女性外来の診察室から

第101回 新年(2024年)のご挨拶

あけましておめでとうございます。



2024年の幕開けは皆様にとってどのようなお正月でしたでしょうか。



1月1日、私は長野県上田市の斎藤ホテルに逗留していました。午後4時すぎ、元千葉県知事堂本暁子さんとおしゃべりをしている時に、大きな揺れを感じました。ゆさゆさと長く揺れる地震に、思わず駐車場をみました。駐車している車に異変はありませんでした。2011年3月11日に起こった東日本大震災の時には、勤務先(静風荘病院)の2階から駐車場を見た際に、駐車されている車がポンポンと飛び跳ねていたのです。「あ、東日本大震災ほどではないな」と思いましたが、テレビをつけるとどの局も能登半島地震を伝えていました。

ウイキペディアによると、この地震は2024年(令和6年)1月1日16時10分に、日本の石川県能登半島にある鳳珠郡穴水町の北東42 kmを震央 として発生した地震で、地震の規模は気象庁マグニチュード7.6、震源の深さは16 km(いずれも暫定値) 。

続いて、2日には、東京の羽田空港で日本航空の旅客機が着陸した直後に海上保安庁の航空機と滑走路上で衝突して炎上し、海上保安庁の乗組員5人が死亡した事故がありました。



2つの大きな生死を巡る出来事に、お正月気分は、すっかり飛んでしまいました。亡くなられた方へのご冥福をお祈りいたしますとともに、被災された方々に一日でも早い復興と笑顔が訪れますように心から願っております。



2024年、NAHWも新しい段階を迎えております。



2023年8月21日の読売東京の朝刊一面、9月14日の毎日新聞朝刊総合面に、「女性特有の健康上の問題に関する研究や治療の司令塔となるナショナルセンターが国立成育医療研究センターの内に創設される。2024年度中の設置を目指し、厚労省は24年度予算の概算要求に、センターの構築費用25億円を盛り込んだ」という記事が掲載されたことに気づかれた方はいらっしゃいますか?

私がNAHWを起ち上げ、全国の女性外来担当医師のためのセミナーを開始したのは2002年です。その時私は60歳。セミナーに参加してくださった医師の方々は、圧倒的に40代の方々でした。大学・国公立病院・民間病院での女性外来の担当を上司から打診され、「女性外来って何?婦人科とどう違うの?」と思われた先生方に性差医療・医学の重要性を知っていただくために、主として産婦人科、内科、精神科・心療内科における性差を考慮した医療、また、治療としての漢方医学の重要性を伝えてきました。一方で、同じく2002年に、私は医療者を中心とした性差医療・医学研究会を立ち上げ、2004年に第1回学術集会を開催しました。研究会は2008年に日本性差医学医療学会に発展し、今年で第17回目の学術集会を迎えます。女性の医療に貢献したい、性差医療・医学を学びたいと言う強い意志を持った先生方により、女性外来はしっかりと成長し、各病院で女性外来を担当されていた先生方からは教授・院長などの要職につかれる方が多数輩出されました。



政府の動きとしては、2003年に、厚生労働省「医療提供体制の改革のビジョン」で、「女性外来を設置し、さらに女性の健康問題にかかわる調査研究などを推進し、女性の患者の視点を尊重しながら地域における必要な医療が充実される体制の確保に取り組む」と明記されました。2005年には、内閣府男女共同参画会議から出された「男女共同参画基本計画第2次」において「生涯を通じた女性の健康支援」が今後の施策の基本的方向と具体的な取り組みの一つとして取り上げられ、「性差に応じた的確な医療である性差医療を推進する」と明記されました。以来、男女共同参画基本計画第3次、4次、5次でも、「生涯を通じた健康の保持のためには、疾患の罹患状況や、健康の社会的決定要因 とその影響が男女で異なることなどに鑑み、性差に応じた的確な保健・医療を受け ることが必要である」と強調されています。

この間の活動においては、ジェンダー研究の先駆者(故)原ひろ子お茶の水女子大学ジェンダー研究所名誉教授ならびに元千葉県知事堂本暁子氏両氏による支援が大きな成果をもたらしたと思います。



自民党は2014年と2016年に、女性の健康支援や調査研究の推進を目的とした「女性の健康の包括的支援に関する法律案」の成立を目指しましたが、いずれも廃案となってしまいました。しかし、成育医療の施策について基本理念などを定めた「成育基本法」が2019年、施行され、これを受け、2023年3月に閣議決定された基本方針には「女性がライフステージごとに、健康状態に応じて的確に自己管理するためのヘルスケアの推進」などが盛り込まれました。時代がやっと性差医療・医学に追いついてきたという感じでしょうか。



新設される「女性の健康ナショナルセンター」に対しては、私がその活動を目標として憧れてきた米国国立衛生研究所(National Institute of Health: NIH) 、中でも女性健康研究局(Office of Research on Women’s Health:ORWH)に負けずとも劣らない実績をあげてくれることを心から願っております。



静風荘病院 女性内科 天野惠子

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