女性外来の診察室から

No.64 女性外来の窓 (北海道/時計台記念病院)

時計台記念病院院長・女性総合診療センター長 藤井美穂先生の投稿です。

       思えば今年の1月、中国武漢で新型コロナウィルスの感染がニュースとなり、札幌雪祭りを控えた札幌では、戦々恐々としていました。積雪量不足のため、雪像の大きさと数を減らし、それでも近郊の定山渓から真っ白い雪を大量に大通公園に運んで開催することになっていました。

雪祭りには地元民は参加しないものの、外国人の来札で多くを売り上げる観光都市の宿命で、雪祭り会場の公園の通路には観光客を待つログハウス調の小さな出店がズラッと並んでいました。大通り7丁目角に建つ北海道医師会館の9階理事室のガラス窓から、会場を眺めながら感染が発生しなければいいな、と不安感一杯で見下ろしていたのです。

この頃ホテルで会議があり、地下道を歩いていた時、中国語を話す大きな声が聞こえてきました。まだマスクをつける習慣にない私達は、思わず声の主から離れて避けたことを覚えています。

案の定、1月26日に中国・武漢市から観光に訪れた女性が新型コロナウィルス感染症を発症、同月31日に日本人男性が2人目として発症、以後雪祭りが閉幕後に感染者は急増することになりました。

 

 ダイアモンド・プリンセス号から始まった本州のCovid-19感染3週前の2月から、着任早々の院長の初仕事として感染対策の闘いが始まりました。

2月22日土曜日からの3連休中に看護部長はじめ事務部門を招集し、面会禁止の院内掲示、体温計測、アルコール消毒薬の設置を始めました。休み明け初日に院内感染対策会議を設置、毎週定期的に、時に週に何回も開きながら、絶対に院内感染を起こさない決死の覚悟でした。

手指消毒用アルコール、消毒用不織布、マスクの在庫確保と新規発注。

不足がちなディスポガウンやN95マスクの確保などにあたっては、院内スタッフの明るい工夫と社会の皆さんの支援が大きな力になりました。

この時の工夫の数々を、当院のシミュレーションセンターで撮影しておいた写真でご紹介したいと思います。

まずは作業衣販売の「ワークス」から¥313で購入した「つなぎ」と手製の「フェイスシールド」。クリニカルエンジニアが考案したビニールシートをプラスチック製のパイプとマジックテープで接続した簡易テント、名付けて「いいテント」。

肺炎患者のサクションやレスピレーター装着時に、ベッド上で簡単に組み立て、実際に使用しました。頭部だけを覆い飛沫を防ぐ「簡易ミニテント」も重宝しました。

 

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道内医療現場に届けようと、社会貢献活動を行っている札幌市内の高校生ボランティアグループからの手製フェイスシールドや、塗装会社から寄付された大量のN95マスク、子ども達からの励ましのお手紙、患者さん達から送られてきた沢山のおいしいお菓子など、心温まる支援をいただきました。

 

 Covid-19ストームは半年を過ぎても衰えがありません。収束、闘いという言葉から、「Withコロナ」「新しい生活様式」などの言葉へと変わり、マスク生活とオンライン会議の日々で、急激に老化が進んだような気がしてなりません。

国内で開発中のワクチンも、1年で24.1塩基、月に2カ所ずつ変異を続けているというCovid-19ウィルスに対して、果たして中和抗体を作れる対抗が可能なのでしょうか。

受診者の減少で収益が落ち込んだ今春から、漸く7月以降、手術やカテーテル治療の件数が復活していますが、北海道ではインフルエンザ流行の秋も3か月先に迫って来ています。

感染対策の情報と知識を持った今、通常診療を続け、患者さんへの教育を発信して、感染を恐れるあまり受診を見送る患者の現疾患の増悪を回避しなくてはなりません。

しかしPCR検査とその結果待ち、感染疑義症例のゾーニング対応などと、救急外来や日常診療の両立などに医療スタッフ達の表情に、最近疲れが見え始めています。

2月に着任したばかりの新事務長も6月半ばに院内で脳出血で倒れ、1か月の入院の後、後遺症はなかったものの退職していきました。

1月に始まった院長業務に、途中から「藤井事務長」業務が重なり、手に負えない毎日ですが、写真の院長室の大テーブルには、事務長兼院長を支えてくれるブレインが毎日ひっきりなしに訪ずれ、何とか運営業務を続けています。

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 2021年6月開設の女性医師と女性スタッフによる医療センター「ソフィア北円山クリニック」の工事も着々と進み、構成メンバーである女性医師達による大型医療機器の選定がほぼ終わりました。今は、2024年に開設する新病院の設計が始まり、国産初の手術支援ロボット「hinotori」をはじめ導入すべき医療機器を念頭に、設計打合せがKICK OFFしました。

 臨床にかける時間がやや減りましたが、手術をはじめとする婦人科診療を主軸に頑張ってくれている仲間、よくも毎日こんなに問題が噴出する中で支えてくれている各部門のブレイン達とタグを組みながら、「やるっきゃない」とあっと言う間に、時計の針が翌日を指す日々を過ごしています。

NAHWのみなさんは、どのように過ごしていらっしゃいますか?

藤井 美穂

http://tokeidaihosp.or.jp/ov-hp/dr/m-f.html

 

 

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