今回は当団体理事長、天野惠子先生の投稿です。
昨年の4月、国立精神神経医療研究センター免疫部部長 山村隆先生を班長としたAMED「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に対する診療・研究ネットワークの構築」研究 が始まりました。
私も筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に対する和温療法効果の研究を続けており、班員として参加しています。
2018年度の研究仮説は、「和温療法による臨床症状の改善は、脳血流の改善によるものである」でした。
10例の患者を目途に脳血流シンチを入院時と退院時に施行しましたが、残念なことに結果は、「入院時脳血流シンチと退院時脳血流シンチの間には、有意な差はない」となりました。
このまま、脳血流シンチを撮像し続けても意味がないのではないかと考え始めた時、奇跡のようなことが起こりました。
2019年4月某日、静風荘病院の外来に切羽詰った様子の中年女性が現れ、「全く食事が取れなくなり困っている。即、入院させて下さい」とのこと。
たまたま、5階女性4人部屋のベッドに1つ空きがあり、そこに入院していただくことにしました。
食欲不振の原因は更年期障害。
「HRTでたちどころに良くなりますよ」と気軽に引き受け、その言葉の通り、1週間ほどで食欲は元に戻りましたが、本人としては「もう少し入院させてください」と和温療法を楽しんでいる様子でした。
その4人部屋には、彼女のほかに若いME/CFS患者さん3人が入院していました。
3人が自分たちの脳血流シンチの結果を見ながら、「3人同じようなところで血流低下しているところもあれば、全く違うところもあるよね。この差はなんだろうね」などと話し合っているところに、件の女性(高岩さん)が登場。
「どれどれ見せて。なるほど。ここの血流が低下している場合、かくかくしかじかのような症状が出るのよね」などと解説を始めました。
3人のME/CFS患者さんの驚きは、それは大きなものでした。
私のところへとんできて「先生、先生、高岩さんは占い師より、私たちの症状を、ぴたりぴたりと当てるよ」というのです。
高岩さん、実は脳血流シンチの専門家でした。
彼女は、富山医科薬科大学付属病院リハビリテーション部脳神経外科言語聴覚士として、「神経心理・高次脳機能障害領域」の研究を長く続けられてきた方だったのです。
早速、私・看護師さん・患者さんとその家族が集まり、高岩さんに教えを請うことになりました。素晴らしい勉強会になりました。
何よりも、ME/CFSの患者さんたちが、「やっと私たちを苦しめていた原因が分かった」と急に元気になった様子を見て、私は日頃の自分の洞察の甘さに気づかされました。
このときの様子は、8月26日に放映される予定のNHK第1「プロフェッショナル:仕事の流儀」の中に出てくるようです(編者注:天野惠子理事長が特集されます)。
面白い展開になってきました。
現在、外来からME/CFSで入院される患者さんの数はうなぎのぼりに増えています。
2010年に和温療法を開始し、病院のホームページにも「慢性疲労症候群」を掲げてきましたが、2015年度までは、年間ME/CFS入院患者数は一桁でした。
それが2016年度15名、2017年度37名、2018年度25名、2019年度は3月までで既に11名です。
TwitterなどのSNSで知って受診されるようです。
脳血流シンチをやってみて、臨床ガイドラインに沿った診断でME/CFSとされた患者さんのなかに、どうも脳血流シンチからはそうではないと思われる症例が少なからず存在することに気づきました。
また、患者さんは脳が上手く動かないと良く言われます。
高岩先生に教えていただき、WAIS-4(ウェクスラー成人知能検査)を施行してみると、その結果が全く正常の方から、明らかに低下している方まで綺麗に判別できることも知りました。
今年度は、患者さんの協力を得て、さらにME/CFSにおける脳血流シンチ所見の特徴、WAIS-Ⅳの結果との関連性、治療介入効果の判定に有効かどうかの検討を進めていきたいと考えています。
野中東皓会 静風荘病院 女性外来
松戸市立総合医療センター 女性特別外来
医師 天野 惠子
Copyright © 2014 Japan NAHW Network. All Rights Reserved.