2019.04.12
日本国内での『向精神薬の長期処方に関する潮流』について(2)
国立関門医療センター 循環器内科 女性総合診療センター 早野 智子先生の投稿です。
前回に引き続き、先日開かれました「向精神薬*の長期処方に関する研修会」での内容をもとに、講師:若林祐介先生の許可を得て、あと2回にわたりコラムを執筆させていただきます。
講義では、『ベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZD)の頻用からいかに離脱するか』がテーマでした。若林先生にご許可をいただき、このコラムに講義のエッセンスを掲載させていただきたいと思います。
すでにNAHW会員の先生方にはご承知のことも多いかと存じますが、以下の内容を、おさらいとしてご一読いただければ幸いです。
ご存じのとおり、これまで日本国内では日常診療中にベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZD)の頻用がみられがちでした。
化学式上、ベンゾジアゼピン骨格をもつこのグループの薬剤は、抑制系の神経伝達物質GABA(r-アミノ酪酸)Aの受容体に作用して、GABAの抑制機構を増強します。そして得られる作用には、
催眠、抗不安、筋弛緩(→転倒のリスクに要注意)、抗痙攣(→痙攣重責発作時にはジアゼパムが有用)、呼吸抑制(→過剰摂取時にリスク+)、健忘(→前向性の健忘)
などがあります。
このように副作用が多いBZDは、以前から国際的に推奨されておらず、日本以外では、使用を禁止・制限している国々が多い現状です。
一方で日本の臨床現場では、BZDに即効性がある製品が多く、安価で規制も緩いため、患者さんの訴えにてっとり早く対応する薬として乱用されがちであった歴史があります。
BZDは大きく抗不安**薬(安定剤)と睡眠薬の2つに分類できますが、どちらにも作用・副作用上の共通点が多く、注意点も同じです。抗不安薬は、気分障害、不安障害、パニック障害などの不安症状を伴う疾患が対象となるため、主に日中に使用することが多いです。一方、睡眠薬は就寝前以外の用法はなく、日中には使用しません。
<**不安=抗不安薬の不安とは、対象のない漠然とした不安を指します。>
今後、日本国内全体で、具体的にBZDからの離脱を目指していく上で、大切なポイントが講義中にいくつか指摘されましたので、講師の許可のもと、次に記載します。
●近年の抗不安薬(BZD)のトレンド:
・各種ガイドラインでは、不安症状は抗うつ薬(SSRI)を推奨することが多い。
<SSRI=選択的セロトニン再取り込み阻害薬>
・ただし、SSRIに即効性はないので、効果発現まで時間はかかる。
・耐性・離脱・依存性を生じやすいのはBZD。
・特に高齢者では眠気・筋弛緩作用による転倒・骨折リスクに注意して、BZDの処方を制限すること。
●抗不安薬(BZD)の減量の仕方:
・漸減が基本だが、適切な減量率を示唆するエビデンスはない。
・半減期が長いほうが離脱症状は緩徐。
よって、半減期が短い薬剤から長い薬剤に切り替えてから減量すると減量しやすい可能性あり(1例:ロフラゼブ酸エチル 半減期120時間前後と最長)。
(参考出典:精神医学 2018年Vol.60 No.9 ほか)
以上、箇条書きとなりましたが、日常診療のひと場面にでもご参考いただけましたら幸いです。
国立関門医療センター 循環器内科 女性総合診療センター
早野 智子
https://kanmon.hosp.go.jp/bumon/junkankinaika.html