第1回九州支部セミナー

2010/04/23

  • 九州

第1回九州支部セミナー

日時:2010年5月29日(土)
場所:熊本全日空ホテルニュースカイ
共催:株式会社ツムラ
後援:熊本県医師会・熊本市医師会・熊本県薬剤師会・熊本市薬剤師会

【司会】ニコークリニック院長田中裕幸先生

【開会の挨拶】春日クリニック院長清田真由美先生
【教育講演】17:10~18:00
座長:大分大学医学部臨床検査診断学診療教授中川幹子先生
演者:熊本大学大学院生命科学研究部薬物治療学教授中川和子先生
演題:『副作用発現における性差~
人間ドッグ受診者5,000名の副作用調査と医療用漢方製剤の安全性試験に基づく検討』
【特別講演】18:00~19:00
座長:鹿児島大学大学院循環器・呼吸器・代謝内科学教授鄭忠和先生
演者:性差医療情報ネットワーク理事長静風荘病院特別顧問天野恵子先生
演題:『性差医療における現状と展望』
【閉会の挨拶】佐賀大学医学部循環器内科准教授河野宏明先生

講演風景

 抄録

【教育講演】
「副作用発現における性差~
人間ドッグ受診者5,000名の副作用調査と医療用漢方製剤の安全性試験に基づく検討」
中川和子先生(熊本大学大学院生命科学研究部薬物治療学教授)

1)個別化薬物治療の現状
薬剤の奏効率は解熱鎮痛剤で80%、うつ病、喘息、不整脈、糖尿病で60%、片頭痛、リュウマチで50%、アルツハイマー病30%、腫瘍25%と差がある。それは遺伝因子である薬物代謝酵素、トランスポーター、受容体に個体差があるからであり、環境因子として、併用薬、年齢、性別、食事、飲酒、体重、日内リズム、コンプライアンス等が関与しているからである。
2)人間ドッグ受信者における副作用調査
薬物副作用による死亡が確認された数は、米国が年間4~10万人、英国1万人、日本1200人である。米国で1997年から2000年に市場撤退した医薬品10品目中8品目は、女性に重度の被害が多発していた。
演者が人間ドッグ患者(健康成人)対して問診形式で行った結果得た約5,000名の結果を解析したところ、副作用の発現頻度には性差があり、全有害反応既往頻度(オッズ比2.4)、重症例の頻度(オッズ比2.6)、容量依存度性有害反応既往頻度(オッズ比2.4)と女性に副作用が頻発していた。薬物動態、薬力学の性差が解明されてきつつあるが、まだ、薬効や、有害反応に関する性差の検討、情報提供、用量調節などが行われていくべきである。

3)医療漢方製剤の安全性試験
漢方製剤は臨床上幅広く使われ、他の薬剤とも併用されている。桂枝茯苓丸について、健康成人ボランティアを用いて6つの代謝酵素の活性を測定した結果、桂枝茯苓丸の一般的な使用量において、薬物相互作用の危険性は低いと考えられた。ただし、エストラジオールとの併用に当たっては、臨床的に注意深く確認する必要がある。
4)薬育健康フロンティアセンター
個別化医療の実現に向けては、生活習慣病の発症からイベント発生までの病態を一貫して検討する、臨床.基礎薬学と臨床医学の共同研究が必須である。

【特別講演】
「性差医療における現状と展望」
天野恵子先生(性差医療情報ネットワーク理事長、静風荘病院特別顧問)

1)米国における性差医療
性差医療とは、男女比が圧倒的にどちらかに傾いている病態、発症率はほぼ同じでも男女間に臨床的に差をみるものなどに関して研究を行い、診断、治療、予防へ反映させていくことを目的としている。1957年ジャーナリストBarbaraSeamanは緩下剤が母乳を通じ乳児の容態を悪化させた事例を経験したことで、マニュアル医療に疑問をもち、その後、女性を守る運動へと発展させ、ピルの乱用にも警鐘を鳴らし、1975年theNationalWomen’sHealthNetworkの創設に尽力した。1977年FDAは「妊娠の可能性がある女性を薬の治験に参加させないこと」との通達を出した。1990年NIH女性所長のBernadineHealyはNIHの中にfficeofResearchonWomen’sHealth(ORWH)を開設、1991年theWomen’sHealthInitiativeプロジェクトが立ち上げられた。WHIでは健康な閉経後女性においてホルモン補充療法(HRT)と冠動脈疾患リスクの関係が検討されたが、経口エストロゲンとプロゲステロンの併用ではリスクを上昇させたため、2002年予定より3年早く試験は中止された。しかし、その後の研究で、試験開始時の背景因子の問題点が数多く指摘されている。現在、ORWHが支援する研究分野は心血管系疾患だけでなく、関節炎、内分泌系/糖尿病、痛み・痛覚などの他、多岐にわたっている。その結果、2002年以降、性差医療関連の論文掲載が米国心臓協会の雑誌CirculationやAJP-EndocrinologyandMetabolismなどで急増している。
2)わが国の現状と今後の展望
2001年鹿児島大学鄭忠和教授のご尽力により、わが国で初めて女性外来が開設され、その後、山口大学にも開設された。現在、東京女子医科大学付属女性生涯健康センターは、メンタルケア科、皮膚科、婦人科、内科、漢方、小児科などの他、リハビリメイク外来なども行い、女性総合外来として機能している。性差の大きい疾患として、女性に多いのは甲状腺の病気、自律神経失調症、関節リウマチ、関節症、肩こり症、骨粗鬆症などがあり、特異的なものとして更年期障害がある。また、千葉県基本健診データ収集システム確立事業によると、BMIや収縮期血圧値は加齢により性差が消失するのに対し、総コレステロールやHDLコレステロールでは明らかな性差が生涯に渡って認められた。これらの現状を踏まえ、今後わが国にも性差医療が定着し、診断、治療、予防に反映させることができれば幸いである。

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