2005年2月20日 第2回NAHW 性差医療情報ネットワーク研究会

2005/02/20

  • 本部

2005年2月20日 第2回NAHW 性差医療情報ネットワーク研究会

テーマ: 女性専門外来の現状と方向性

日時 : 2005年2月20日(日) 12:50~16:40
場所 : 全国社会福祉協議会・灘尾ホール
     
〒100-8980 東京都千代田区霞ヶ関3-3-2 
新霞ヶ関ビル ロビー1階 
TEL:03-3580-098   FAX:03-3580-0988

プログラム

12:50-13:00 開会の挨拶
千葉県衛生研究所所長 NAHW代表世話人 天野恵子
第一部 パネリストの報告 (13:00-15:20)
13:00-13:20 「女性外来による医療改革」
独立行政法人国立病院機構霞ヶ浦医療センター 柴田衣里
13:20-13:40 「健康促進、疾患予防の観点からみた女性外来」
千葉県野田市小張総合病院 小西明美
13:40-14:00 「女性外来の現状と評価」
独立行政法人国立病院機構横浜医療センター 土井卓子
14:00-14:20 国立病院機構 関門医療センター「女性総合診療」の臨床から
国立病院機構関門医療センター 早野智子
14:20-14:40 「大学における性差医療の取り組み」
札幌医科大学医学部 藤井美穂
14:40-15:00 「新しい時代の女性医療・健康管理」-産業保健の現場から-
NTT東日本東京健康管理センター 荒木葉子
15:00-15:20 「女性外来への期待と女性たちの求める医療」
医療ジャーナリスト、更年期と加齢のヘルスケア研究会世話人 安井禮子
15:20-15:30 休憩
第二部 パネルデイスカッション
(15:30-16:30)
15:30-16:30 座長 天野恵子
パネリスト: 柴田衣里 小西明美 土井卓子 早野智子 藤井美穂 荒木葉子 安井禮子
16:30-16:40 閉会の挨拶
山口大学医学部保健学科 松田昌子

主催者 天野恵子 (あまの けいこ) NAHW代表世話人

略歴

昭和17年11月16日生

現職名:千葉県衛生研究所所長 兼 千葉県立東金病院副院長
勤務先住所:〒260-0801 千葉県千葉市中央区仁戸名町 666-2

te1:043-266-6723fax:043-265-5544

学歴

  • 昭和36年4月 東京大学理科Ⅱ類入学
  • 昭和38年4月 同学部医学科進学
  • 昭和42年4月 同卒業

学位

昭和56年3月医学博士 (東京大学第5569号)
「実時間断層法ならびに末梢コントラスト法による三尖弁閉鎖不全の診断」

職歴

  • 昭和42年4月 インターン 東京大学医学部付属病院
  • 昭和42年8月  ECFMG合格 (Certificate N0.095-573)
  • 昭和43年8月 医師免許取得 ( 医籍 第 197673)
  • 昭和44年6月 内科レジデント  New York Infirmary (米国)
  • 昭和45年12月 循環器フェローRoyal Victoria Hospital (カナダ)
  • 昭和49年4月 東京大学第二内科
  • 昭和58年10月 文部教官 東京大学第二内科病棟助手
  • 昭和60年4月 文部教官 東京大学保健センター専門助手
  • 昭和63年7月 文部教官 東京大学保健センター講師
  • 平成 6年4月  文部教官 東京水産大学保健管理センター教授・所長
  • 文部教官 東京大学保健センター非常勤講師 (平成8年まで)
  • 平成8年4月  東京大学医学部非常勤講師
  • 平成14年8月  千葉県衛生研究所所長 兼 千葉県立東金病院副院長 現在に至る
  • 平成14年10月 鹿児島大学医学部非常勤講師
  • 平成15年4月 千葉大学非常勤講師
  • 平成16年4月 秋田大学非常勤講師
  • 平成16年5月 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構専門委員

