女性外来の診察室から

第100回 1人の女性外来患者さんの卒業

最初に私が女性外来を開始したのは、約20年前。千葉県立東金病院で天野先生のご指導の下、女性外来を始めました。
そこからいくつかの病院を経て、現在の職場は人間ドックを行う施設のため、女性外来らしい診察は残念ながら行えていません。
その中で、20年余り通院された方が先日、私の外来を終診されました。

2004年、都内に居住のIさんは女性外来を聞きつけて、3時間近くかかる東金病院へいらっしゃいました。60歳を過ぎ、更年期ごろより始まった胸痛に悩まれていました。
いわゆる労作性の胸痛ではなく、安静時、ストレスがかかった時に多く、寒い時期にも多い胸痛でした。当時はまだ現在のように冠動脈CTAもそれほど普及していなく、運動負荷試験陰性の胸痛で安静時のみの胸痛であったことから微小血管狭心症として投薬を開始しました。投薬により、症状の頻度は激減し、ご本人は非常に楽になったとおっしゃられ、その後、私の異動のたびに異動先の外来へついてこられるようになりました。
その間、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)を発症され、プレガバリンなども入ってきましたが、いつも診療の時は穏やかな方でいらっしゃいました。きっといろいろとストレスもあるのだろうと推測しましたが、ご本人は特別話をされることもなく、こちらも特にお尋ねせず、診療を継続していました。ある時期、ご高齢のお父様の介護の話を唯一されましたが、この20年の間で数回だったと思います。70歳後半になると、おひとりでの通院が心もとないとのことでお二人のお嬢さんのどちらかがついてこられる外来でした。
数年前発作性心房細動となり、徐脈頻脈も伴うことからアブレーションを受けられ、その頃より近くの循環器の先生のもとでの管理となりましたが、その間も3か月に一度は通ってこられました。私のところでは、ほとんどが状況確認程度の外来で、お嬢さんのご負担も考えると、自宅近くの循環器主治医に集約することもお勧めしましたが、通院を続けられました。
諸事情から、今回、私の外来は終診となったのですが、最後の外来の日、お嬢様たちもご都合をつけられ来院、涙ながらのお別れをした外来でした。当初から考えると、ここ数年は殆ど大きな変化もなく、お顔を拝見するだけの外来のようでしたが、いただいたお手紙には、今までの診療の感謝のお気持ちがつづられており、患者さんに寄りそうことの大切さを改めて学ばせていただきました。私もこのお別れをとても名残惜しく感じる診療でした。

医療の技術も進み、医療者もそれにキャッチアップすることはもちろん大切なことですが、患者さんに寄りそうという医療の原点も忘れてはならない と感じた次第です。

大本由紀 虎の門病院付属 健康管理センター・画像診断センター 

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