女性外来の診察室から

第99回 「痩せと女性」 〜食べて元気になりましょう〜

さて、皆様のB M I(体重➗身長(m)2)はいくつでしょうか?
「私は太っている」「もっと痩せなきゃ」「体重が減らなくて困る」「痩せている方が、素敵で格好いい」と思っていませんか?
成人の最も長生きできると言われている体重の範囲は18.5~24.9でその中心は 22です。18.5以下はやせすぎ、BMI 25以上が肥満とされています。でも、この総死亡率が最も低かったBMI(以後長生きゾーン)の範囲は、年齢によって異なり、加齢に伴い上昇することは、医療者の間でもまだまだ知られていません。
日本人の食事摂取基準(2020年版) で、「長生きゾーン」の範囲は、18〜49歳では18.5~24.9、ですが、50~64歳では下限が高くなり20.0~24.9, 65歳以上ではさらに高くなり、22.5~27.4で、「ぽっちゃりさん」の方が長生きなのです。
これは、加齢に伴い、身長が低下するため同じ体重でもBMIが増加すること、筋肉自身の変化(霜降り化)があり、筋肉量が保たれるためには、ある程度の体重が必要なことなどが関係します。脂肪も一定量は必要です。消化器症状などで食事が取れなくなったり、感染症で消費エネルギーが増えたりするなどの身体的ストレスがかかった時に、脂肪がないと筋肉が減少してしまいます。また、閉経後の女性ホルモンは脂肪組織でも作られています。さらに、高齢になると転倒の際に、お尻周りの脂肪がクッションとなり大腿骨頸部を防ぐために役立ちます。皮下脂肪や筋肉が少ないと、床ずれもできやすくなるなど、様々なトラブルが起きやすくなります。
図1に性、年齢階級別のBMIの分布を示し、さらに点線で、長生きゾーンを示しています。若い女性では半数近くが、BMI20以下。65歳以上では、およそ50%の人が長生きゾーンより痩せていますね。この痩せが多い傾向は、日本の特徴です。
欧米では、やせによるモデルの死亡などをきっかけに規制が始まり、BMI18以下では、ファッションショーに出られなくなりますが、日本で規制の動きはなくBMI14~16と思われるモデルも多数存在しますし、全体的に痩せていますよね。このことは、若い世代で痩せの増加に関係し、さらには、その後の年代の方を含めて「やせ願望、やせ嗜好」に繋がっていると考えられます。また、男性で問題となることが多い「メタボリックシンドローム」に対する、国を挙げての長年の啓発活動、健診事業も大きく影響していると思われます。
 特に、高齢者ではBMI20以下は栄養障害の疑いあり、として対処する必要があります。もちろん、更年期女性もそのちょっと手前ですから、要注意です。
栄養障害・やせ、は、筋肉量減少+筋力低下または活動量の低下を伴う<サルコペニア>、要介護と健康の中間的状態の脆弱な状態を示す<フレイル>、それらに先んじて診断されることの多い骨粗鬆症とも大きく関連します。


外来のAさん52歳は「疲れやすい」ということで来院されました。
骨粗鬆症の治療中とはいえ、ご主人や友人とイタリアンやフレンチレストランを楽しみ、旅行にもよく出かける活発な方で、BMIは16でした。
握力は17kgで、筋力低下の基準値18kg以下に当てはまり、筋肉量も低下しており、サルコペニアの診断。改めて伺うと、実はレストランのコースはとても食べられないし、旅行に行っても、1日目で疲れてしまい、あまり活動できないといいます。
補中益気湯と六君子湯を1日2Pずつ開始して胃腸機能を応援した上で、
「甘いものや果物でなく、主菜(タンパク源:筋肉、からだづくり)、主食(エネルギー源)、副菜(野菜)のバランスの良い食事を、この優先度でしっかり食べてください。」とお伝えしました。2kg増えたところから、元気になってきたことを実感。「自信も体力もついて、旅行先で、夜も翌日も動けるようになりました。」と、とても喜んでおられます。

特にBMIが20以下のかたでは、2~3kgの増加でかなり元気になる印象です。胃腸虚弱な方では、市販の漢方薬でも良いので、六君子湯(量が食べられない)、補中益気湯(疲れやすい)、半夏厚朴湯(気分が塞ぎやすい)などを、目安に、どれかを1日1包でも試しに始めてみてください。
体重が増加すると、元気になり、自然と活動量、運動量も増加し、さらに食事が取れるようになってきます。

 しっかり食べて、元気でいてくださいね。

東大病院老年病科女性総合外来・アットホーム表参道クリニック 宮尾益理子

図1 性・年齢階級別 BMI の分布
平成 28 年国民健康・栄養調査による。点線四角内が、観察疫学研究において報告された総死亡率が最も低かった BMI の範囲。
日本人の食事摂取基準(2020 年版) 「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

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