専門領域

循環器内科、性差医療

賞与

平成2年10月 日本心臓病学会 上田英雄賞受賞

松田昌子 (まつだ まさこ)NAHW企画運営委員長

略歴

生年月日 : 1948年12月15日

現在の所属

山口大学医学部保健学科検査技術科学専攻 教授

連絡先

755-8505 山口県宇部市南小串1-1-1
Phone& Fax:0836-22-2832
Mail address:[matsudam@yamaguchi-u.ac.jp]

学歴

  • 1973年 山口大学医学部卒業 医学士
  • 1985年 医学博士(山口大学)

職歴

  • 1973年  山口大学医学部附属病院医員(研修医)(検査医学講座)
  • 1976~1978 アメリカ合衆国マウント・サイナイ病院助手(心臓超音波検査室)
  • 1978~1987 山口大学医学部附属病院医員(第2内科)
  • 1987~1988 山口大学医療技術短期大学部講師
  • 1988~2000 同 助教授
  • 2000 同 教授
  • 2000~現在 山口大学医学部保健学科教授
  • 2003~ 山口大学医学部附属病院「女性診療外来」主任併任

研究歴

  • 1978~1987 虚血性心疾患の病態生理、自然歴
  • 1987~1994 循環器疾患と運動療法
  • 1994 9~12 アメリカ合衆国ケース・ウェスタン・リザーブ大学心臓循環生理学研究所留学(文部省在外研究員)
  • 1994~現在 循環器疾患と女性ホルモン、運動療法、性差医療、女性医療

社会活動

日本体育協会公認スポーツドクター、山口県医療扶助審査会委員、山口県テニス協会医科学委員会委員、山口県スポーツ医・科学委員会委員

柴田衣里(しばた えり)

独立行政法人国立病院機構霞ヶ浦医療センター女性専門外来

略歴

  • 平成2年3月 筑波大学医学専門学群卒業
  • 平成2年4月~平成8年3月 筑波大学臨床医学系 産婦人科レジデント
  • 平成8年4月~平成11年3月 筑波大学博士課程医学研究科生理系
  • 平成10年4月~平成12年3月 日本学術振興会 特別研究員
  • 平成12年4月~ 波崎済生病院 産婦人科医長
  • 平成13年12月~ つくばセントラル病院 産婦人科医長
  • 平成14年11月~ 病休
  • 平成15年4月~ 現職

報告Ⅰ「女性外来による医療改革」 柴田衣里

女性外来は現代女性のニーズに応え、女性医療の理想を実現化するための新しい試みである。全国で相次いで設立されているが、その定義やシステムが統一されていないため、個々の施設で担当者が試行錯誤している。一方で、女性外来の理念は理想であって、医療の現場とはかけ離れ過ぎている、という指摘もある。 女性外来で得た知見は個々の臨床現場では実現不可能で意味がない、とむしろ医療者のニヒリズムを生む危険性や、受診者が女性外来と同等の扱いを一般外来で求めることによる混乱も起こりうる。日本の女性外来は、性差医学を基本としつつ、女性のニーズにも応えるという両睨みで誕生したが、後者ばかりが強調され過ぎている。「女性を特別扱いして単に時間をかけて女医が診る」というお手軽な取り上げられ方をされ、本来の理念が分かりにくくなっている。さらに、男性医師への差別だという意見まで聞かれる。性差を意識して女性医療を行う場である女性外来が、なぜ日本でこのような迎えられ方をしたのかを、女性外来で明確 になった医療の現実と受診者のニーズのギャップに注目して考察した。

