女性外来の診察室から

No.10 ME/CFSの名称をめぐる混乱

注:ME/CFS :筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群 myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome

千葉県立東金病院で女性外来を担当して6年目、外来へ「私は慢性疲労症候群ではないか」と20歳の女子学生が受診されました。私の最初の慢性疲労症候群患者との出会いでした。

千葉県立東金病院で女性外来を担当して6年目、外来へ「私は慢性疲労症候群ではないか」と20歳の女子学生が受診されました。私の最初の慢性疲労症候群患者との出会いでした。

この方を鹿児島大学循環器内科の鄭忠和教授に送り、半年間、和温療法をやっていただいた結果、著明な改善を見たことが、私に「治療法がないと言われる重症慢性疲労症候群患者に和温療法が有効である」と確信させました。

 

ME/CFSは、これまで健康に生活していた人がある日突然原因不明の激しい全身倦怠感と共に、微熱、頭痛、筋肉痛、脱力感、睡眠障害、思考力の障害などの症状を呈し、その症状が長期にわたって続くため、健全な社会生活が送れなくなるという病気です。

ME/CFSは、いまだ日本の医療者における認知度が低いため、正しい診断を得られぬまま患者さんが病院をたらいまわしにされた挙句、寝たきり状態になることも少なくありません。

 

1984年から86年にかけて、アメリカのネバダ州において集団発生したことで、この病気は世界的に知られるようになりました。

1988年に米国疾病対策センターの主催で開催された国際会議では、この疾患の病態について最も分かりやすい病名として、「慢性疲労症候群:chronic fatigue syndrome」という病名が選ばれ、日本でも長い間この病名が使われてきました。しかし、この病名については、疲労が単に続いていることを示すような印象を与え、この疾患の真の重症度が伝わらないなどの理由により、多くの患者・医師がこの病気の早期の病因・病態の解明と、それに基づいた病名の設定を望んでいます。

 

一方、イギリス、カナダ、オーストラリア、ノルウエーでは、この疾患は「筋痛性脳脊髄炎:myalgic encephalomyelitis」と呼ばれており、2011年には、13カ国の臨床医、研究者、大学の教員、独立した患者の権利擁護団体から成る国際的合意形成のための専門委員会による「筋痛性脳脊髄炎のための国際的合意に基づく診断基準」がjournal of internal medicineに発表されました。そこには「筋痛性脳脊髄炎は、複雑で広範な機能障害を伴う後天性神経系疾患であり、その病態は細胞のエネルギー代謝およびイオン輸送障害を伴う、神経、免疫、および内分泌系の病的調節障害であると考えられる」と記載されています。

 

最近では、ME/CFS患者における脳の異常がPETやMRIによって確認されたという報告も相次いでいます。

このような呼称の違いがある中で、突然2015年2月、米国の医学研究所Institute of Medicine(IOM)から、ME/CFSという呼称はやめ、「systemic exertion intolerance disease (SEID)」としようではないかとの報告が出されました。

CFSという病名は、この疾患の正しい理解の妨げとなっている、身体的、認知的、感情的、いずれの行動も患者の複数の器官における機能の悪化をもたらす状態にふさわしいのはsystemic exertion intolerance diseaseであるとの理由が述べられており、同時に新しい診断基準の提示もなされています。

 

まず、必須の3症状

1.これまで健康に生活していた人がある日突然原因不明の激しい全身倦怠感に

襲われ、通常の生活が困難な状態にあること。

2.活動後の激しい疲労感

3.睡眠によって疲労が回復しない

 

加えて、下記の2つの症状のうち1つ以上があること。

1.思考力・記憶力などの障害

2.起立不耐症

 

しかし、このIOMからの診断基準には多くの医師が反対を唱えています。これではあまりに多くの症例を拾うことになり、病因解明の妨げになるということが一番大きな理由です。

今後この提言をめぐってどのような決着がなされるのか注意が必要です。

 

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に関する参考ホームページ

http://www.fuksi-kagk-u.ac.jp/guide/efforts/research/kuratsune/

https://mecfsj.wordpress.com/

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