女性外来の診察室から

第85回 2022年春、ある日の診察室より

午前の診療を終えつかの間の昼休憩中、容赦なくピッチが鳴った。この日はよくある薬局からの問い合わせではなく、救命救急センターの看護師からだが切迫感はない。更年期障害で当科に通院している40代の女性が頭痛と過呼吸で救急要請をしたが、救急車に徒歩で乗車できる状況から救命救急センターではなく当科で受け入れてくれないかという話。痛みの不安から過呼吸になったと予測し、ルートを取り経過をみて帰宅と計画しながら待つ。救急隊到着の連絡があり処置室に向かう。電話の情報とは異なり到着時は歩けずにストレッチャーでベッドに移動。痛みと不安で過呼吸になったというより、強い痛みのために呼吸困難になっている様子。すぐにCT室へ運び、検査したところ広範囲のくも膜下出血を認めた。
当科通院中(不定愁訴のイメージ?)、過呼吸発作の既往、徒歩で救急車に乗車、という3つのキーワードで軽症、メンタル、緊急性なし、と判断された症例であった。症例は日中で主治医の勤務時間内であったことからスムーズに搬送され、発症から診断まで1時間弱で早期の治療が可能であった。この症例では救急隊、連絡を受けた看護師、主治医である私も皆が軽症、メンタル、緊急性なしと感じた。夜間であれば、3つのキーワードから救急車の受け入れに相当時間がかかることが予測され、早期治療ができてよかったと同時に夜間だった場合の予後を思い何ともいえない気持ちの1日であった。

その翌日の診察室。4週間前にアイモビーグを皮下注射した片頭痛患者が来院。この方は長い間片頭痛発作に苦しんでおり、レルパックスを月に10~15錠前後服用し、ロキソニンを追加することも多かった。服用しても効果がないこともあり、いつくるのかわからない痛みのために予定をたてられないなど、片頭痛の痛みに日常生活が支配されていた。来室時の表情から効果があったことは読み取れたが頭痛の回数を問う。何となく痛くなりそうな気配から予防的にレルパックスを2回服用したが外出の予定がなければ服用しなかったと返答。その高い治療効果に患者とともに驚き、抗体医薬のすごさを実感した。もっと早くこの治療ができたならこの方の人生は違うものになっていたかもしれないと思うほどであった。
片頭痛は女性に多い疾患で、有病率は男性の約3.8倍、最も高い30歳代女性では約20%、40代女性で約18%と報告されている。当科でも頭痛はめまいについで2番目に多い主訴である。障害生存年数の原因疾患では腰痛に次いで2番目にランクされ、健康寿命を損なう大きい要因だが、約70%の患者は医療機関を受診したことがないというから驚きである。
2021年、20年ぶりに新規予防療法として片頭痛の原因とされるCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)およびCGRP受容体を標的にしたモノクローナル抗体が登場し、当院では11月にアイモビーグが採用された。先月には急性期治療の新薬レイボーも薬価収載され、急性期治療、予防治療ともに新しい時代に入ったと感じている。

印象に残る症例を目の当たりにした2日間を山梨県立中央病院診察室よりご報告いたしました。今後も患者さんの語りに耳を傾け、様々な思いを受け止めながら日々診療していきたいと思います。

山梨県立中央病院 女性専門科 縄田昌子

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