女性外来の診察室から

第89回 「女性のための人間ドック」~第63回人間ドック学会に参加して

コロナ禍の中、第63回人間ドック学会が、千葉県の幕張メッセで開催されました。

テーマは「女性のための人間ドック」ということで、会長の佐々木先生から依頼され、「生活習慣病の性差と予防」というシンポジウムを企画いたしました。演者はもちろん天野恵子先生にお願いして、性差医療の歴史や、日本での展開、今後の展望まで広く総論をお話しいただきました。それに続き各論として、河野宏明先生、井川房夫先生、佐久間一郎先生に循環器疾患、脳神経疾患、生活習慣病全般について、ご講演いただきました。
天野先生からの、ご自身の体験を交えた、「50歳になったら、とにかく徹底的に詳しい健診や検査を受けましょう」というメッセージは、とてもインパクトがありました。
河野先生には、生理の周期と連動して胸痛が起こる狭心症症例を皮切りに、女性ホルモンと冠動脈疾患の関連について、井川先生には、日本人女性の脳神経疾患の詳細なデータを中心に、佐久間先生には、様々な生活習慣病リスクに対応した多様な外来診療について、ご自身のクリニックの実例を交えてご紹介いただきました。
朝早い時間帯でしたが、比較的多くの参加者があり、いずれの講演からも、「閉経は予防医学上の大きなリスク」であることが、十分に伝わったと思います。
また、各演者から、性差医療の正しい情報を得るために、NAHWのHPや、性差医学会のHPのアナウンスがあったこと、井川先生から、日本のあちこちで広く行われているMRIデータを集積して、きちんとエビデンスを作ってはとの提案もあり、実りあるシンポジウムになりました。

その他の女性医療に関連したテーマとしては、乳がんや子宮がん予防に関する検診関連のテーマの他に、ワークショップ「これからの女性のスポーツ医学を考える」、井出里香先生の要望講演「女性に健康をもたらす登山」、などスポーツ関連の話題と、「見逃していませんか、女性の睡眠時無呼吸症候群」「脂質異常症・・・性差の視点を踏まえて」 「女性の検査の特徴について」、「女性のためのフレイル予防」、「女性に多い肝臓病」など多彩なテーマがありました。
スポーツ医学のワークショップでは、具体的に、スポーツ貧血や、やせ、骨量への影響、スポーツ活動が女性の健康に及ぼす循環器系機能や、脂質代謝への影響などが紹介されました。
人間ドックの保健指導でも、運動は重要なテーマだと思いますが、アドバイスが難しく、なかなか実践に結びつかないのが悩みです。この頃は、受診者の年代に応じて、骨と筋肉の貯金が大切であることをよくお話ししています。具体的な運動の提案や、運動に伴う注意点をうまくお伝えできれば良いなと思うこともよくあり、登山のお話も興味深く拝聴しました。

佐々木先生の会長講演では、子宮頸がん撲滅のための取り組みについて、三原じゅん子参議院議員との対談が行われ、HPVワクチン接種の推進や、若い女性や、働く女性の乳がん・子宮がん検診をすべての女性が受けられるべく、公的な医療制度の充実を訴える内容でした。ワクチンについては、おりしも先日9価のワクチンの定期接種が決まったとの報道があったところです。

2020年の内閣府の男女共同参画計画には、「生涯を通じた健康支援には、性差に応じた保健医療が必要」なことが盛り込まれ、ここへきてようやく性差医療、女性医療は前進の兆しが見えてきました。これからは、コロナ禍で進みつつあるデジタル化をバックに、大本先生が紹介されたデジタルツインなども利用して、男女それぞれのライフサイクルに応じた一生涯の健康支援が進むことを願っています。
リスクを予測して、未病の段階から予防に努め、母子手帳ならぬ一生涯の健康手帳をダウンロードすれば、どなたにも自分に合った運動の動画や、食事のレシピ、ワクチンや健診のお知らせなどが自動的にくるシステムが出来ればいいですね。

               千葉西総合病院 健康管理センター 小西明美


診察する女医

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