天野理事長ブログ&スケジュール

2015.10.28

見分ける大切さ②

今回は「見分ける大切さ①」に続きまして、私が問診・カウンセリングのお手伝いをさせていただいた女性外来でのある事例とそれについて考えたことをお話させて頂きます(実例には若干のフェイクをかけさせて頂いています)。

 

娘さんが慢性的な疲労・体調不良を訴えて母娘で女性外来を受診されました。

問診では、娘さんはうつ病で精神科に長年通っているとのことでした。

30代の娘さんは体重が100キロ近くありました。対照的にお母様はご年齢の割には太っていません。遺伝的・生活習慣的な太りやすさではなさそうに見えました。

 

「どんなお薬が精神科からでていますか?」と問診作成のために伺うと、案の定、セロクエル、が含まれていました。副作用として血糖値が上昇し激太りをおこす方がいる薬です。そして、うつ病だけが疑われる場合にはあまり処方されない薬です。思い当たる疾患があったので、うつ病の発症の経緯をお聞きしました。

卒業して小売業に就職、仕入先との関係で悩むことが多く、うつ病を発症した、とおっしゃいました。

 

ここで私は「精神科の先生からうつ病以外の別の病名を聞いていませんか?」と伺いましたが、何度か転院されていて、様子を見ましょう、が続いているとのことでした。

 

「セロクエルは統合失調症にだされることのあるお薬です。統合失調症になると多くは被害妄想が出て、町中の人が悪口を言っているとか、クラス全員の子からいじめられているとか、家中に盗聴器があるとか、そんな妄想が出たりすることがあるんですよ。」とお話ししました。

すると娘さんが「ああ!確かに会社に勤務していたころ何社も仕入先を担当していたんですが、あの頃は仕入先の担当者全員が私を嫌っている、全員に嫌われたと思って落ち込んでいました!それが原因でうつになって、以降、体調不良がなおらないんです。」とおっしゃいました。

 

私は医師ではありませんので、診断はできません。ですが、同行されたお母様とご本人に統合失調症について一応お話をし、診察する女性外来医師にも服薬内容と発症のいきさつを伝えておきました。患者さんがセロクエルを服用されているにも関わらず、副作用による激太りの可能性があることを全く認識していないということも問題だと思いました。

 

患者さんは、本来は極めて陽気で楽天的な性格にみえました。ただ、「うつ病」が発症すると体調不良やおかしな様子が見られるという人生を歩まれてきました。

 

その後、患者さんは数ヶ月受診されませんでした。

 

次にこられた時、お母さんが

「統合失調症について伺っておいてよかったです。あの後、自宅でトイレに引きこもるようになり、ブツブツ中で独り言を繰り返していました。そこで一般病院にうつ病として入院させて頂いたのですが、病院の方から彼女はうつ病ではなく別の精神疾患が考えられるので、そちらの方面に明るい精神病院に転院させたいと連絡があったのです。見ず知らずのお年寄りが入っている病室に、娘がいきなり怒鳴りこんでありもしないことを叫んだらしいんです。転院先で統合失調症と診断されました。」と話して下さいました。

 

私が問診のお手伝いをさせていただいて痛感するのは、うつ病だけではなく、発症率の高い精神疾患については社会全体の認知を高めておくべきだということです。

 

特に患者さん本人の病識がない(発症しても病気であるという風に本人にはわからないので自らは受診しない)「統合失調症」は、厚生労働省のホームページによれば、わが国において約100人に1人がもつ疾患であり、外来を受診中の患者数だけでも2008年の「患者調査」推計で79.5万人とされている身近な疾患なのです。

 

発症から受診までの時間が遅れれば遅れるほど、治療が難航することが知られています。ですので、早期発見、早期治療、治療継続が患者さんがいきいきと社会生活を送り、周囲もその妄想や幻聴から起こる予測不能な行動の影響を避けるために不可欠な疾患といえるでしょう。つまり、発症していない周囲こそが、この疾患を知り、発症者を受診に導くことが大切です。

 

「統合失調症」は、身近な人に起きている変化をその周りの人がきちんと見分けることが、発症者のみならず、その人の周囲の人の快適な生活に必須であると私に教えてくれた代表的な疾患だと思います。

 

㈱ニッセイ基礎研究所 生活研究部

JADP上級心理カウンセラー 天野 馨南子

白いコスモスと空

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