)、臍上悸触知したので、漢方薬を桂枝加竜骨牡蠣湯( 2.5g×3包/日)に変更し、プレガバリンは続行しました。
6週間後に来られた時は、頭痛・手首のむくみは改善したが、やはりやる気が出ない(本人的にはこれが一番つらい)とのことでした。症状は徐々に改善していたので、半年ほど処方を続行しました。
秋になり、何に対してもやる気が出ないことは続き、寒くなり、体中が冷たいとの症状もでました。腰痛・左背部痛も出現(雨の日の方が痛い)し、改善していた頭痛と肩こりも再燃しました。この時の所見は、腹候:腹力Ⅱ/Ⅴ、上腹部より下腹部がかなり冷たく、小腹不仁(+)でした。腎虚と考え、八味地黄丸に変更しました。
4週間服用しましたが、改善しなかったので、本人と相談し、まず体の痛みの治療を行うことしました。気虚より水毒+裏寒に対して、苓姜朮甘湯(2.5g×3包/日)を処方しました。
4週間後に受診した時には、1週間前より腰痛・左背部痛改善傾向とのことで、苓姜朮甘湯( 2.5g×3包/日)にプレガバリン(リリカ®)25㎎を追加しました。その後は順調に痛みが改善し、3か月後には以前はつらかった近くのスーパーに買い物に行けるようになり、遠距離の自転車が乗れるようになりました。
この症例から、本人の一番つらい症状から治療して、改善しない場合は別の視点から考えることも重要であると学びました。
独立行政法人労働者安全福祉機構 和歌山労災病院
呼吸器内科・働く女性研究センター長 辰田仁美
http://www.wakayamah.johas.go.jp/medical/kinrousya/josei.html