女性外来の診察室から

第97回 女性外来での不登校等、思春期前後の診療

産婦人科医としてスタートし、時間に関係なく、状況に応じて妊娠出産期のお母さんたちに寄り添って診療することに意義を感じていた当初から30年以上経ちました。
 子育ては、子どもが小さいときだけではなく、小学校に入ってから、さらに思春期になってからが、課題が大きくなることを、自分の子育てや周囲の忙しい医療職の家庭の状況をお聞きするにつけ、実感していく日々でした。
 岐阜県総合医療センター(当初は岐阜県立岐阜病院)で女性外来を2002年より、2020年3月まで担当させていただいた他、岐阜大学医学部付属病院でも女性外来を2004年より2014年まで担当させていただくなど、思春期青年期の女性の不調や更年期前後のそのお母さんの不調に、女性外来のおかげで、しっかり向き合って診療させていただくことができました。
 現在は夫が院長である、広瀬内科クリニックで、予約制で女性外来を行っています。より地域に密着した患者さんも増え、子ども、母親、祖母と、家族の世代を超えた相談を含めた診療をさせていただくことや、地域の関連諸機関や地元の小・中・高校などとの連携などの経験を積ませていただいております。

 地元にいることで、新聞で発表される不登校生徒の増加ということでなく、肌身で、その増加や低年齢化や、虚弱化や幼さ、基本の生活習慣や学力や人とのかかわり方が身についていないこと、お母さんたちの不安や不安定さなどが、より伝わってきます。

 小学生であっても、大学生であっても、若い社会人女性であっても、朝起きるのが困難、頭痛や腹痛があるなど、体調不良を訴え、登校や出社などが時々難しくなっている女性の問題は、身体と心理面と社会的背景を診ていくわけですが、子どもが小さいほど、また同居しているほど、その母親の心身の状況に大きく左右されます。
 お母さんの診療もさせていただくことで、子どもの状態よりお母さんの方が栄養状態も悪く、貧血も高度で、自覚が少ないが疲労状態が強いことがしばしばみられます。
 お母さんの栄養指導で食習慣が改善し、婦人科的治療や鉄剤等で貧血も改善し、状況によってはピロリ菌除菌なども行って食事が進むようになり、お母さんがお元気になられますと、「元気になる方法がある」という前向きの意識と、子どもに向ける気持ちの余裕ができます。
 お母さんが最初の患者さんのこともあります。その時はご自分の不調だけをずっと話されていたのが、ご自分が改善して元気になられると、「実は子どもが・・・」と、お子さんの健康の不安を話されることもあります。

 お母さんの意識が変わること、よい変化を起こしていくことができると、希望を持てること、これが、不登校などの難しい子どもの課題の最初に必要なことのようです。

 当院では平成26年より、ほぼ月1回、日曜に不登校相談会をしてまいりました。
 現在では、当院で、毎月第2日曜に、「不登校を助ける会」ホーム (futoukou-sien.com)として、社会福祉法人が主体で開催しています。ここの特色は、虚弱系の不登校の子どもたちが、全寮制の学園【寮のあるフリースクール元気学園】 (genki-gakuen.gr.jp)に行き、生活習慣、学習習慣、人とのかかわり方などを、身につけることができて、再出発を果たしている実績のある先生方のお話や相談と、生まれ変わったように元気になった子どもたちの保護者や、卒業生の当事者から、直接話を聞けるということです。
 子どもがなかなか動かなかった辛さなど、当事者であるからこそ、共感でき、またその後の努力の方向性がわかり希望が持てます。元気になっている人たちが今悩んでいる人に元気になってほしいと集まっているので、明るく、温かく、元気をもらえる相談会です。

 医療の中だけでは、2週間や1ヶ月に1回の短い診察やカウンセリング、一側面ともいえる診断名と薬物治療だけでは、時間もどんどん経ち、根本からの改善は難しいのが現状です。しかし、まずは、身体の問題を客観的に把握することはとても大切です。

 目標は、社会に出て働けること、人と一緒にいられること。今の学校にすぐ戻すというだけでは難しいことを親子で受けとめて、お母さんを支え、子どもの困っているところをしっかりお母さんがわかってあげられるようになって、体力を含め、実力をつける方向に向かえるように、身体の把握をきっかけに、目指すべき方向にお母さんが意識を変えていくお手伝いが出来たらと思っています。
                   
広瀬内科クリニック 女性外来 廣瀬玲子

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