女性外来の診察室から

No.77 全身性強皮症にリツキシマブ保険適用へ

本団体理事長 天野先生より女性外来医師の皆様に嬉しいニュースです。

薬瓶と注射器

国立研究開発法人 日本医療開発研究機構(AMED)よりうれしいニュースが発表されました。

https://www.amed.go.jp/news/release_20211007.html

全身性強皮症(女性の罹患率が男性の12倍という性差が極めて大きい自己免疫疾患です)の治療に悪性リンパ腫の患者さんに使われてきた抗悪性腫瘍薬「リツキシマブ」が有効と分かり、国の承認を受けて新たに使えるようになったとの発表です。

AMED「難治性疾患実用化研究事業」の支援と、全薬工業株式会社の支援(治験費用の一部と治験薬の無償供与)を受け、東京大学医学部附属病院治験審査委員会の承認のもと、プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験として実施された多施設共同医師主導治験での結果です。

 

【全身性強皮症とは】

全身性強皮症は指定難病です。皮膚や内臓が硬くなる変化(硬化あるいは線維化といいます)が特徴で、典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と比較的軽症型の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」にわけられます。

前者は発症より5~6年以内に進行することが多く、後者の軽症型では進行はほとんどないか、あるいはゆっくりです。本邦での全身性強皮症患者は2万人以上いると確認されています。男女比は1:12であり、30~50歳代の女性に多く見られます。全身性強皮症はいわゆる遺伝病ではなく、遺伝はしません。しかし、全身性強皮症にかかりやすいかどうかを決定する遺伝子(疾患感受性遺伝子といいます)は存在すると考えられています。

症状としては、レイノー症状(冷たいものに触れると手指が蒼白~紫色になる症状)、皮膚の硬化・色素異常や爪の異常、肺線維症などで、その病因ははっきりとは判明していないものの、3つの異常(1.免疫異常、2.線維化、3.血管障害)が複雑に絡み合って、全身性強皮症という病気になると考えられています。

今回の治療研究の対象となったのは、びまん型全身性強皮症の患者さんです。このタイプの強皮症の場合、発症5~6年以内に、皮膚の硬化の進行及び内臓病変が出現してきます。不思議なことに、発症5~6年を過ぎると皮膚は徐々に柔らかくなってきます。つまり、皮膚硬化は自然に良くなるのですが、内臓病変は元にはもどりません。ですから、発症5~6年以内で、できるだけ早期に治療を開始して、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが極めて重要です。

 

【保険適用承認までの経緯】

この疾患では、これまでは、ステロイド薬や免疫抑制剤が使われていたものの、十分な治療効果を得ることができずにいましたが、東京大学医学部附属病院皮膚科では、長年、強皮症の発症と進行には、白血球の一種であるB細胞が関与していることを多くの研究で示してきていました。

今回、東京大学研究チームは「B細胞が必要以上に活発に働いてしまうことが強皮症を引き起こしている。B細胞除去療法が有効ではないか」との仮説を証明すべく、吉崎歩講師を「自ら治験を実施する者」とする体制で、多施設共同医師主導治験を実施しました。

B細胞を除去する作用を持つ抗CD20抗体製剤「リツキシマブ」は、幹細胞や形質細胞以外のB細胞上に発現するタンパク質であるCD20に特異的に結合する抗CD20モノクローナル抗体で、標的となるB細胞を体内の免疫系とともに攻撃します。

治験では強皮症の皮膚が硬くなる症状と肺線維症の進行が抑えられる傾向が確認されました。この結果を基に、リツキシマブの製造販売元である全薬工業株式会社より強皮症の新たな治療薬として、厚生労働省へ承認申請がされ、2021年9月27日に承認され保険適用されることになったのです。

 

NHAW理事長 天野 惠子 

 

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