受診者にとって女性外来は、自分の心身への責任をもち、臨機応変に自分に適した医療を選ぶための場である。相手が男性医師でも必要なことを言える強さや、 必要なら専門医の診察を受ける賢さを学ぶ場となる。一方の医療者には、女性外来の理念が本当に実現不可能なのかを考え、理想に向かって修正する方法を探し、利害の絡んだ科や施設の壁を越えて真の連携をする努力が求められる。意識を変えることは制度を動かすことにつながる。医療の場での傾聴への評価と報 酬、医療従事者の過重労働の改善など、取り組むべき問題は数多くある。女性外来が本来の理念と役割を果たし、ブームで終わらないためには、受診者・医療者 双方の意識改革と医療制度そのものの改革が必要である。

小西明美 (こにし あけみ)

千葉県野田市小張(こばり)総合病院 健康管理部部長
人間ドック・禁煙外来・女性外来担当

略歴

  • 神戸で生まれ、千葉で育つ
  • 1977年 岡山大学医学部卒業
  • 1977年~倉敷中央病院研修医
  • 1979年~京都桂病院内科医員
  • 1981年~1985年 京都大学医学部大学院医学研究科(第一内科)にて肝繊維化研究に従事
  • 1985年 京都大学医学部大学院博士課程修了
  • 1985年~倉敷中央病院内科部長(1996年より保健管理センター兼務)
  • 2001年~現職

専門分野

予防医学(禁煙も含む)・女性医療・肝臓病学
「個の医療」の実践、個人のリスクに応じた検診を目指している。その活動の一環として、生活習慣病の一次予防を目的とした禁煙外来を開設。2002年より千葉県女性専用外来の野田地区担当医として女性医療に携わっている
医学博士・専門医(日本肝臓学会・日本消化器内視鏡学会・日本消化器病学会)・認定医(日本人間ドック学会・日本内科学会)・日本医師会認定産業医・性差医療ネットワーク企画運営委員

報告 Ⅱ「健康促進、疾患予防の観点からみた女性外来」 小西明美

わが国の女性の平均寿命は、85.2歳(平成14年厚生労働省統計)と延長し、高齢化に加えて、女性の社会進出、結婚や出産年齢の高齢化、少子化など、女性を取り巻く社会環境は大きく変化している。この環境の変化は、生活習慣の変化や、新たな精神的身体的ストレスをもたらし、その結果、女性ホルモンの影響下に変化する女性のライフサイクルに、様々な健康上の問題を生じている。このような時代のニーズを受けて、米国発の女性医療がわが国に導入され、女性外来が各地に誕生した。しかし、まだ女性外来を通じて系統的に女性の健康促進、疾患予防が行われているという状況ではない。そこで女性の生涯にわたる健康促進、疾患予防の観点から、女性外来の現状と、今後の展望について考えてみたい。

女性外来では、いままで表に出にくかった女性特有の症状を、個人に応じて丁寧に総合的に診ることで、女性の現状と健康ニーズが把握できる。そして、治療に、生活背景や精神的背景を考慮した生活支援やカウンセリングを取り入れることで、女性のQOL(生活の質)の向上をもたらすようになった。また更年期障害などの不定愁訴には、漢方治療の有効性が認識され、漢方の未病や養生の考え方が、そのまま女性へのヘルスプロモーションとなっている。一方で乳癌、子宮癌検診、骨量測定、動脈硬化度測定など、リスクに応じた検診が注目され、女性専用のドックや年代別の検診コースを工夫する医療機関も出現している。さらに、女性外来を通じて、他科や他医療機関、コメディカル、女性センター等の地域の行政機関との連携が進み、多様なサービスが受けられるようになりつつある。このような現状から、女性外来は疾患の診断と治療だけでなく、予防の実践の場としても、多くの可能性が期待される。

