女性外来の診察室から

第95回 賢く強い女

女性漢方外来・ペインクリニックと称して診療開始して14年経過しました。更年期障害や慢性痛などすぐに解決できないつらい症状があるとしても、自分に自信を持っていきいきと過ごしてもらいたいと願って診療にあたって来ました。振り返ってみると、確実な変化は患者さんの年齢が私より若い場合が増えた事(つまり私が年をとっただけです)、それにつれて私の姿勢も違って来たのかもしれません。この困難な時代を私より先まで担ってゆく女性達に、より賢く強くあってほしいと思うこの頃です。

このところ、いろいろな事柄の垣根が無理矢理取り払われて、大人も子供も、女も男も、老いも若きも、同じものと扱われようとしているように感じます。海の向こうの国では、子供にも自分の性同一性を判断したり、性交渉を決断して責任を持つ能力があるとされてきていると聞きます。また、男である、女であるというのは、遺伝子で決定していることでは無く、自己申告性で、数年前まで男として参加していた競技に、ホルモン治療を受けると女性枠で参加して、楽々一等賞を取ることができるのだそうです。おかしな世の中になってきたと思うのは私だけではないでしょう。
自分が未成年であった時のことを思い出せば明らかですが、やはり総合的経験値が低く考えが至りません。人生の重大事を正しく決定するには、ある程度の時間を公正に見守り育てる必要があります。経験の浅い者を搾取から守る事は社会の道義であって、そのためには、法律が、刑法が必要でしょう。未成年との性交渉を刑法で取り締まる事は必要だと思います。未成年を性的搾取する事は恥ずべき行いです。
男と女を同じと見なす事が、どれほど自然に反しているか、医者であれば常識です。そのための性差医療であり、女性外来です。性同一性障害は生来の男女の区別の次に来るカテゴリーであって、遺伝子の男女の垣根を乗り越えて、異なる遺伝子の集団に入れ込む事は正しくないと思います。あくまでも、生物学的性別の中の多様性として位置付けるべきでしょう。
私は思春期に自分の性的変化を手放しで歓迎する子供の方がむしろ少ないのではないかと思うのです。誰でもなんらかの葛藤を経て大人になってゆく、それを性同一性の問題にしてしまうのは早急で危険ではないでしょうか。成長過程では往々にして自己否定的になる場合があります。これは成人してからもあり得る事でしょう。これを性同一性の問題にすり替えてしまう事は無いでしょうか。急激に増えているというトランスジェンダーは本当に性の問題なのか、私には一抹疑問があります。
男性性、女性性には社会的に強制された側面があることは確かですが、その基盤には生物学的特性があり、歴史があり、文化があります。歴史と文化を否定せずその発展としての多様性を生み出してゆく賢さを多数が持つ事が大切だと思うのです。急進的に文化をキャンセルするのは残酷な無駄、蛮行である事は歴史が明らかにしています。特に日本においては、自国の歴史の連続性の中で自国民で判断してゆくことが大切ではないでしょうか。私達が往々にしてその寄って立つ根を知らずに真似してしまう西洋文明にはキリスト教の歪んだ性意識が潜んでいて、日本で問題でない事を問題であるかのようにしてしまう危険性があると思います。日本はアメリカともイギリスとも中国とも違う、国境を無くしてしまってどこも同じになった世界なんて面白くも何ともない、タックスヘイブンを利用して、税金を払わずに(唐突ですが日本に税金を納めているところから買いたいものです)各国のインフラを使ってお金儲けをするのに便利なだけでしょう。

ちょっと脱線してしまって、この頃の鬱憤を総浚いしてしまいましたが、どうぞご容赦ください。女性である事に素直に、自分の心身の声をよく聞き、頑なでなく、空間的時間的に幅広い知性を持った、メディアや製薬会社の情報を鵜呑みにしない、しなやかで強い本当の女性が増えて欲しい、と宮沢賢治ばりの欲張りな願いを秘めて、今日も女性外来を続けています。

社会医療法人財団大樹会総合病院回生病院
女性漢方外来・ペインクリニック
野萱純子

上高地明神池

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