第2回九州支部セミナー

2011/04/08

  • 九州

第2回九州支部セミナー

日時:2011年5月21日(土)
場所:鹿児島県市町村自治会館
共催:株式会社ツムラ
後援:日本医師会・鹿児島県医師会

【司会】ニコークリニック院長田中裕幸先生
【開会の挨拶】九州歯科大学顎口腔欠損再構築学分野松木貴彦先生
【教育講演Ⅰ】17:10~17:30
座長:春日クリニック院長清田真由美先生
演者:大分大学医学部臨床検査診断学診療教授中川幹子先生
演題:『女性外来と漢方治療』
【教育講演Ⅱ】17:30~18:00
座長:鹿児島大学大学院循環器・呼吸器・代謝内科学特任助教嘉川亜希子先生
演者:佐賀大学医学部循環器内科准教授河野宏明先生
演題:『女性の狭心痛の特徴』
【特別講演】18:00~19:00
座長:鹿児島大学大学院循環器・呼吸器・代謝内科学教授鄭忠和先生
演者:同志社大学大学院生命医科学研究科アンチエイジングリサーチセンター教授米井嘉一先生
演題:『アンチエイジングのすすめ~男女の良いとこ取りを考える~』

講演風景

抄録:
【教育講演Ⅰ】
「女性外来と漢方治療」
中川幹子先生(大分大学医学部臨床検査診断学診療教授)

1)九州と女性外来
九州地区は女性外来に対する関心の高い地域である。まず2001年、鹿児島大学病院は国公立病院では全国初の女性専用外来を開設した。熊本の春日クリニック(清田真由美先生)では1999年に更年期女性の会(おりひめの会)を組織し、2003年には女性専用外来を開設している。また佐賀のニコークリニックの田中裕幸先生は2002年に「女性の医療学」を出版され、地域に密着した性差医療を実践している。我々の大分大学病院は2005年に女性専用外来を開設した。
2)女性外来と漢方治療
女性外来に来られる患者さんの特徴は、症状が多種多様でいわゆる不定愁訴が多く、既に複数の病院を受診し器質的な異常はないと診断されているが、症状が取れず悩んでいる。自分の専門外の症状を訴える患者さんも多く、西洋医学の知識や診断法・治療法だけでは対処できない場合に遭遇する。一方、東洋医学は心身一如の医学であり、かつ性差医学を実践した医療であり、女性外来では大変有用な治療法となる。
私の場合、女性外来患者さんの54%は漢方薬のみの処方、33%は漢方薬と西洋薬の併用、10%は西洋薬のみの処方である。
3)漢方治療の基本的概念と症例呈示
東洋医学の概念の中でも「気・血・水」の概念は合理的で、漢方初心者でも理解しやすく、患者さんの証の決定の際に有用である。症例を呈示しながら、「気・血・水」に基づいた方剤の選択のポイントを紹介する。

【教育講演Ⅱ】
「女性の狭心痛の特徴」
河野宏明先生(佐賀大学医学部循環器内科准教授)

動脈硬化危険因子の性差-特に高血圧―
虚血性心疾患は、欧米では女性の最多の死因である。わが国においても心疾患は、がん、脳血管障害と併せて、女性の全死因の5割を大きく超える。女性の虚血性心疾患は、閉経後に急増する。また、女性の心筋梗塞は男性に比較して重症になりやすいことも良く知られており、近年、女性の危険因子とその管理が注目されている。閉経前女性は、将来の動脈硬化性疾患の発症を減尐させるために、生活習慣の管理に留意すべきである。妊婦に対しても、妊娠中の厳重な体重管理と禁煙を強く奨励し、分娩後も継続することを奨励しなければならない。

KeyWords:動脈硬化危険因子、女性ホルモン、加齢

動脈硬化危険因子
動脈硬化危険因子として、脂質異常症、高血圧、糖尿病、喫煙等が挙げられるが、FraminghamStudyは高コレステロール血症、高血圧、喫煙が特に重要であると報告している。図1は、本邦における急性心筋梗塞に対する危険因子を示したものである。欧米の結果とは多尐異なり高血圧が最も高く、次いで糖尿病、喫煙の順になっている。図2は、危険因子の男女差を示したものである。男性は高血圧、喫煙、糖尿病順である。一方、女性では順位が異なり、喫煙が一位となり、しかもオッズ比が8.2倍と高値である。
続いて糖尿病、高血圧である(1)。このように心筋梗塞に対する危険因子の重要度には性差が存在する。

