女性外来の診察室から

No.7 心身一如を忘れない医療を。

千葉県立東金病院で女性外来を開始した当初は、器質的疾患(*1)で見落とされている症例を丁寧な問診と診察で救い上げることを目指しました。

千葉県立東金病院で女性外来を開始した当初は、器質的疾患(*1)で見落とされている症例を丁寧な問診と診察で救い上げることを目指しました。

 

平成13年9月から平成14年8月までの288名の分析では、受診者の年齢分布では、40歳から50歳代の受診者が67.4%を占め、症状分類としては、不眠、いらいら、抑うつ、のぼせ、ほてり、発汗、頭痛、肩こりなどの更年期による症状や精神症状が主体で、疾患分類でも、更年期障害42.9%、精神疾患14.5%、婦人科疾患13.1%でこれらの3分類で70%以上に達しました。

 

松果体腫瘍、脳下垂体腫瘍、甲状腺機能低下症、微小血管狭心症、線維筋痛症、慢性疲労症候群など他の医療機関で見逃されていた症例や、女性外来で始めて治療法が提示されることとなった疾患もありました。

 

2004年に東京大学医学部学生のクリニカルクラークシップ(*2)の一環として行われた女性外来フォローアップ調査では、女性外来に何が求められているのかを知る上で、多くの情報を得ることができました。調査の中で、私にとってもっとも衝撃だったのは、32名の患者に対して行われたインタビューの記録でした。記録には、医師・看護師が把握しきれていなかった真実が語られており、大いに勉強になったのです。

例えば以下のような記録が残っています。

 

Aさん(更年期障害)が千葉県立東金病院の女性外来にたどり着くまでに経験したつらい時期のこととして語られた記録:

 

『それまでは、つらく、今にでも楽になりたい、死ねたら楽になるなどと考えていた。なんにでも無欲になり、ぼーっとし、人の話も上の空でしか聞けなかったり、また、時に人の言葉が「ナイフのように突き刺さり」深く傷ついたりすることもあった。

そのようなときには悩んで眠れなかった。他人に対しても冷たく当たってしまう。夜は、特に疲れているので、他人に会いたくなくなるし、電話にも出たくなくなる。車を運転していたあるときには、赤信号で待っている間に急にイライラしだした。発信したい衝動に駆られる自分を抑えるのに必死で、汗もだらだら流れ出てきた。また、別のあるときには、コンサートの2階席に座っていた。しかし「もう1人の自分が飛び降りそう」な気が起こり、椅子に必死にしがみつかなければならなかった。無気力な状態にあることを家族や友人などの周りの人に話してもわかってもらえず、理解してほしいと言うストレスとなる。更年期以降の女性だけが分かってくれる。

夫は「職場で同じ年齢の女性は元気に仕事している」といい、単に「ずるしてる」のではないかと疑う。このストレスからお茶碗を投げつけたこともある。』

 

この記録を読みながら、“本当に更年期障害というのは何でもありだな”と深く納得し、それ以降は「他に気になることはありませんか、よく眠れますか、イライラ、くよくよすることはありませんか、何か不安に覚えることはありませんか」とそれとなく精神症状について聞くことが多くなりました。

 

心身一如(しんしんいちにょ)。

心と体は裏表、医療においても決して両者を分けて考えてはならないことを痛感させられました。

 

 (*1)器質的疾患(きしつてきしっかん)とは、内臓や神経、筋肉、器官といった各組織において病理的・解剖的な異常が生じた事により引き起こされる疾患・疾病の総称。対義語は、機能的疾患。

 (*2)クリニカルクラークシップ(clinical clerkship)とは、従来の見学型臨床実習とは異なり、学生が医療チームの一員として実際の診療に参加し、より実践的な臨床能力を身に付ける臨床参加型実習。

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