2015.11.12
「サルコペニア」を知っていますか?
関東中央病院健康管理科部長•東京大学医学部附属病院女性総合外来担当 宮尾益理子先生の寄稿です。
残念ながら、加齢に伴って、身体のあちこちに変化(老化)が訪れ機能が低下します。
記憶力などの脳の機能、肺活量などの呼吸器系の機能、血管のしなやかさがなくなり閉塞しやすくなる動脈硬化、皮膚のシミや皺などは、よくご存知と思います。そして、運動機能を担う筋肉や骨も量が減り、質も変化します。
この筋肉量の低下が「サルコペニア」で最近になりとても注目されています。
サルコペニアの語源は、ギリシャ語のサルコ=骨格筋・筋肉(Sarco)と、ペニア=減少(penia)です。定義は、「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候群で、身体的機能障害を来たし、生活の質を低下させ、死のリスクを伴うもの」です。
診断基準はいくつかありますが、現在主に使われている診断基準は「筋肉量の低下」が必須項目で、そこに「筋力の低下」または「身体能力の低下」のいずれかがある場合をサルコペニアとしています。
筋肉量の低下のみの場合をプレサルコペニア、全てがみられる場合を重症サルコペニアとします(上記基準の出典:高齢者のサルコペニアに関する欧州ワーキンググループ(EWGSOP)の提言:Age and ageing 2010;39;412-423)。
具体的には筋力低下は、
握力が男性で26kg、女性で18kg(アジア基準)以下、歩行速度は0.8m/秒以下
で低下と判断します。
筋肉量は全身骨密度測定のできる機械で測定します。
日常生活の目安としては、横断歩道で青信号の間にわたりきることができれば、1m/秒の歩行速度で移動できているということですし、ペットボトルのふたがあけられれば、握力もほぼ20kg保てていると判断できます。また、ふくらはぎの最も太い部分を自分の親指と人差し指で囲んだとき、隙間ができないようならサルコペニアの可能性は低いと考えられます。
サイコペニアの原因は、加齢、活動性の低下、疾患、栄養状態の低下などの、性ホルモンを含む各種ホルモン、神経からの刺激の低下、その他、慢性炎症など含む様々な要因が影響していると考えられており、少しずつ研究がすすんでいるところです。
サルコペニアがあると、疾患がすすみ、疾患があるとサルコペニアがすすむといった悪循環がおこることが心配されますので、とにかく筋肉量を維持し、活動性を保つことが大切です。
サルコペニア対策としては、運動では有酸素運動と重力に抗うようなレジスタンス運動(★1)、食事では、良質の蛋白質摂取を意識としたバランスの良い食事、その他の栄養素としてはビタミンD、ビタミンB6も有用です。
サルコペニア対策をしっかり行って、健康長寿の延伸を目指してください。
(編者注)★1 レジスタンス運動
従来、ウエートトレーニングで使用するバーベルやマシンなどのほか、適当な重量物や水、エキスパンダーやゴムチューブなどを抵抗として利用する運動の総称。水の抵抗を利用するものを水中レジスタンス運動と呼ぶ。レジスタンス運動に共通する体への効果は、体たんぱく質合成の活発化。たんぱく質は筋肉組織をつくり、筋肉の酸素貯蔵体のミオグロビンや、赤血球に含まれる酸素運搬体のヘモグロビン、筋肉のエネルギー代謝を担う酵素たんぱく質をつくっている。スポーツ選手の場合、ハードトレーニングで筋肉組織が損傷し、それによって筋肉のミオグロビンが血中に漏出して減少し、赤血球が破壊されてヘモグロビンが失われるので、それらの補修や補充を促す軽レジスタンス運動(2〜5kgのダンベルなどを使用)が有効。
(朝日新聞社『知恵蔵2015』より転載)
関東中央病院健康管理科部長•東京大学医学部附属病院女性総合外来担当 宮尾益理子
関東中央病院
http://www.kanto-ctr-hsp.com/patient/dock/index.htm
東京大学医学部附属病院老年病科