高血圧
高血圧患者の診察に際し、明らかな原因疾患があり、血圧の上昇がその疾患の症候であるか(二次性高血圧)、または原因が解明されていない本態性高血圧に分ける。
(1)高血圧の原因疾患
二次性高血圧の頻度は、一般外来を訪れる高血圧患者の0.2-2%、高血圧専門外来では5-20%程度である。我が国には、高血圧患者は4000万人いると考えられている。したがって、二次性高血圧患者も決して尐なくない。二次性高血圧患者は年齢によっても異なり、35歳以下の若年の高血圧では二次性高血圧の頻度が高くなる。本態性高血圧は、その原因が除外できた時に診断することが出来る。二次性高血圧は外科的治療で軽快するものも含まれ、本態性とは治療法も予後も異なることから、その鑑別は重要である。
(2)本態性高血圧
高血圧の90%以上を占める本態性高血圧の原因は不明である。血圧は心拍出量と末梢血管抵抗の積によって決定される。一般的に本態性高血圧では血管抵抗が上昇しているのが特徴である。本態性高血圧は主に父親を通して家族的に集積することが観察されており、双生児に基づいた研究から血圧の差の30-60%は遺伝的に決定されると考えられている。この遺伝的因子に加えて食習慣、ストレスによる交感神経への影響、肥満などの環境因子、それに腎性因子が加わり高血圧症となる。
(3)高血圧の性差
学童検診では血圧は男女で学年とともに高くなる。小学生時には性差はないが、中学生になると男性のほうが女性よりも高くなる。我が国の小児を対象とした報告から算出した高血圧判定基準を示す(表1)(2)。身長、体重は小学生時には性差が無いが、中学生になると男子の方が身長、体重ともに大きくなる。血圧値の変化は、この身長、体重の実測値と相関しており、成長の過程と一致していると考えられる(3)。また、24時間血圧計を用いた検討では、初経から閉経にかけて女性の方が男性よりも血圧が低いことが報告されている。この差は若年者ほど大きい(4)。男女間の体格差もあるが、女性ホルモンにも末梢血管抵抗を低下させる作用があることから、その影響も考えられる。閉経以後、女性の血圧は上昇する。更年期の時期には内分泌系の不均衡があり、更年期障害が出現する。これらはカテコラミンの上昇を引き起こし血圧が上昇する。また、急速に体重増加が出現し、Bodymassindexは男性と変わらない状態になり、脂質が変化するなど内部環境の変化も重なり、血圧が上昇し、血圧の性差が消失すると考えられる。高血圧患者は加齢に従い増加する。しかし、その増加の程度には性差が存在する。男性は女性に比較して比較的若い頃から高血圧患者が増加する。一方、女性の高血圧は閉経後に増加する。高血圧は動脈硬化を進展させることは知られている。動脈硬化進展の最初期の変化は血管内皮障害であ
る(5)。造影にて動脈硬化病変を認めなくても、冠動脈内皮機能は加齢に従い低下する(6)。また性差を検討してみると、男性では40歳ころから内皮依存性拡張反応が低下してくるが、女性は50歳頃から内皮依存性拡張反応が低下してくる(7)。このように、男女で内皮依存性拡張反応が低下する分岐点に差が生じている。平均閉経年齢が50歳であることから、やはり女性では閉経後に内皮依存性拡張反応が低下するようである。これはもちろん女性ホルモンの影響はあると思われる。しかしながら、高血圧症も閉経後に増加してくることから、女性ホルモンの低下と内皮機能、および高血圧症の増加が関係している可能性がある。
終わりに
急性心筋梗塞を対象とする大規模研究を連続症例で登録する場合、男女比は7対3または8対2程度となるのが一般的である。したがって、虚血性心疾患は主に男性の病気であるとも言い換えることができる。しかしながら、我が国では社会の高齢化が急速に進行している。女性の平均寿命は10年弱男性より長いことから、高齢化社会の到来は高齢女性社会の到来でもある。したがって、今後、高齢女性の虚血性心疾患は増加することが予想される。虚血性心疾患に代表される動脈硬化性疾患は予防が最も重要である。もし、疾患が発症して冠動脈インターベンションあるいは冠動脈バイパス術など行っても、急性冠症候群は狭窄がほとんど認められない場所のプラークが破綻することによって生じるため、危険因子をコントロールしていないならすぐに再発するのである。したがって、生活習慣の改善こそが疾患の発症の一次および二次予防につながるのである。妊娠前の若い時期から生活習慣の改善を強く指導していくことが将来の動脈硬化性疾患の発症予防に最も効果がある。