現在、学問としての性差医学の急速な進展により、女性の様々な疾患リスクや、それに対峙した男性のリスクが明らかになりつつある。今後は、性差の視点からみた予防医学の体系化、エビデンスに基づく有効な健診システムの確立、その基となる疫学調査、特に日本人でのデータの蓄積、担当医師・スタッフの教育が重要である。そして、医師、コメディカル、行政、受診者を含めたネットワークシステムを構築し、女性外来だけでなく、保健所や町の薬局、Web上での相談など、あらゆる機会に均等にサービスが受けられるようになることが望まれる。これは学問が実践に結びつく医療の大きな流れであり、最終的には、男性も女性もそれぞれが自らの健康ニーズを把握して、必要な情報や治療を自己決定する能力を持ち、健康な暮らしを営めるようになることが望ましい。

土井卓子 (どい たくこ)

独立行政法人国立病院機構横浜医療センター 外科医長

略歴

  • 昭和59年横浜市立大学医学部卒業
  • 2年間同病院で研修
  • 平成2年同大学院卒業
  • 済生会横浜市南部病院、横須賀共済病院勤務後現在の独立行政法人国立病院機構横浜医療センターに平成7年より勤務している。

専門

外科、特に乳腺外科と消化器外科
外科学会専門医、指導医
消化器病学会専門医、乳癌学会専門医
外科には女性医師が少ないこと、乳房の診察や肛門の診察には女性医師を求める受診者の声が多いことから、平成13年9月より女性外来を開始した。

報告 Ⅲ「女性外来の現状と評価」 土井卓子

〔はじめに〕横浜医療センターでは女性外来を開始し3年経過したので、受診者の評価を検討した。

〔女性外来開設経緯〕医療現場で必要性を感じた女性医師、看護師が中心になって構想を練り、乳房、肛門、鼠径部などを同性医師が、プライバシーを大切にしたゆとりある環境で不快感なく受診できるように工夫し、内容も.疾患の治療に限らず、体調の変化を一人の女性として全体像でとらえ、苦痛の原因を一緒に考え、解決策を相談し、健康な生活を支えてゆくことを目指して開設した。

〔運営方法〕医師、看護師、予約受付事務官、心電図、マンモグラフィ検査技師はすべて女性で構成した。初診は外科と内科、産婦人科の医師が担当し、皮膚科、精神科、整形外科の女医が協力している。

〔診療実績〕受診者の年齢は8歳から86歳まで、平均40.4歳であった。受診内容は乳腺疾患、子宮卵巣疾患、更年期障害、肛門疾患、陰部掻痒、陰股部感染症、うつ、不眠、尿失禁、膀胱炎、めまい、肩こり、疲労、冷症などのほか、性に関する問題、体臭の不安、食欲の異常、アルコール依存、子供への虐待、DVなどであった。

〔受診者の評価〕診察終了後同意の得られた受診者にアンケート用紙を渡し、無記名、郵送で回収した。女性外来選択の理由は担当医が女性であることが82%で、男性医師の診察でも良いかとの質問には78%がだめと回答し、理由は男性医師の言動の無神経さ、気持ちの無理解などであった。51%が同じ主訴ですでに他科に受診しており、一般外来の説明の不十分さ、相談する姿勢がないなどが問題点であった。女性外来に求めることは、話を聞いてもらえる、苦痛を共感してもらえるという解答が最も多かった。

〔結論〕女性外来の意義は、男性には理解してもらえない苦痛を同性の医師に不快感なく診察を受け、共感をもって対応策を相談できることであると思われた。

早野智子 (はやの ともこ)

国立病院機構関門医療センター 循環器内科、女性総合診療チーフ

略歴

  • 昭和42年8月4日生 下関市出身
  • 平成5年  山口大学医学部卒業
  • 同年  山口大学医学部付属病院第二内科入局 研修医研修
  • 同年12月 美祢市立病院 内科医師勤務
  • 平成7年  山口大学大学院医学部医学科入学
  • 平成11年  同卒業 医学博士号取得
  • 同年  国立山口病院循環器内科医師勤務
  • 平成12年  国立下関病院循環器内科勤務
  • 平成14年  女性総合診療チーフ兼任
  • 平成16年  国立下関病院より国立病院機構関門医療センターへ病院名改称
  • 現在に至る

