２０１０年にノーベル賞を受賞したイギリスのエドワーズ博士が、婦人科外科医のステプトー博士とともに高度生殖医療の扉を開きました。

１９５０年代からヒトの受精研究を開始した博士は、１９６８年にヒトの卵の受精に成功し、１９７８年には世界初の体外受精児ルイーズ・ブラウンが誕生し、不妊に悩む夫婦が子供を得る新たな道を切り開きました。

このルイーズさんが２００６年に自然妊娠し無事出産、体外受精の安全性が実証されたことがノーベル賞受賞につながったのではないでしょうか。

日本では９組に１組が不妊カップルといわれ、体外受精のための採卵回数は世界トップの不妊大国で、高度生殖医療の技術は世界一と言われています。

そして日本では、実に１６組に１組が体外受精で出産しているのです。

加齢とともに急上昇する卵の老化で、せっかく受精した胚の染色体異常は４０歳以上では３０歳に比べ２倍と跳ね上がり、流産率が上がります。

４０歳以上の胚の染色体異常の確率は８０％、つまり１０個の胚を子宮に移植しても８回は妊娠継続できません。

そこで、海外では移植前に染色体異常のない胚を選別する着床前診断が行われており、日本でも正式な解禁を待っている状態です。

２人に１人ががんに罹患する時代となり、生殖年齢の女性達が悪性腫瘍の診断を受け、治療に入る前に卵子凍結をしておくことが認められるようになりました。

２０年以上前に、大学で白血病と診断された女性の主治医から卵子凍結の可能性について相談を受けたことがあったのですが、当時はまだ学会で明文化されていない時代でした。

特に生殖年齢の乳がん罹患率が上昇し、今では未婚女性の卵子凍結は一般的な技術となりました。

また、卵巣凍結の手法もあり、妊娠希望の時期になると卵巣組織から卵細胞を取り出し成熟化させ、受精させることも可能です。

私は最近、生殖医療の広がりに合わせ、手術術式も変えました。Mayer-Rokitansky-Kuster-Hauser（MRKH）症候群という先天性腟欠損を伴う原発生無月経疾患を覚えている先生はいらっしゃるでしょうか。

遺伝子に異常のない、女児５０００人に１人発生する先天性疾患で、両側卵巣は正常であり性ホルモンは正常に分泌するのですが、痕跡子宮と腟欠損のため妊娠はできません。

これまでは造腟術で性交障害を解決、妊娠に関しては自身の卵と夫の精子による胚を代理母に移植するか、あるいは特別養子縁組で子供を迎えるのが方針でした。

私は造腟のいくつかの術式の中で、腟の萎縮のないS状結腸を利用する方法を選択していましたが、子宮移植が現実となる時代に合わせ、腹腔内臓器に関与しないで造腟する術式に変更しました。

MRKH症候群は子宮移植の最も優先される対象だからです。

今年の日本産科婦人科学会で、ヒト以外の霊長類では世界ではじめて子宮移植と妊娠に成功したと慶応義塾大学が発表しました。

サルから摘出した子宮を別のサルに移植し、その移植子宮に受精卵を戻し、妊娠を確認したのです。ヒトでは2000年にサウジアラビアで世界初の生体子宮移植が行われましたが、移植後３ヶ月で血栓が発生し失敗。

以後、アメリカ、トルコでも行われていますが、移植子宮での出産に成功しているのがスウェーデンです。2014年には世界で初めて出産に成功し、引き続きこれまでに11人の出産例を報告しています。日本での子宮移植１例目が秒読み段階となっています。

妊活ということばが就活、婚活に仲間入りし久しい昨今ですが、一方で大切な子ども達の無気力、発達障害の原因による不登校児童、生徒が増えています。

不妊外来で体外受精を行いながら、思春期外来では人とのつながりに思いを馳せる時間を持ってもらいたいものと思い、排泄障害を主訴に受診した認知症の妻に付き添う高齢の夫と話しながらの診療にあたり、多彩な女性の一生とそのスピードを思いながらの日々で、今年も残り１ヶ月になってしまいました。

私の周りでは今後、女性医師による医療モールの新設、法人内の２病院の合併など、目まぐるしい組織改変が始まります。

人口構成が大きく変わる日本の社会情勢も考えながら次世代が生き生きと活躍できる組織づくりと、個人的にはレジリエンス（編者注：自発的治癒力）を鍛えながらの健康づくりが来年の目標となりそうです。

社団カレスサッポロ　時計台記念病院・時計台記念クリニック

女性総合診療センターセンター長

藤井　美穂

http://www.tokeidaihosp.or.jp/center/woman/