女性外来の診察室から

第102回 女性外来、性差医療、漢方との出会い

2002年、堂本暁子千葉県知事により、千葉県の施策として、県内の女性医療が発足し、当時の勤務先の理事長から女医ということで依頼され、保健所(現健康福祉センター)の女性のための健康相談を担当することになりました。当時は、女性医療については、自分が女性であるということで分かること以外は正直全く未知の分野でした。
しかし県の事業として、知事のブレーンとして活躍されていた性差医療の専門家の天野恵子先生が中心になって様々な勉強会が企画され、月経にまつわる異常、更年期、排尿障害、うつ病、骨粗しょう症、女性特有の代謝疾患など、ビキニ医療(婦人科や乳房関連など)だけでなく、あらゆるテーマについて、毎回遠く千葉市まで出かけてその道の専門家の講義を受けることになりました。そして、女性の一生の様々なライフイベントと疾患について、本当に頭のてっぺんから足の先まで、詳細に学ぶ機会を頂きました。その後男性医療も見直され、今は男女の性差を考慮した性差医療へと発展を遂げています。
2002年から2012年まで続いた健康相談で実感したのは、当たり前ですが、「心と体は切り離せない」ということでした。そして解決には、傾聴し寄り添うという女性外来の基本姿勢と、女性医療で学んだ知識、特に漢方治療が有効だということも学びました。2003年からは相談者の受け皿として、病院に女性外来を開設して漢方治療をはじめ、今は予防医学が専門なので、主に人間ドックで不調(冷えや更年期障害など)のある方の漢方治療を中心に、今日まで継続しています。
漢方治療の有効性は当初から注目されていたので、女性外来担当者の中で自発的に漢方の勉強会が行なわれ(千葉女性医療と漢方を考える会)、天野恵子先生が作られた性差医療情報ネットワーク(NAHW)の千葉支部の活動へと続きました。またNAHWの活動は全国にも展開され、会員も全国津々浦々の女性外来担当者や男性医師、コメディカルの方々まで広がっています。このネットワークで、情報交換したり、お互いに励ましあったりすることも、学び続ける上で大きな力になりました。
漢方は、肝臓病の臨床医時代に、小柴胡湯の間質性肺炎くらいしか知識がなかったのですが、学んでみると奥が深く、上手く使えば本当に効果があり、今は手放せないアイテムです。自分や家族にとっても、症状が重くなる前の予防薬として重宝しており、今我が家の常備薬の大半は漢方薬です。
なぜ漢方薬は有効なのか、ですが、まず漢方には「心身一如」といって、「心と体は切り離せない」と考えること、局所の不調だけでなく、全体の不調を認識して対処するので、不定愁訴にも対応できること、病因だけではなく、自然治癒力を重視することなどでしょうか。
性差医療は、今まであった事実に違った方向から光を当てて見いだされ、性差に光が当たることで、東洋医学の力にも、多様性にも光があたり、今の時代に来るべくしてきた新しい医療の流れだと思います。今私の外来の患者さんは次第に高齢化して、介護の悩みや、体の痛みについての相談が多くなってきました。外来では運動や生活習慣から、社会的サポートまで様々なお話をしています。私自身も個人的に同じ悩みを共有することが多くなり、年を重ねることも悪くないと思うことが多くなりました。
一方で小児科からの紹介も増えています。子供は早く介入すれば、漢方薬の効果も大きく、成長する力もあるので、とてもよくなる例が多いことも分かってきました。月経痛がきっかけで、部活ができなくなって、それが不登校につながったり、もともと虚弱な体質で、毎日の通学が負担となって、保健室児童になったりしていたお子さんが、少しずつ元気になって、卒業して次のステップに進めるようになるのを見ていると、本当に希望を感じます。
これからもできる限り、予防から治療まで、子供から高齢者まで広く多様な女性外来を続けていければと思っています。
        NAHW 千葉支部 小西明美(千葉西総合病院 健康管理センター)

女性外来に必要な知識および能力

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