日本内科学会専門医、日本循環器学会専門医、日本ペーシング学会ICD(植え込み型除細動器)植え込み認定医

報告 Ⅳ 国立病院機構 関門医療センター「女性総合診療」の臨床から 早野智子

早野 智子1)、  佐栁 進2)、
国立病院機構 関門医療センター
1)女性総合診療チーフ、循環器内科医師、 2)院長

「女性外来」の特徴は、①心身を総合的に診療する体制、②予約制で充分な時間をとる診療、③性差医療の現場として、既存の医学常識で解けなかった病態の解明をめざす医療である。「女性外来」は従来の臓器別・縦割り医療、3分診療、性差を考慮しない医療を補い、日本独自の新たな医療スタイルとして急速に普及している。

 

当院の女性外来「女性総合診療」は、女性の心身すべての症状を対象に、2002年9月30日に開設した。一人一人の女性の“生涯にわたる健康サポート”をめざして、8診療科女性医師8名(循環器内科、産婦人科、消化器内科、代謝内科、精神神経科、耳鼻咽喉科、皮膚科、乳腺外科)と専任看護師を基本体制に、完全予約制で対応する。院内外の諸専門家、保健行政機関のサポートを得て、開設後の2年3ヶ月で初診患者数は654名を数え、88%の満足度を得ている。

受診者の当診療に対するニーズは、大きく3とおりある。

  • 総合外来のニーズ
  • 専門科外来のニーズ
  • 予防医療のニーズ

は、同時に複数の症状をもち、“何科へ受診してよいか判らないので全身を総合的に診てほしい”場合、②は、不整出血などの特定症状をもち、“その専門領域の同性の医師の診察を受けたい”場合、③は、“今のところ症状はないが、女性の健康に心配りのある人間ドックや健康相談、予防教育を受けたい”場合である。
これらのニーズに応えるには、診療科や職種、性別を越えた医学・医療従事者の共同作業が不可欠と実感する。実際に各地の「女性外来」がいずこも同じ構成である必要はない。各施設の特長を活かし、女性外来間の連携、かかりつけ医と女性外来、総合病院、地域保健所、薬局を結ぶ地域医療ネットワークが実れば、受診者に喜ばれる風通しのよい医療が期待できるのではなかろうか。

藤井美穂 (ふじい みほ)

札幌医科大学医学部 産婦人科講座 講師

略歴

  • S28. 6.19 生
  • S56.3 札幌医科大学医学部卒業
  • 札幌医科大学附属病院産婦人科勤務
  • S60.4 大阪大学医学部第三内科留学
  • S61.3 札幌医科大学医学部大学院医学研究科修了
  • S61.4 留萌市立病院産婦人科医長
  • S62.10 札幌医科大学附属病院産婦人科勤務
  • H2.4 江差道立病院産婦人科医長
  • 札幌医科大学医学部助手
  • H3.4 札幌医科大学附属病院産婦人科勤務
  • H10.4 札幌医科大学医学部講師、現在に至る
  • H13.1 UCLA Depart. OB/GY留学
  • 日本産婦人科学会認定医
  • 日本細胞診指導医
  • 日本不妊学会評議員
  • 北海道産婦人科医会評議員
  • 日本医師会女性会員懇談会委員
  • 日本女医会北海道支部長
  • 北海道女性医師の会会長

報告 Ⅴ 「大学における性差医療の取り組み」 藤井美穂

性差医療という用語の普及とその実践は、今や日本の社会現象となっている。しかし、性差医療=女性外来=女医外来 の誤った認識が一人歩きした結果、地域や行政からの要望のもと、多くの医療施設で女性外来を開設することになった現実も否定できない。本来的な性差に基づいた医療の普及は極めて重要である。この普及は、医療提供の個別化に発展する基礎となること、また医学・医療の内容が書き替えられる必要があることから、医学史におけるepoch-makingな波であると考えられる。

