女性外来の診察室から

No.66 LDL-Cの値から女性の動脈硬化を予測する(ニコークリニック)

医療法人ニコークリニック 田中裕幸先生の投稿です。
https://www.niko-clinic.or.jp/

 

私の外来には50代以降の女性の高LDL-C血症の方が多く受診されます。

健診データを片手に“更年期以降、LDL-Cが高くなり基準値を超えたのでどうしたらよいか”とのこと。

そこで血清脂質、血中脂肪酸、食事アンケート以外に行うのが頸動脈エコー検査です。

測定法は、総頸動脈の年齢相応の肥厚と頸動脈球部のプラークです。

 

コレステロール値だけに頼るより頸動脈エコーの活用を

日本人のように冠動脈疾患の少ない人種では、欧米人に比べ動脈硬化度が軽いわけですから、コレステロールのみを指標にした動脈硬化予防を行うと、過剰な脂質管理になる可能性が高くなります。

40代ではLDL-Cの上昇が始まりますが、頸動脈エコーを使って動脈硬化の程度をしらべてみても、LDL-Cが高いのに動脈硬化の進行が見られない例が多いのです。

そのため、早期の動脈硬化所見を確認した時点で治療を開始した方が費用対効果はよくなるはずです。

そのため、頸動脈エコーの基準値を設定しています(表1)。

 

当院の高血圧や糖尿病のない非喫煙女性では、頸動脈球部に1.5㎜以上のプラークを認めたのは、45~54歳では33例中わずか1例のみで、55歳から69歳では131例中23例もあり、LDL-C180以上で急増しました(表2)。

そこで、治療対象をLDL-C180以上、頸動脈球部に1.5㎜以上のプラークを認めた例に絞るとより効率的な治療になる可能性があります。

 

10年間の経過観察が出来た例から学ぶ

40代前半、BMI20.5、LDL-C169、HDL-C64、中性脂肪73で頸動脈エコーは問題ありません。

その後、中性脂肪が高くなり、10年後の50代前半にはLDL-C184、HDL-C53、中性脂肪135に、頸動脈エコーでは頸動脈球部に1.3mmのプラークを見つけスタチンを開始しました。

本例では更年期のLDL-Cの上昇以外に、HDL-Cの低下や中性脂肪の上昇が動脈硬化の要因の一つである可能性が示唆されました。

50代前半、BMI16.9、LDL-C169、HDL-C79、中性脂肪64で頸動脈エコーは問題ありません。

その後、LDL-Cは170~212と推移しましたが、中性脂肪の上昇はなく、頸動脈エコーでは総頸動脈の加齢による肥厚のみでプラークはありませんでした。

71歳、BMI20.5、LDL-C153、HDL-C63、中性脂肪99で頸動脈エコーは問題ありませんでした。

この方の場合、10年前から検診でLDL-C150と若干高く、その後もLDL-Cは140~167で推移していました。

つまり、概ねLDL-Cが140~170で推移してもプラーク形成は進まないと考えても良いでしょう。

以上より、動脈硬化の進行にはLDL-Cの値だけでなく、HDL-Cの低下や中性脂肪の上昇が関係していると考えられます。

また、LDL-Cと頸動脈球部のプラークとの関係を調査するには対象を55歳以上に絞る必要があると考えました。そこで55歳から65歳の例について紹介します。

 

55歳から65歳の血清脂質と頸動脈エコー所見

55歳、BMI23.1、LDL-C243、HDL-C85,中性脂肪64で頸動脈エコーでは頸動脈球部に1.8mmのプラークがあり、スタチンを開始しました。

50代後半、BMI22.3、LDL-C220、HDL-C65、中性脂肪168で頸動脈エコーでは総頸動脈の肥厚あり、スタチンを開始しました。

50代後半、BMI22.9、LDL-C210、HDL-C74,中性脂肪89で頸動脈エコーでは頸動脈球部に1.5mmのプラークがありましたが、薬物療法は拒否されました。

食事療法でLDL-C163まで低下しました。

50代後半、BMI19.6、LDL-C182、HDL-C57,中性脂肪185で頸動脈エコーでは問題ありませんでした。

食事療法でLDL-C132まで低下しました。

50代後半、BMI20.0、LDL-C175、HDL-C69,中性脂肪114で頸動脈エコーでは頸動脈球部に1.7mmのプラークがあり、スタチンを開始しました。

60代前半、BMI20.4、LDL-C198、HDL-C61、中性脂肪119で頸動脈エコーでは頸動脈球部に1.8mmのプラークあり、スタチンを開始しました。

60代前半、BMI20.9、LDL-C186、HDL-C68、中性脂肪67で頸動脈エコーでは問題ありませんでした。

60代前半、BMI20.6、LDL-C185、HDL-C92、中性脂肪50で頸動脈エコーでは問題ありませんでした。

65歳、BMI21.6、LDL-C221、HDL-C68、中性脂肪133で頸動脈エコーでは頸動脈球部に1.3mmのプラークがあり、治療希望されず1年後のプラークは1.8mmと大きくなっていました。

 

家族性高LDL-C血症

13歳、BMI19.1、LDL-C218、HDL-C72、中性脂肪107で家族性高LDL-C血症。頸動脈エコーでは総頸動脈0.5mmと若干の肥厚あり、頸動脈球部は0.5mmでした。

大学病院に紹介し、ガイドラインに従ってスタチンを投与し、LDL-C140未満にコントロールしています。

50代後半、BMI23.1、LDL-C271、HDL-C52、中性脂肪98で家族性高LDL-C血症。

頸動脈エコーでは総頸動脈の1.3mmの肥厚と頸動脈球部には1.5mmのプラークを認めたので大学病院へ紹介しました。

家族性高LDL-C血症ではLDL-C250以上、HDL-Cがやや低いのが特徴のようです。

13歳の例も無治療のまま50代になるとLDL-Cは250を超えるはずです。

 

したがって、55歳以上ではLDL-C180前後でプラークが見られるようになり、LDL-C200以上になるとプラークだけでなく総頸動脈の肥厚も見られ、更に、LDL-C250以上になると総頸動脈の肥厚の方が目立つようになるというシナリオを描いています。

 

まとめ

痩せ型の高血圧や糖尿病のない55才~65才の非喫煙女性が受診した際の頸動脈エコー結果を予測する。

  1. LDL-Cが140~159の場合、総頸動脈の肥厚はなく、頸動脈球部に1.5㎜以上のプラークもない。

  2. LDL-Cが160~179の場合、これまでの検診で180以上があったこともある例が多く、注意が必要。通常は、総頸動脈の肥厚はなく、頸動脈球部に1.5㎜以上のプラークの可能性あり。

  3. LDL-Cが180~199の場合、総頸動脈の肥厚はなく、頸動脈球部の1.5㎜以上のプラークに注目。

  4. LDL-Cが200~249の場合、総頸動脈の肥厚と頸動脈球部に1.5mm以上のプラークの可能性高い。

  5. LDL-Cが250以上の場合、家族性高LDL-C血症の可能性が高い。この場合、高HDL-Cにはならない。総頸動脈の肥厚が目立ち、頸動脈球部の1.5mm以上のプラークに注目。

 

以上、更年期以降の高LDL-C血症の患者さんを診る際の参考にしてください。

 

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