今回は石川県立中央病院 女性外来を担当していられる整形外科医 島貫景都先生からの投稿です。
私はこれまで整形外科医として19年間診療してきましたが、縁あって2020年から女性科外来を月に1回担当することになりました。私が女性科外来に興味を持つきっかけとなったのは、自身が産後の不調を経験したからです。もともと運動が好きで、体力には自身があり、出産するまでは疲れを感じることがほとんどありませんでした。しかし、長男、次男を年子で出産し、産後2ヶ月で仕事復帰した際に人生で初めて体の不調を経験することになりました。常に倦怠感があり、すぐ疲れる、元気が出ない・・・。最初は授乳や睡眠不足が原因だから、いつか自然に治るだろうと思っていたのですが、徐々に手術中に動悸や発汗で気分が悪くなることが続き、どこか悪いのではないかと思うようになりました。同級生の内科医に相談したところ、内科的な疾患というよりは産後のホルモン変化による症状ではないかと言われ、なるほどと納得したのを覚えています。まさに、更年期障害に近い状態だったと思います。その後は一緒に働く整形外科の上司や同僚に自分の体調について正直に話し、サポートしてもらいながら働くうちに徐々に改善していきました。この体験をきっかけに、女性ホルモンや女性ホルモンに影響される整形外科疾患に興味を持つようになりました。
整形外科にも沢山の女性が訪れます。更年期女性の腰痛や肩こり、しびれ、関節痛だったり、乳癌でホルモン療法を行う女性が手のこわばり、関節痛を訴え、当科へ紹介されることもあります。また、エストロゲン低下によって起こる疾患の代表である閉経性骨粗鬆症の女性を大勢治療しています。そのような患者さんを診療しているうちに、整形外科の私でも悩める女性のために出来ることがあるのではないかと思い、女性診療科の上司に相談したところ、月一回ではありますが診療することになりました。
コロナ禍で女性科外来を受診する患者数が減っているため、診察した患者さんはまだ10人ほどですが、既に女性診療科の難しさを感じています。私が診察した患者さんのほとんどが不定愁訴であり、いろんな科を受診したが異常がないと言われ困っている方々でした。内科経験もない私は、話を30分、長いときはそれ以上傾聴し、結局は婦人科や心療内科に紹介することしか出来ません。こんな振り分け係のような診療で良いのか悩んだこともありましたが、ゆっくり話を聞いただけで表情が和らぎ、少し前向きな気持ちで診察室を出ていく患者さんをみると、心のケアも治療の1つなのかなと思うようになりました。Narrative-based Medicineという考え方が女性科外来には重要ではないかと思います。つまり、患者さんの対話を通じて病気になった理由や経緯から、病気の背景や人間関係を理解し、患者さんの抱えている問題に対して身体的、精神的・心理的、社会的にアプローチしていこうとする臨床手法です。もちろんEvidence-based Medicineが基本ですが、女性科外来に来られる方は、複雑で繊細な悩みや苦しみを抱えている方が多い印象がありますので、検査結果だけではなく、従来の問診(対話)と身体診察を大切にしていきたいと思います。そして、他科の先生とも連携し、女性が安心して心と体のケアを行い、家庭や職場で活躍出来るようにサポートする存在になりたいと思います。
また、整形外科診療で脆弱性骨折を多く治療する中で、受傷前から骨粗鬆症の治療をしている患者さんが非常に少ないことを実感しているため、女性科外来で比較的若い方の骨粗鬆症を早期発見し、骨折を起こす前に治療を推進していきたいと思います。
Copyright © 2014 Japan NAHW Network. All Rights Reserved.