女性外来の診察室から

NO.57「女性医師の方が患者の死亡率、再入院率が低い/米国からの報告」(山口大学医学部附属病院)

山口大学医学部附属病院 ・女性診療外来 松田昌子先生の投稿です。

手術風景

 

今年119及び20日に開催された日本性差医学・医療学会のシンポジウムの一つ「総合診療医の立場から見た性差医療への取り組み」の中で、患者と医師のジェンダーが在宅医療における医療面接に影響を与えるか、というテーマで北里大学の木村先生が発表されました。

 

医師のジェンダーが診療に与える影響については、これまで数々の報告が出ています。1,-3それらの多くの論文でほぼ一致した見解を以下にまとめてみます。

 

男性医師に比べて女性医師は

患者に対して多くの質問をし、伝える情報量も多く、患者からも多くの情報を得る。

2)対話の中で、患者の考えを肯定し、励まし、安心させる。

3)患者に共感し、病気に立ち向かうパートナーシップを築く。

4)何かを決める時、患者の考えをよく聞き、その意向に沿う努力をする。

 

これらは主に医療面接のスタイルに関連したもので、女性医師のコミュニケーション能力、共感できる能力が高いことを裏付けます。従来のパターナリズムの上に作られていた医師と患者の関係とは異なる、患者の主体性を尊重するスタイルといえます。

このような関係の中で、患者は病気の症状のみならず、自分の社会的、心理的状況についても多くのことを医師に伝え、結果として、医師にとっては診断のための情報量が増え、検査や治療方針についての患者の同意が得られやすくなります。

さらに、より診療内容に関連した特徴として、以下のことも報告されています。

 

 

5) 病歴聴取の時間が長く、診察時間も長い。

6) 患者の性差に関係なく、病気を予防するための方法について詳しく説明する。

7) 女性患者特有の乳がんや子宮がんのスクリーニング検査を積極的に勧める。

8) 心理社会的なカウンセリングを行う。

10)ガイドラインに沿った診療をする傾向が強い。

 

 

これらのことから、女性医師は、患者の話に耳を傾け、患者の希望に沿った丁寧な診療を行う傾向があり、女性外来を担当する先生方が重視されるnarrative medicineを実施する素質を備えているといえます。

 

しかし、そのような、時間をかけて丁寧に診療することが患者のアウトカムに良い結果をもたらすか、多くの人が関心をもつところですが、その点についてはほとんど報告がありませんでした。

“時間をかけた丁寧な診療“は患者満足度を上げても、アウトカムには影響しないのかともどかしく感じておられた方も少なくないでしょう。

 

そこに出てきたのが、ご存知の方もおられるかもしれませんが、ハーバード大学公衆衛生大学院の津川友介氏らが2016年にJAMAの電子版に発表した論文です。4

2011年1月~201412月の間に内科疾患で緊急入院し、病院所属の総合内科医が主治医となった65歳以上の高齢者を対象に、入院後30日以内の死亡率及び退院後30日以内の再入院率を主治医の性別で検討したものです。

 

死亡率、再入院率ともに女性医師が主治医であった患者の方が低かったという結果でした。

論文評価をする英国のオルメトリック社は、2017年に、「今年影響力の高かった論文トップ100」の中で、この論文を第3位にランクしたそうです。

この結果はあくまで米国の医師及び患者を対象にしたものなので、そのまま日本に当てはめることはできませんが、女性外来での基本的な診療姿勢は患者のより良いアウトカムにつながるということを信じさせてくれるものです。

 

外科手術後のアウトカムへの医師のジェンダーの影響は、今のところ、否定的です。

2007年から2015年の間にカナダのオンタリオ州で行われた手術患者の予後についての研究結果が2017年に発表され、女性医師執刀による手術後30日以内の死亡率が、わずかではあるが有意に低かったと報告されました。5 

しかし、患者が医師を選べない緊急手術に限って検討しなおすと有意差はなくなったということです。死亡率の他、手術後の在院日数、合併症の発症率、再入院率等においても医師のジェンダー間の有意差はなかったということです。 

 

性差医学・医療学会で木村先生が発表された在宅医療での医療面接へのジェンダーの影響というテーマは、今後増えてくる高齢者医療の中で、医療提供者のジェンダーがどのような意味を持つのか、今後のさらなる研究成果が待たれます。

 

 

参考文献

1.Henderson JT. Et al. Physician gender effects on preventive screening and counseling. Medical Care 2001;39:1281-1292

2.Roter DL. Et al. Physician gender effects in medical communication. JAMA 2002;288:756-764

3.Baumhakel M.et al. Influence of gender of physicians and patients on guideline-recommended treatment of chronic heart failure in a cross-sectional study.Eur J Heart Failure 2009;11:299-303

4.Tsugawa Y, et al. Comparison of hospital mortality and readmission rates for medicare patients treated by male vs female physicians. JAMA Intern Med.2017177206-213

5.Wallis CJD et al. Comparison of postoperative outcomes among patients treated by male and female surgeons: a population based matched cohort study. BMJ 2017;359:j4366

 

山口大学医学部附属病院「女性診療外来」 松田昌子

http://www.hosp.yamaguchi-u.ac.jp/section/02.html

 

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