女性外来の診察室から

No.61高血圧治療ガイドラインについて(荒木労働衛生コンサルタント事務所)

荒木労働衛生コンサルタント事務所所長 荒木葉子先生の投稿です。

聴診器とカルテとハート

5年ぶりに日本高血圧学会から高血圧治療ガイドライン2019が出ました。

ディオバン事件で日本の臨床研究の信頼性は大きく損なわれ、いくつもの論文が撤回されました。日本人は、体格、食塩感受性、疾患構造など欧米とはかなり異なっており、欧米基準をそのまま用いるのには問題があるので、非常に残念な事件でした。

 

また、2015年に米国でSPRINT試験が報告され、高齢者でも厳格な高血圧治療が必要であるとされたため、世界の長寿国である日本が、高齢者の治療目標をどのようにするかも注目されていました。

 

今回のガイドラインの主たる変更点について、いくつか紹介します。

 

①高血圧分類の名称が変わった。

 

2019ガイドライン  ()は家庭

2014ガイドライン

収縮期

 

拡張期

収縮期

 

拡張期

正常血圧

<120(<115)

かつ

<80

(<75)

至適血圧

<120

かつ

<80

正常高値血圧

120~129

(115~124)

かつ

<80

(<75)

正常血圧

120~129

かつ/または

80~84

高値血圧

130~139

(125~134)

かつ/または

80~89

(75~84)

正常高値血圧

130~139

かつ/または

85~89

I度高血圧

140~159

(135~144)

かつ/または

90~99

(85~89)

I度高血圧

140~159

かつ/または

90~99

II度高血圧

160~179

(145~159)

かつ/または

100~109

(90~99)

II度高血圧

160~179

かつ/または

100~109

III度高血圧

≧180

(≧160)

かつ/または

≧110

(≧100)

III度高血圧

≧180

かつ/または

≧110

孤立性収縮期高血圧

≧140

(≧135)

かつ

<90

(<85)

孤立性収縮期高血圧

≧140

かつ

<90

 

②血圧分類の表に診察室血圧に加え、家庭血圧が併記され、家庭血圧の重要性が強調された。

 

③血圧とその他の因子によってリスクが層別化され、治療方針が決定されることになった。

201909荒木先生②

 

全ての対象者に適切な生活習慣の推奨あるいは修正と血圧レベルに応じた間隔で再評価。

高値血圧で高リスクの場合と高血圧で低・中等度リスクの場合は、概ね1か月後に再評価し、十分な降圧がなければ薬物療法開始。

高血圧で高リスクの場合は、ただちに薬物治療を開始。

 

④降圧目標が厳格化された。

2014年のガイドラインでは「6574歳には140/90mmHg以上の血圧レベルを降圧薬開始基準として推奨し、管理目標140/90mmHg未満にする」、「75歳以上では150/90mmHgを当初の目標とし、忍容性があれば140/90mmHg未満を降圧目標とする」

糖尿病、蛋白尿を有する慢性腎臓病(CKD)、脳心血管病の既往患者では、「年齢による降圧目標よりも高値の血圧値を降圧薬開始基準とする」、「降圧目標もまず年齢による降圧目標を達成する。忍容性があれば過度の降圧に注意してより低い値を目指すことが推奨される」、となっていたが、下記のように厳格化された。

 

 

診察室血圧

家庭血圧

75歳未満の成人

脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞な質問)

冠動脈疾患患者

CKD患者(蛋白尿陽性)

糖尿病患者

抗血栓薬服用中

<130/80

<125/75

75歳以上の高齢者

脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、

または未評価)

CKD患者(蛋白尿陰性)

<140/90

<135/85

75歳以上でも降圧目標が異なる他疾患合併時には、忍容性があれば130/80未満を目指す。

フレイル、要介護、エンドオブライフにある高齢者の降圧治療を追記。

 

女性の高血圧:

妊娠高血圧症候群の分類、第一選択薬の変更があった。高血圧は、140/90以上(家庭血圧135/85)。

 

腎症あり

腎症なし

妊娠20週以降に初めて発症し、

分娩後12週までに正常に復する

妊娠高血圧腎症

妊娠高血圧

高血圧が妊娠前あるいは

妊娠20週までに存在する

加重型妊娠高血圧腎症

高血圧合併妊娠

 

160~170/105~110を治療開始としている論文が多い。子癇発症の前駆症状がある場合は速やかな降圧が必要。

妊娠20週以降は、第一選択薬はメチルドパ、ラベタロール、徐放性ニフェジピン

妊娠20週未満は、メチルドパとヒドララジン、あるいはラベタロールとヒドララジン

 

Ca拮抗薬は20週未満での使用は禁忌。20週以降では徐放性ニフェジピン以外を用いる場合は、十分なインフォームドコンセントが必要。

 

利尿剤は原則用いない。

RA系阻害剤、ACE阻害薬(羊水過少症、催奇形性、腎の形成不全のリスクあり)は禁忌。

 

授乳中の降圧剤は、妊娠と薬情報センターの評価によれば、ニフェジピン、ニカルジピン、アムロジピン、ジルチアゼム、ラベタロール、メチルドパ、ヒドララジン、カプトリル、エネラプリルか可能。

米国国立衛生研究所 LactMed https://toxnet.nlm.nih.gov/newtoxnet/lactmed.htmにも掲載されている。

 

荒木労働衛生コンサルタント事務所所長 荒木 葉子

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