女性外来の診察室から

No.55 女性の喫煙と禁煙治療 (日本禁煙学会/NPO禁煙みやぎ)

日本禁煙学会理事、NPO法人禁煙みやぎ理事長 山本蒔子先生の投稿です。

タバコをもつ女性の手 

☆喫煙の内分泌環境に与える影響

 女性にとって卵巣から分泌されるエストロゲンは喫煙によって大きな影響を受けます。喫煙は女性に対して、抗女性ホルモンとして作用します。肝臓の代謝に影響し、喫煙者では、活性が低くかつ速く代謝される2-hydroxyestrogenが増加します。また、喫煙者では性ホルモン結合グロブリンが増加するために、エストロゲンがこれに結合し、活性型エストロゲン減が減少します。これらは、治療として女性ホルモン製剤を投与した際にも表れ、喫煙者の方が血中濃度の上昇が悪く、効果が減少することになります。

 喫煙者においては月経日数の短縮、月経不順、月経出血量の増加、月経困難症が指摘されています。タバコに含まれるニコチンはカテコールアミンの分泌を増加させ、血管収縮が起こり血流が減少します。また、煙の中のCOを吸い込むために酸素欠乏傾向が起こります。これらは卵巣に悪影響を及ぼし、受精卵の質を劣化させると考えらます。実際に喫煙は不妊の原因であり、当然ながら不妊治療の成績も悪くなります。

更年期症状のhot flashと喫煙の関連では、症状の強さ、男性ホルモン上昇、およびプロゲステロンレベルの低下がいずれも喫煙者に程度が強かったと報告されています。喫煙によって閉経が約2年早く始まることも知られています。WHOは、すでに1989年の世界禁煙デーに「プラスされる女性喫煙者への害」をテーマとして、早くから女性にとって喫煙の害は大きいと指摘していますが、この事はもっと強調されていいと思います。

 

☆女性の喫煙関連疾患

①動脈硬化と骨折

 喫煙により老化が進み、動脈硬化を元にした疾患が起こります。狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症などが代表的なものです。女性ホルモンは、動脈硬化を防ぐ作用がありますから、閉経前までは、男性に比較して、これ等の疾患の発症率は女性では低い傾向があります。しかし、閉経を境にして、動脈硬化性疾患は女性においても増加してきますが、喫煙している女性においては、著名に増加します。また、閉経後に増加する骨粗鬆症に関しても、ニコチン自体が直接骨に働き、骨粗しょう症を引き起こす作用を持ちますので、喫煙女性は閉経後骨折のリスクが上がってきます。

 

②子宮頸がん

 HPVの感染による子宮頸がんですが、喫煙女性は子宮頸がんを発症するリスクが高いことが知られています。喫煙は免疫力を低下させるために、HPVの感染が継続しやすいとされています。この子宮頸がんのリスクは受動喫煙でも上がり、配偶者の喫煙が原因なることもあります。しかし、子宮頸がんの予防のためにも禁煙が必要であることは、あまり知られていないように思われます。

 

③ピルの使用と静脈血栓

 ピルが血栓を作りやすいことは知られており、喫煙によるリスクが高まることも分かっております。日本産婦人科学会のガイドラインには、35歳以上でタバコを115本以上吸っている場合には禁忌とし、それ以外であれば、喫煙者でも投与可能となっています。治療者も15本以上でなければいいと捉えて、多くの喫煙者はピルを使用しております。このガイドラインは長らく変わっておらず、驚くべきことだと思います。まずは医師が禁煙治療をすすめ、禁煙出来なければピルの投与はしてはならないのではないでしょうか。

 

☆禁煙治療の始まり

日本における禁煙治療は、20066月から健康保険の適用となりました。ニコチンパッチ(ニコチネルTTS, 現在はグラクソ・スミス・クラインから発売)は、その年から保険薬として処方できるようになり、さらに2008年に発売されたバレニクリン(チャンピックス、ファイザー)も5月から保険で使用可能になりました。この事は禁煙治療を大きく変化させて、推進することになりました。

喫煙者に禁煙しなさいと奨めなければなりませんが、それだけでは、禁煙は出来ません。上記の禁煙補助剤を使うことによって、楽に、確実に禁煙出来る方法であることを示さなければなりません。

 

☆女性と禁煙

 女性に対する禁煙は、妊婦以外にはあまり積極的に進めて来られなかったような印象を私は持ちます。性差医療で明らかになったように、男性中心に進められた医療では、女性にとっても大切であるはずの禁煙を注目せず、女性への禁煙指導は忘れられていたのではないかと思います。

今までのデーターでは、女性は男性よりも禁煙し難く、また再喫煙率も高いとされています。女性が禁煙し難いしことに関しては、①禁煙に対する自信の欠如 ②喫煙が否定的な感情に基づいている ③体重増加への懸念 ④うつ病の頻度の高さ ⑤月経との関連:月経中や黄体期に喫煙率が高まる、ニコチン離脱症状は黄体期後半に強い等が挙げられています(禁煙学 改訂3版 日本禁煙学会編)。

 

☆禁煙治療の実際

 現在、全国で保険適用の禁煙治療が出来る医療機関は16,71620189月現在)と増えています。また、日本禁煙学会が認定している禁煙治療の専門認定も2,000人は超えています。しかし、禁煙治療を受けようとする人は現在でもあまり多くないと思われます。禁煙治療は3か月間と決められていて、初診、2週間、4週間、8週間、12週間と合計5回の受診が必要です。一般に、禁煙補助剤を使用すると5割から7割の受診者が禁煙出来るとされています。

図1は著者の自験例です。

201901山本先生図1

東北労災病院の禁煙外来を週に1回午後に行っています。

女性の受診者数は少ないですが、成功率は同じくらいです。これはチャンピックスによる治療です。

 私は女性の禁煙治療の成績が本当に悪いかを疑問に思っていました。そこで一時期、婦人科クリニックにお願いして禁煙治療を行いました。

2は、2014年から2015年に婦人科のクリニックにおける禁煙外来の成績を示します。

201901山本先生図2

婦人科クリニックの患者は内科に比べると若い方が多かったので、ニコチンパッチを用いる例も多く、この図ではチャンピックスとニコチンパッチの両方の成績を示しました。

ニコチンパッチでは73%、チャンピックスでは60%の成功率でした。これらの成績から分かるように女性だからと言って、禁煙成功率が低いわけではありません。

 

☆女性外来での禁煙治療のすすめ

 女性外来では女性患者の訴えを時間をかけて聴いて、背景を理解し治療を行います。それによって女性患者とのより良い関係が作られています。この事は禁煙治療において最も大切です。女性外来において治療されておられる先生方には、ぜひとも喫煙に関心を持っていただき、禁煙治療を実施して欲しいと思います。今でも禁煙は難かしいと思っている医師は多いと思います。したがって、はっきりと禁煙も奨めないし、もちろん治療も出来ないことになります。禁煙治療が保険適用になり、禁煙補助剤が使えるようになってから、禁煙治療の成績は上がっています。ぜひ多くの女性医師が禁煙治療をしてほしいと思います。

日本禁煙学会理事、NPO法人禁煙みやぎ理事長 山本蒔子

http://kinenmiyagi.org/goaisatsu.html   (NPO法人禁煙みやぎ)

http://www.jstc.or.jp/  (一般社団法人 日本禁煙学会)

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