女性外来の診察室から

No.63 高血圧に関する話題 その3

荒木労働衛生コンサルタント事務所所長 荒木葉子先生の投稿です。

 

■女性の一生における高血圧の課題

 以下の論文には、女性の一生における高血圧の課題が書かれています。ついつい更年期以降の高血圧に注意を向けがちですが、妊娠時の高血圧はもちろんのこと、若年期の高血圧にも性差があり、見逃してはいけない疾患があることに気づかされます。

 

Wenger NK, Arnold A, Bairey Merz CN, et al. Hypertension Across a Woman’s Life Cycle.

J Am Coll Cardiol. 2018 Apr 24;71(16):1797-1813. doi: 10.1016/j.jacc.2018.02.033.

(PMID: 29673470)

 

若年期の高血圧は、二次性高血圧を念頭に置く必要があります。

特に女性の場合、腎障害、腎動脈狭窄・特に線維筋性異形成症、高アルドステロン血症、甲状腺機能低下症、経口避妊薬の使用、ハーブやサプリメントの影響、Turner症候群による大動脈縮窄症、高安病、SLEやリウマチ疾患などが注意する必要があります。

 そして、妊娠時に高血圧があったかの聞き取りも、今後の心血管リスクを考えるととても大事なことです。 

 

■職場の定期健康診断における問題

 20184月から、職場の定期診断項目に少し変更がありました。

以下の水色の部分です。特に10番、医師が認めた場合は、血清クレアチニン検査を行うことになったことです。

 定期健康診断で尿たんぱくが陽性になった場合、月経の影響、軽度な膀胱炎などがあり、女性では判断に悩むことが多いです。また、月経と重なった場合尿検査をスキップしてしまう場合もあります。また、事後措置として再検査を指示しても、尿検査のためだけに再度受診することも難しく、また、再検査の内容も医療機関によってまちまちで、必ずしも鑑別診断をしっかりしてもらえるわけではありませんでした。

 毎年尿たんぱくが陽性で再検査を指示されていたにもかかわらず、3年間放置してしまい、精査を受けたときにはすでにクレアチニンが3を超えていた社員さんもいました。

どの段階で医師が判断するかも、また難しいところですが、この項目変化を受けて、全社員にクレアチニン検査を導入した企業もあり、腎疾患を早期発見するのに有効な変化だったと思います。

 

 

   高血圧とは関係ない話題ですが、ついでにお話しすると、★マークの省略項目には問題が大きいと感じています。

  こうした注意事項が存在するという事は、一律に省略している場合が多々あることを示しています。20~40代の女性は慢性的な鉄欠乏性貧血の状態にある、と言っても言い過ぎではありません。最も頻度が多い疾患の検査が省略可になっていること、また貧血の指標が何故血色素量と赤血球数なのか疑問です。ヘマトクリットは勿論のこと、隔年でも構わないので鉄、TIBC、場合によってはフェリチンまで含めて検査することにより、貧血の早期発見、早期治療につながるのではないでしょうか。

 男性の肥満やメタボ対策だけではなく、女性の健康リスクにもっと着目した検査が必要です。

 

■女性と男性で治療アドヒアランスに差があるのか

  2013年の米国の論文です。健康保険制度が大きく異なるため、日本と同列に論じることはできませんが、治療のアドヒアランスの要因に性差があったと報告されています。

 

Holt E, Joyce C, Dornelles A, et al. Sex differences in barriers to antihypertensive medication adherence: findings from the cohort study of medication adherence among older adults. J Am Geriatr Soc. 2013 Apr;61(4):558-64. doi: 10.1111/jgs.12171. Epub 2013 Mar 25. (PMID: 23528003)

 治療アドヒアランスの要因としては、患者、医療者、医療システムがあげられています。

 

治療アドヒアランスが低くなる因子として、男性のみに認められたのは、肥満、性機能低下、女性のみに認められたのは、うつ状態、医療者とのコミュニケーションが不満足な場合でした。女性は医療者との時間や説明など、より情緒的な対応(feeling-oriented)を求めていることが明らかになりました。男女ともに認められたのは、食事、運動、喫煙などの生活習慣を変える気がない事、また医療コストは重要なアドヒアランスの因子であることがわかりました。

 

 女性外来を担当している医師たちは、女性患者さんの情緒的な対応(feeling-oriented)が治療継続に必要だというデータに納得感を覚えると思います。

 

 服薬アドヒアランスの研究には、医療者とのコミュニケーションについての研究も多く、動機づけ面接の手法がよくつかわれている、との報告がありました。

 

 私はここ数年、動機づけ面接のトレーニングに参加してきましたので、次回には動機付け面接についてご紹介したいと思います。

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