女性外来の診察室から

NO.52 人間ドックと女性外来―「治る力」 (千葉西総合病院)

千葉西総合病院 健康管理センター 小西明美先生の投稿です。

漢方薬剤セット

以前に、人間ドックの事後指導や治療の場として女性外来を紹介いたしました(性差医療コラム NO,28)。

 

その結果によると、外来受診者の7割以上の方で症状が改善し、処方している漢方薬の減量や中止後も症状が安定し、約2割の方は外来を完全に卒業していきます。

 

これらの患者さんの多くは、重大な基礎疾患はないものの、症状の背景に、仕事や家庭の様々な問題や、更年期、老年期の体の変化などがあり、それが体調不良に深く結びついています。 

社会的な問題や、経年的な体の変化は避けて通ることが難しい事ですが、患者さんがそれぞれに困難な状況を乗り越えて体調を回復していく過程をみていると、私自身も大きなパワーを得ることが多く、今回は、その回復過程の「治る力」について考えてみました。

 

実際の外来では、初診の前にまず問診票を記入していただきます。

問診には、主訴、既往歴、現病歴、家族歴など一般的な項目以外に、漢方診断に必要な具体的な症状や、苦痛の程度などQOLを判断する項目も入ります。

診察前にまず問診内容を確認して、30分の初診の間に、一番つらい症状とその程度を把握し、西洋医学的な診察と、漢方治療に必要な診察を行います。

そして、初診ではあえて体調不良の背景には深く立ち入らず、冷えなどの症状に合わせた養生の話や、症状と体質を確認して選んだ漢方薬の作用などのお話をします。

内服を希望されれば、副作用や飲み方を伝えて処方し、次の外来を予約します。

 

ほとんどの方は、処方を希望されるので、2回目の外来では、まずは薬を飲めたかどうかと、症状の変化について聞き、同時に何か心がけた養生について尋ねてみます。

症状が改善傾向なら、同じ処方を続けながら、残っている或いは新たに前面に出てきた症状を把握し、処方の変更や追加とともに、その方ができそうな生活上の工夫について一緒に考えます。

そして患者さんが個人的な問題について話したいときには、たんたんと耳を傾け、最後に、大変な状況であっても少しでも症状が良くなっていれば「良かったですね」と伝え、心がけるようになった養生などあれば、継続できるような言葉かけをします。

 

このような繰り返しの中で、多くの患者さんは、症状のわずかな変化から、自らの体のバランスの乱れに気づいて、生活習慣や考え方のくせを見直すようになり、個人的な問題のとらえ方も少しずつ変化して、「こうすることにしました」とか「こう考えることにしました」とご自身で軌道修正していかれます。

それがまた症状の改善につながって、「治る力」となっていくようです。

 

こうした「治る力」について、今回深く考えるきっかけとなったのは、千葉支部のメンバーとともに参加している柏の葉の漢方勉強会で、講師の喜多敏明先生の新著「病気はチャンスー治る力を引き出す漢方」をテキストとして新しい講義が始まったことです。

この本は、一般の患者さん向けに書かれたものですが、患者さんをサポートする考え方やスキルがすべての医療者の日常臨床にも役立つ内容となっています。

 

漢方治療には、心身をトータルにみる(心身一如)、個人の証に合わせて処方ができる(テーラーメード)、不定愁訴に対処できる(異病同治)、気血水などの独特の概念で体内のバランスを整えることをめざしている、未病や養生の考え方がある、などの素晴らしい特質があります。

 

こうした先人の知恵と、現代の性差医療や予防医療が結びついてできた新たなアプローチは、患者さんに還元されて「治る力」を引き出すきっかけとなり、また医療者も患者さんから「治る力」のパワーをいただくという、好循環をもたらすのではないかと思います。

 

それが、私自身の女性外来を続ける大きな原動力となっています。

 

千葉西総合病院 健康管理センター 小西明美

http://health-check.chibanishi-hp.or.jp/

 

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