表:日本人における急性心筋梗塞の危険因子、表:日本人の急性心筋梗塞危険因子ー男女別ー

1.KawanoH,SoejimaH,KojimaS,KitagawaA,OgawaH,JapaneseAcuteCoronarySyndrome
Study(JACSS)Investigators.Sexdifferencesofriskfactorsforacutemyocardialinfarctionin
Japanesepatients.CircJ.70:513-7,2006
2.日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会偏:高血圧治療ガイドライン2009年版。日本高血
圧学会、東京、2009
3.TaskForceonBloodPressureControlinChildren.ReportoftheSecondTaskForceonBlood
PressureControlinChildren-1987.Pediatrics1987;79:1-25
4.川崎晃一臨床的に健常な日本人の血圧日内変動の基準値設定の試み。血圧モニタリングの臨床。医
学書院1993;181-9.
5.CinesDB,PollakES,BuckCA,etal.Endothelialcellsinphysiologyandinthepathophysiologyof
vasculardisease.Blood1998;91:3527-61.
6.YasueH,MatsuyamaK,MatsuyamaK,etal.Responsesofangiographicallynormalhumancoronaryarteriesto
intracoronaryinjectionofacetylcholinebyageandsegment:possibleroleofearlycoronaryatherosclerosis.
Circulation1990;81:482-93.
7.CelermajerDS,SorensenKE,SpiegelhalterDJ,etal.Agingisassociatedwithendothelial
dysfunctioninhealthymenyearsbeforetheage-relateddeclineinwomen.JAmCollCardiol
1994;24:471-6.

【特別講演】
「アンチエイジングのすすめ~男女の良いとこ取りを考える~」
米井嘉一先生(同志社大学大学院生命医科学研究科アンチエイジングリサーチセンター教授)

「抗加齢医学=アンチエイジング医学」とは健康長寿・QOL向上を目標として、老化メカニズムを追求する学問である。老化にはヒト成長ホルモン(HGF/IGF-1)、メラトニン、DHEA、女性ホルモン、男性ホルモン等のホルモン分泌が大きく関与する。HGF/IGF-1は正常のエネルギー代謝・精神系の活動・タンパク質代謝・脂質代謝・免疫機能の維持において重要な働きを担っている。DHEAはテストステロン、エストロゲン・プロゲステロンなどの性ホルモン、ミネラル・コルチロイド、副賢皮膚ホルモンなどの50種類以上のホルモンの源であり、健康の維持や脂肪の燃焼による筋肉の維持、性ホルモンの安定維持、老化の防止、ミネラルバランスの維持といった重要な働きをするホルモンである。DHEA自体にも、免疫システムを強化して、感染症、がん、冠動脈疾患、あるいは骨粗鬆症の発病率を下げ,血中コレステロール値を低下させることがわかっている。アンチエイジングな生活のためには、①運動。筋肉量を増やし、骨密度を高め、カロリーを消費する。運動はIGF-1、DHEA-sの分泌も促進する。②糖化ストレスを避ける食生活を実践する。心身ストレスを避け、プラス志向で暮らす。➂活性酸素の摂取を減らし(活性酸素は放射線、電磁波、紫外線、喫煙、大気・水質汚染、食品添加物、
精神的ストレスといった様々な要因で発生しやすくなる)、抗酸化作用のある食物やサプリメントの摂取をこころがける。
①~➂が無理な人は「恋」をしましょう。いくつになっても恋をしている人は若く、美しいのです!!

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