女性外来の診察室から

No.16 信州における性差・女性医療の取組(1)

東京女子医科大学東医療センター准教授 片井みゆき先生の寄稿です。

長野県に女性専門外来が誕生し、今年で12年の月日が経ちました。

ここでこれまでの歩みを振り返ってみたいと思います。

信州における性差医療の幕開けは、2003年に長野市民病院に女性専門外来が設置されたことから始まりました。当時設立された他都道府県の女性専門外来と同様、県議会や市議会からの要請を受けてのスタートでした。

 

その後、信州大学医学部附属病院に女性内分泌外来、続いて県立須坂病院、松本協立病院、上条医院、厚生連小諸総合病院、辰野町立病院など長野県内各地に女性外来が立ち上がりました。担当医の専門分野も病院によって異なり、内科、内分泌内科、循環器内科、心療内科、精神科、産婦人科、形成外科など多様性があり、それぞれ特徴を持った女性診療を展開していました。

 

誰にとっても初めての取り組みでしたので、女性外来を担当する医師達が病院の枠を超え休日や夜間に集まり何度も性差医療や女性診療についての勉強会を開催しました。もちろん、性差医療の先駆者である天野恵子先生にも講演にお越しいただきました。信州は北から南まで広く、車で何時間もかけて参加する医師もいました。

専門分野が違う医師達で、性差という新しい視点から女性の疾患について学び意見や知識を交換し合う経験は本当に刺激的で、互いに目からウロコの連続でした。それが後にNAHW 信州支部の核となり、年1-2回の講演会を開催し続け現在に至っています。

 

最初に設立された長野市民病院女性専門外来は、一般内科、内分泌内科、婦人科、精神科の4人の女性医師と専任看護師が配属され、当時の本間院長の後押しもあり手厚い体制で始まりました。予約電話を受ける曜日と時間帯を定め、ベテランの看護師長が受診希望者の話を聞きトリアージ(編者注:優先順位を決定する)を行いました。

受診希望者が多く、通常2-3カ月待ちという状況でしたので、それまで受診を待っていていいのかあるいはまずは他科を受診する方がよいのか、女性専門外来を受診するならどの担当医がよいのかなどをトリアージしました。その選別が的確だったため、患者・医師の双方から満足度の高いものとなりました。また、看護師が単なる予約だけではなく訴えを親身になって聞くことで、なかには話を聞いて貰ったことで満足し診察せずとも問題が解決したという方も居ました。

 

また、2006年5月-2007年4月の1年間にわたり、長野県で最も広く読まれている信濃毎日新聞の日曜版に「ようこそ女性専門外来へ」というコラムを毎月1回掲載させて頂きました。

この記事はA4版程の大きなスペースで、長野市民病院女性専門外来の様々なシーンのカラー写真も入り目を惹くものでした。この記事が掲載された翌日は同じ症状を主訴に県内の病院を受診する女性が増える現象が起きた程で、私も執筆者として張り合いと共に責任を感じたものです。 

 

 その後12年の間には各病院の女性専門外来で担当医の異動やライフイベント、病院側の経営方針などもあり、現在は女性専門外来を行っているのが長野市民病院だけとなりましたが、メンタル科の轟慶子先生と内科を私が担当し、女性のこころとからだを両面から診る診療を行っています。

 

信州大学医学部では2003年から性差医学の講義を導入して来ましたが、最初に講義を受けた学生達も今や卒後10年目の医師となりました。講義の詳細は次回に紹介させて頂きますが、信州では女性専門外来にとどまらず一般診療にも性差医学の視点が浸透して来たのではないかと感じています。

 

東京女子医科大学東医療センター 性差医療部准教授 日暮里クリニック女性専門外来部長 

NAHW信州支部長 片井みゆき

http://www.twmu.ac.jp/DNH/department/genderbased/

長野県南佐久郡 白駒の池の紅葉

白駒池紅葉

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