2017年1月28日～29日にわたり、愛知県産業労働センターウインクあいちにて、藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院　脳神経外科　加藤庸子教授を会長として、第10回日本性差医学医療学会学術集会が開催されました。

 

今回の特徴は、加藤先生が、藤田保健衛生大学の種々の分野の先生方にお声かけをして、参加とご協力をいただいたことで、医学のみならず社会学にまで踏み込んだ性差を考えるきっかけになったことです。

 

医師の学会はともすれば、医学が主体でほんの少し薬学、看護学、コメディカルの世界が入ると言う形に陥りますが、日本性差医学医療学会は設立の最初から、医学の根源である人間が住む社会のありようまで突き詰めて、考えてみようという理念を掲げています。

そのような目で、今回のプログラムを見ていくと、加藤先生の挑戦がそこにあることに気づかされます。

 

初日の特別シンポジウムは8人のシンポジストが全て藤田保健衛生大学のスタッフでした。

①虚血性脳卒中と性差（脳神経外科）

②虚血性心疾患と性差(循環器内科)

③健康寿命における性差～内分泌代謝学の視点より～(内分泌・代謝内科学)

④性差のある皮膚疾患について(総合アレルギー科)

⑤消化管疾患の性差(消化管内科学)

⑥骨粗しょう症における性差と椎体骨折後のADL低下や手術治療の現状について(整形外科)

⑦膠原病・リウマチ性疾患における性差について（リウマチ・感染症内科）

⑧家庭医からみた性差医療～生物社会心理モデルと家族志向のプライマリ・ケア（救急総合内科）

 

登壇された先生方の中には、はじめて性差と本格的に取り組み、大きな成果を得たと言われる方もいて、是非これからの授業の中で性差について語っていただきたいと思いました。

 

中でも、救急総合内科日比野将也先生の

「家庭内や社会において男性と女性の役割がそれぞれ異なっていることは多くあり、必然的にそこから生じるストレスも異なってくる。このような状況下で医療者として患者に向き合うに当たり、社会に置かれている状況だけでなく、時には家族内に目を向けることが時には重要であり、そこから患者医師関係が強化され、今後の治療方針に良い影響を与えてくれることも多い」

 

と言うメッセージは、毎日女性外来で患者を診ている医師としては、家庭内でのストレスは全ての患者さんが抱えている問題であり、その部分への配慮なくしては診療が成り立ちませんので、大いに共感を致しました。

これからの高齢化社会では、益々大きくなる視点であり、医師のみでは解決できない問題でもあります。

 

シンポジウム１は堂本暁子元千葉県知事と橋本洋一郎熊本市民病院神経内科・リハビリテーション科部長による「女性と防災」講演でした。

堂本暁子氏は生涯を女性の地位向上のためにかけてこられた方です。男女共同参画基本法成立の立役者でもあります。

http://cgi2.nhk.or.jp/postwar/shogen/movie.cgi?das_id=D0012100346_00000

 

東日本大震災以降、男女共同参画と災害・復興ネットワークを立ち上げ、男女共同参画、多様性の視点を復興政策に盛り込むことを政府に働きかけ、復興基本計画などに盛り込むことに一定の成果をあげられてきました。

 

しかし、彼女は言います。

 

「災害対策・復興計画にはいまだ縦割り行政の影響が強く、包括的、横断的に行われているとはいえない。災害が起きてからでは遅い。平常時から、自治体や｣医師会と市民の信頼関係を構築しておく必要がある。その際、求められているのは地域住民、特に女性たちが自らも公共の担い手として、災害に強い地域社会作りに参加することである」と。

 

橋本先生のお話で心に残ったのは、災害時の深部静脈血栓症（DVT）への対応についての報告です。

 

「熊本地震では、日本循環器学会が支援の窓口となり、同学会や日本臨床衛生検査技師会などから多くの医師や技師が参加し、熊本市民病院の医師・技師・看護師を中心とした熊本のメンバーと共に検診が行われました。

4月21日に県庁で『日本循環器学会専門チーム「エコノミークラス症候群」予防活動に関する打ち合わせ』が開催され、熊本地震血栓塞栓症予防プロジェクトが始動しました。エコー機器や男性ストッキングの窓口・集積場所は熊本市民病院が行い、command and control(指揮と統制)の中での医療支援が行われたのです」と。

 

今後、災害時には、熊本のケースがモデルとなり、一歩進んだ災害医療が行われると実感しました。

 

性差医療情報ネットワーク　理事長　天野惠子

（静風荘病院　女性外来特別顧問、松戸市民病院　女性特別外来医師）

 http://www.seifuso.or.jp/shinryo/joseigairai

https://www.city.matsudo.chiba.jp/hospital/kakkyokusinryouka/kakusyuiryo/joseitokubetsugairai.html