医学教育・研究を担う大学において性差医学・医療を実践していくことは、非常に有効・重要ではあるが、実際には医師数が多く研修医の移動が多い施設であり、この実践が容易ではないことも事実であるので、当院での取り組みの実際とこれらから出てきた今後の課題を報告したい。

(1)女性外来の担当医師間で連絡会議を開き、各診療科における問題点を明確化し、改善してきた。一方、女性外来に対する受診者の認識と期待する内容を医師が把握する目的で、受診者アンケートを施行し、その結果に基づき改善に努めた。
(2)多くの層に性差医学研究の魅力を周知する目的で、医師・薬剤師・臨床検査技師・医学生の参加のもと、「性差医学勉強会」を毎月1回開催し、性差に関する論文抄読、研究の紹介などを行ってきた。
(3)「北海道性差医学・医療研究会」を発足し、さらに多くの医師、医療スタッフに性差に関する情報を提供し、また性差医学・医療におけるエビデンスの集積を目的とし、具体的な臨床・基礎研究の多施設共同プロジェクトを企画した。

以上の取り組みから、研究プロジェクト・勉強会の開始を契機に、女性医療に対する偏見をもつ医師の意識改革が見受けられるようになった。しかし大学という特殊な医療施設における女性外来の充実については今後の大きな課題が残されていることも浮き彫りにされた。

荒木葉子 (あらき ようこ)

NTT東日本東京健康管理センター 統括産業医

学歴・職歴

  • 1982年3月慶應義塾大学医学部卒業
  • 1982年4月慶應義塾大学医学部内科学教室入局
  • 1986年5月慶應義塾大学医学部 血液内科 専修医
  • 1992年1月University of California San Francisco、Postdoctoral Fellow
  • 1994年2月報知新聞社東京本社 産業医
  • 2002年7月NTT東日本 東京健康管理センタ 所長
  • 2003年4月慶應義塾大学 医学部内科学 客員講師 兼務

主な著作

  • もっと知ろう セクシャルハラスメント 労働調査会 翻訳
  • EBMによる健康診断 医学書院 分担執筆
  • 性差医学入門 じほう編集代表
  • 女性たちの医療革命 朝日新聞社 編集・翻訳
  • 働く女性たちのウエルネスブック 慶應義塾大学出版会 著作

所属学会

日本内科学会、日本産業衛生学会、The International Commission of Occupational Health (ICOH)、日本糖尿病学会

その他の活動

  • 性差と医療 編集委員
  • NAHW 東京支部支部長
  • 日本産業衛生学会 就労女性健康研究会 委員
  • 日本産業衛生学会 産業医部会 東京支部 委員
  • 女性と仕事の未来館 運営委員
  • サンユー会(全国産業医会)編集委員
  • 社団法人 日本女医会女医の環境整備委員会 委員
  • 東京都医師会 女性会員問題検討委員会 委員
  • 情報通信産業保健研究会 幹事
  • 性と健康を考える女性専門家の会 働く女性の健康プロジェクトリーダ-

