女性外来の診察室から

No.79 新型コロナウィルスワクチン接種前後の抗体検査に見られた性差(たかやま内科クリニック)

雨宮直子 たかやま内科医院院長の投稿です。

新新型コロナウイルスワクチンの追加接種が始まっています。

私の診療所では、昨年4月以降、福岡市の医療従事者、市民に対して新型コロナワクチン接種を行ってきました。それと同時に、主に当院でワクチン接種した希望者を対象に、ワクチン接種前後の新型コロナウイルスに対する抗体を検査しましたので、そこに見えた性差について報告いたします。

具体的には、ワクチン接種前にN抗体を検査して既感染でないことを確認し、2回のワクチン接種完了から概ね1-2か月にS抗体を検査してワクチンによる抗体産生を確認しました。

 

N抗体は新型コロナウイルスのNタンパク質に対する抗体です。

新型コロナウイルスの遺伝子を収めたゲノムはNタンパク質と複合体を形成してエンベロープに包まれています。Nタンパク質は新型コロナウイルスワクチンによって産生されないので、N抗体は感染によってのみ産生されます。

一方、S抗体はエンベロープ表面のS(スパイク)タンパク質に対して産生される抗体です。新型コロナウイルスワクチンの人工合成mRNAには、新型コロナウイルスのSタンパク質を産生する配列が組み込まれているので、ワクチン接種後私たちの体内でSタンパク質が合成され、その抗原に対するS抗体が産生されます。

よって、N抗体を検査することで、これまでの感染の有無を知ることができ、S抗体を検査することによってワクチンによる免疫反応を知ることができます。

検査は、福岡市医師会検査センターにお願いして、ロシュ社のキットを利用してN抗体の定性検査、富士レビオ社のキットを利用してS抗体の定性検査を実施しました。

そしていずれも参考値ですが定量値(N抗体cut off値1.0AU/mL、S抗体cut off値1.0AU/mL)の報告もあります。検査にあたっては、無料というわけにもいかず、検査料程度の料金はいただきました。そのためか、そもそもかかりつけ患者さんが中心だったためか、若年の方のデータが十分に集められなかったのは残念でしたが、興味深い結果が得られました。

協力してくださった217名の全員がワクチン接種後にS抗体が陽性となりました。

接種したワクチンは214名がファイザー社製、3名がモデルナ社製でした。

217名のうち9名(男性4名、女性5名)は既感染でした。未感染の208名(男性94名、女性114名)のうち、統計的に外れ値となった8名(男性4名、女性4名)を除いた方について簡単な解析を行いました。

対象者の年齢は女性17歳~91歳(平均68.7歳)、男性33歳~96歳(平均72.3歳)でした。

2回接種完了から抗体検査実施までの日数は、最短で22日、最長で125日、中央値35日、平均値39.2日でした。S抗体定量値は、最小値1.5AU/mL、最大値339AU/mL、中央値74.45AU/mL、平均値94.6AU/mLでした。結果を表1、グラフ1に示します。

高齢者より若年者のほうが有意に抗体定量値が高く、男性より女性のほうが有意に抗体定量値が高いという結果が得られました。

一般に、免疫力は若年者のほうが高齢者より勝っていると考えられているので、ワクチンによる免疫反応も若年者のほうがよいのでしょう。また、男性より女性のほうが迅速で強力な免疫反応を有していると言われます。多くの自己免疫性疾患が男性より女性に多いのもこのためではないかという見解も示されています。

新型コロナウイルスワクチンの副反応も女性に多いようです。ワクチンによる免疫反応が男性より女性において強い可能性を示唆するこの結果もこれらの情報に矛盾しないものと考えます。

このような免疫反応の違いは、新型コロナウイルス感染において、若年者より高齢者に、女性より男性に、重症者が多いということに何か関係があるのかもしれません。

20代から80代の未感染者14名については、2回接種完了後に日を置いて2回目の抗体検査を行いました。表2に結果を示します。

接種36日後のS抗体定量値が1.5AU/mLと低値であった1名は、接種154日後の検査ではS抗体は陰性化していました。そのほかの13名についても年齢、性別によらず、全員が時間経過とともにS抗体定量値は初回検査の8.2~45.2%まで低下していました。

メディアの中には過剰にこの抗体低下を心配するような報道をしているものもあります。しかし、抗体が減っていくのは自明のことです。ワクチン接種によってS抗体を産生したB細胞だけでなく、T細胞も免疫記憶を獲得しており、ワクチン接種者が感染した時には素早く、強力にウイルス排除が行われるはずです。

ちなみに、当院で抗体検査をしていた70代の方が、家庭内感染でブレイクスルー感染をしました。この方のS抗体定量値は、2回目のワクチン接種27日後に28.5AU/mLと決して高いものではありませんでした。ワクチン接種完了から56日後に感染しましたが、症状は37℃前半の微熱のみで短期間で軽快し、感染31日後(2回目接種87日後)のS抗体は947AU/mLと高値を示しました。二次免疫応答が素早く、強力に行われたものと推測できます。

最後に、既感染9名の結果を表3に示します。9名のうち1名は接種前の抗体検査で既感染であることがわかりました。1名は接種後に抗体検査を希望され、その結果で既感染であることがわかりました。その他の7名は感染から1~17か月後に2回接種を完了しました。

ワクチン接種によって産生されないN抗体定量値は接種前後でほとんど変化がないか、低下していました。一方ワクチン接種によって産生されるS抗体については、接種前の定量値は1.9~111AU/mL、2回接種完了26~49日後の定量値は177~5080AU/mLと未感染者に比し桁違いの数値を示しました。3回目の抗原への接触による反応は強力である可能性があります。追加接種に期待のできる結果と考えます。

昨年末より追加接種を開始しています。今回も接種前後に抗体検査を行う予定です。

速報ですが、70代の女性の追加接種10日後の抗体検査を行ったところ、S抗体がこれまでになく上昇(2回目接種29日後63.7 AU/mL、2回目接種225日後=3回目接種時8.0 AU/mL、3回目接種10日後293 AU/mL)していました。

開業医が細々とやったほんのわずかな症例数の結果ですし、抗体定量値も参考値ですから、この結果から何かを論じることはできませんが、それなりに興味深い結果が得られたのではないかと思っています。

なお、ご協力いただいた方には、個人を特定できない形での発表についてご了承いただいています。

ご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます。

表1.接種完了後のS抗体定量値の比較

グラフ1.S抗体定量値平均値の比較

表2.接種完了後のS抗体定量値の推移

 

表3.既感染者の接種前後の抗体定量値

 

雨宮直子/たかやま内科医院院長

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