女性外来の診察室から

第98回 女性外来の片頭痛診療

先月、「女性専門科の片頭痛診療」というテーマで講演をする機会がありました。テーマを頂いたときは、頭痛を専門に診ているわけでもないのに何を話そう?しかも1時間も?と困惑しましたが、頭痛の患者さんを振り返ることで、当科の頭痛診療が整理できましたので報告いたします。

女性外来の診療スタイルは様々だと思いますが、多くの施設で共通しているのは性差医療に基づいた診療を提供、診療時間の確保(当院は初診30分、再診15分程度)、症状は問わない、という点で当院も開設以来そのスタイルで診療しています。その女性外来の特徴から患者背景を整理すると、①傾聴と共感が必要な患者さん、②女性に多い疾患により頭痛が誘発されている患者さん、③頭痛の病識が乏しい患者さん、という3つの傾向を認めました。多くの患者さんは当科受診前に脳神経外科などで頭頚部の器質性疾患を否定され、薬を処方されています。当科の頭痛診療は語りやすい環境の中で、急性期治療薬でとりきれない痛みの背景を傾聴し、頭痛の原因となるストレスとの距離の取り方、ストレスと共存できる方法を見つけます。また潜在性鉄欠乏症、甲状腺機能低下症、うつ病など頭痛の原因となり得る疾患を確認し、治療します。頭痛以外の訴えで受診された場合や自発的な頭痛の訴えがない場合に頭痛のエピソードを引き出すことも多く、薬剤の使用過多による頭痛を拾い上げることもあります。

患者さんは職場や家族から理解されない辛さや痛みで思うように行動できない辛さを訴えます。具体的には、「薬を飲めば治るでしょ」、「急に休まれると困るから休むときはあらかじめ言って」、「また寝ているの?俺が仕事している間寝てたの?」、「病院通っているのに治らないの?」と言われた。「痛みで思うように動けないストレスから子供に当たる」、「週末など家族で出かけるのが憂鬱、痛みを我慢して行くしかない」、「いつくるのかわからないために予定がたてられない、約束ができない」など片頭痛の辛さを訴える患者さんがいる一方で、「頭痛があるのは普通だと思っていた」、「頭痛は鎮痛剤を飲めばよいから気にしていない」
「月経前後に頭痛がするのは当たり前」と話し、治療するものと思っていない方もたくさんいました。片頭痛は育児、家事、仕事に忙しい20~40代の若い生産年齢人口に多い疾患です。市販の鎮痛剤で痛みを抑え無理を繰り返すことで慢性片頭痛や薬剤の使用過多による頭痛になってしまう方もいます。また片頭痛は障害生存年数の原因疾患では腰痛に次いで2番目にランクされ、健康寿命を損なう大きい要因ですが、約70%の患者は医療機関を受診したことがないという受診率が低い疾患です。

頭痛診療における当科の役割として、1つ目に頭痛の辛さを傾聴・共感しながら頭痛の背景にあるストレスとの付き合い方を一緒に探し、頭痛の原因となり得る認知のゆがみを修正すること。2つ目に鎮痛剤を乱用し頭痛は困っていないと話す患者さん、受診契機が頭痛以外で頭痛治療が必要な患者さんを拾い上げることが挙げられます。今回頭痛診療についてまとめたことで、患者さんの全体像をつかみやすい当科ならではの診療を改めて振り返ることができました。

山梨県立中央病院 女性専門科 縄田昌子


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