天野理事長ブログ&スケジュール

2018.01.05

再確認された“女性のLDL-Cと冠動脈疾患の関係にJ-カーブ”

佐賀県 ニコークリニック院長 田中先生の投稿です。

 

※ 201801 NAHW コラム吹田研究(九州 田中先生) 以下の文中の図表はこちらをクリックしてご覧ください

 

日本動脈硬化学会は動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版を発表、今回の改訂でも、これまで通り、学会の“情報操作”ぶりが発揮されました。

 

改定の主役となった吹田研究では、19899月~19943月に国立循環器病センターで定期健診を受診した30796485人のうち冠動脈疾患や脳卒中の既往、75歳以上、脂質低下薬の服用などを除いた男性2169人、女性2525人を対象に11.9年間追跡を行い、心筋梗塞80人(うち確診41人、心筋梗塞の可能性39人)の発症が確認されました(男性58人、女性22人)。

 

本研究ではLDL-Cの高さ別に5分位(Q1~Q5)に分けてリスク性を評価。

まず男女別の背景ですが、男性では平均年齢や高血圧、糖尿病の合併率にあまり差はありませんが、女性では別表(1)のように、平均年齢はQ1LDL-Cが最低)では45.5歳と若いのに対し、Q5LDL-Cが最高)では57.8歳と12歳以上も年上です。

 

当然、高血圧の合併も12.8%に比べ37.8%と高く、糖尿病も1.5%に比べ4.7%と高くなっています。

LDL-Cは、女性では更年期以降に大きく上昇するため、LDL-C値のリスク性を評価するにはLDL-Cが安定する55歳以上がベストと考えていますが、吹田研究では若い女性もエントリーされたため、これではコレステロールのリスクか、年齢のリスクかわからなくなってしまいます。

 

一方、肝心の心筋梗塞の発症はQ1+Q2から6人、Q3+Q4から3人、Q5から13人発症し、LDLコレステロールと心筋梗塞の発症との関係にはJ-カーブが見られました(図1)。

 

その後、2014年に吹田研究について発表されたJ Athero Thrombによると、いつのまにか冠動脈イベントは213例に増えていました。

結局、心筋梗塞だけでは症例数が少なかったため、冠動脈インターベンション、冠動脈バイパスなどの症例が追加されたのです。

つまり、心筋梗塞以外の133例は冠動脈ステント留置術などが主体で、その他は冠動脈バイパス術と思われます。男女別のイベント数は確認できませんが、総コレステロールと冠動脈イベントとの関係ではやはりJ-カーブが確認されました(図2)。

 

さて、2007年に発表されたCOURAGE試験の結果、安定狭心症に対して、冠動脈に有意狭窄があるというだけでPCIを行っても予後は改善しないことがわかり、米国での待機的PCIは急減しています。ということは、心筋梗塞より多いと思われるPCI症例の中には、PCIが不要であった例も含まれるはずです。

 

かつてシンバスタチンの観察研究であるJ-LIT研究でも確認されたJ-カーブが、今回再確認されたにもかかわらず、吹田スコアには全く反映されず、女性はマイナス7ポイントでのみ処理されました(表2)。いかにも情報操作の意図がうかがわれます。つまり、そこには真実を隠そうとする学会の姿勢が改めて浮き彫りになりました。

 

NAHWの会員の方で“女性ではLDLが低くなるとかえって心筋梗塞が増える”ことに対し、どんな機序が考えられるか、ご意見があれば下記のメールアドレスにお知らせください。宜しくお願いします。

nikoc@po.saganet.ne.jp

 

ニコークリニック 院長 田中裕幸   http://www.niko-clinic.or.jp/

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