報告 Ⅵ 「新しい時代の女性医療・健康管理」 ー産業保健の現場からー 荒木葉子

平成12年12月、産業医学総合研究所は21世紀の労働衛生研究の重点領域を発表した。 産業社会の変化により生ずる労働生活と健康上の課題、職場有害因子の生体影響、リスク評価と労働安全衛生マネジメントシステムの3つが重点領域として取り上げられ、その中に合計18の研究テーマが設けられた。「就労女性の健康」は18の研究テーマの中でも優先順位が高く、「多様化する労働形態と健康」、「情報技術と労働衛生」、「メンタルヘルスと産業ストレス」、「作業関連疾患の予防」、「高年齢労働者の健康」、「有害因子の生体影響」とも密接な関係にある。
「就労女性の健康」課題としては、1) 性別によらず健康に働ける職場作り、2) 深夜勤務・交替勤務・長時間労働に従事する女性の母性保護、3) 女性における作業関連筋骨格系障害の予防、4) 化学物質など職場有害要因の生殖機能への影響とその予防、5) 各種労働負荷の母性等への影響、6) リプロダクティブ・ヘルスからみた健康診断・健康管理のあり方、7) 職域暴力セクシャルハラスメント対策、8) 女性労働者の多重役割を解消する社会的支援が挙げられている。
こうした課題は重要であるが、「性差」の観点がしばしば抜け落ち、「女性」に特化した内容となっている。
平成14年の労災認定をみると、心血管疾患は男性301件、女性16件、精神障害は男性76件、女性24件と著明な性差を生じている。こうした差は何故生まれるのか?妊娠・出産のみならず、多くの労働関連疾患(「労働」生活習慣病も当然含まれる)の成り立ちには、ジェンダーとセックスの両者が関わっており、予防から補償まで性差を考慮しなくてはならない。職務ストレスモデルを検証しながら、現行での問題点を提起したい。

安井禮子 (やすい れいこ)

医療ジャーナリスト、更年期と加齢のヘルスケア研究会世話人

略歴

  • ジャーナリスト(医療・健康問題)
  • 主な取材テーマ は、更年期医療・女性の健康・介護保険・在宅ケア・高齢者医療・がん・ターミナルケア。
  • 日本医学ジャーナリスト協会幹事
  • 更年期と加齢のヘルスケア研究会監事
  • 日本更年期医学会会員
  • NPO法人「メノポーズを考える会」理事
  • 元・東京新聞記者。

報告 Ⅶ「女性外来への期待と女性たちの求める医療」 安井禮子

女性外来は、その名称の親しみやすさもあって、受診しやすい医療機関を求める女性たちの期待を集めながら、急速に広がってきた。ブームとも言えるその動きは医療関係者の間でも論議を呼び、女性たちが求める医療とはどんなものか、女性の健康に携わるのは何科の医師が適しているのか、女性医師を希望する声が多いというが男性医師の役割はどうなるのかなど、女性医療のあり方への関心を高める効果も生んでいる。

少子・高齢化の同時進行と未婚者や一人暮らしの増加は、女性たちの健康への関心をさらに強める要因にもなっている。また、自分に合った適切な医療を、よく説明を受けた上で選択し、納得して受けたいという女性たちの意識は、NPO法人「メノポーズを考える会」の調査などからもうかがい知ることができる。女性外来が、こうした女性たちの声を受け止める体制をどう整えていけるかは、外来の方向性とともに注目される。

女性の体の不調は多くの場合簡単に説明しにくい要素をもっている。更年期を例にとると、不安やうつ気分といった精神症状と、のぼせ・肩こり・粘膜の乾燥などの身体症状が重なり、加えて性の問題や夫との葛藤、老親の介護、子どもの巣立ち、職場の人間関係などの要因も影響してくる。女性外来では、こうした訴えを十分に時間をかけて聞いて受け止めることが求められるが、現行の健康保険制度のもとでは経済的に困難を伴う。

一方、「子なし・30代、未婚」の負け犬の本や、「オニババ化」といった人を驚かす言葉で女性の身体性を取り戻す提言をした本がベストセラー入りしたことは、女性の生き方や感覚の変化の反映ともいえる。また、フィットネスクラブに通う活動的な60~70代の女性が増える一方で、若くて不調を訴える女性も多い。女性外来は、こうした世代を超えた女性たちが抵抗なく受診できる医療の窓口としても期待されている。そこでは性差とともに個人差も重要になるだろう。地域の女性センターや福祉センターで開かれる健康セミナーや教室もひろがっているが、サテライトとして連携を深めることが出来れば、女性外来が地域に密着した女性のための医療の窓口として定着していくことも期待される。

Copyright © 2014 Japan NAHW Network. All Rights Reserved.