東大病院 非常勤講師 宮尾益理子先生の投稿です。
東大病院の女性外来総合外来を、2003年7月に「老年病科」内に開設してから、15年が経ちました。
その間、多くの後輩女性医局員が担当してくれましたが、様々な事情があり、現在は私だけが担当しています。
当科は、本邦初の老年医学の教室で昭和37年に誕生、50年以上の歴史がある「老年医学」を専門とした教室です。
小児科が、「小児の正常な発達と小児に多い疾患の専門家」であるのに対して、老年医学は、「正常な老化と高齢者に多い疾患の専門家」です。
この2つの科は、「成長期の急性疾患の治癒」が主な小児科と「退行期の慢性疾患といかに付き合うか」を考える老年医学という点では大きく異なりますが、やはり「全人的医療、人を診る」ということは同じ、女性外来も然りです。
さて、女性外来を開設した当初から、老年医学との共通点を実感していました。
対象が「高齢者」と「女性」の「全人的医療であること」、そして、病気ではない「加齢」と「性差」を知ることが基本であるということ、その人の症状に心理社会的背景も含めて、とことん付き合うということです。
老年病科の外来は、いわば「高齢者総合外来」です。受診される方には、これまでの医療機関での「歳だからしかたない」「歳だから諦めなさい」という言葉に言いようのない感情を抱いてこられた方が多くおられました。
診察時に、加齢により起こる変化(正常な老化、生理的老化と言います)と、その対策の一般的なことをお話し、現在のその方の症状と照らし合わせた説明と対処方法をお話ししますと、「そういう話しが聞きたかったんです」と、時には涙される方がおられました。
女性外来では、この「歳だから」が「更年期だから」に変わり「更年期だから仕方ない、我慢しなさい」、と言われた方がこられます。
やはり、一般的なことと、症状と照らし合わせた説明、検査や対処方法をお話ししてきました。
このような方は、全国の(特に初期の)女性外来には多くこられていたと思いますが、「老年医学」が必要な方も女性外来にこられます。
【診察事例①】42歳の女性
無月経、イライラ、ホットフラッシュのため、都内の婦人科外来を受診。
卵巣機能の低下による閉経と言われ、女性ホルモン補充療法(HRT)を開始、使用薬剤、方法を変えて3パターン試すも改善しない、と当科へ紹介となりました。
お話を伺うと、会社勤めを辞めて、父の経営する会社に勤務。76歳の母から経理などを引き継ごうとしているが、時間もかかるし、はっきり答えられないし、色々なことが許せない、とのこと。
この方のように、一緒に仕事をするようになり、家庭生活で見えなかった親の老いが仕事を通じて明らかにになり、親であるが故に受容できない状況は、しばしば遭遇します。
後期高齢者であるお母様に起こっている変化をお伝えし、「見ず知らずの76歳の女性」と思って接する事をお勧めしたところ、寛容になることができ、症状はほぼ気にならなくなり、元の婦人科でHRTを続けることになりました。
【診察事例②】82歳の女性
56歳のお嬢様と来院された150cm、37.5kgの女性(BMI16.5)。
もともと42kgでしたが、3年前の健診で耐糖能障害(HbA1C 6.1%)、LDLコレステロール高値(160mg/dl)を指摘され医療機関を受診。
「1200キロカロリーの糖尿病食の指導を受け、その通りに実行したところ、痩せてしまった。
それでもデータは改善せず、薬は飲みたくないので、現在も自分なりに制限しているが、これでいいのかしら」
と、疑問にも不安にもなり、当外来を受診されました。
まさに、低栄養、サルコペニア、フレイルの状態です。
数字は気にせず、バランスよく、たんぱく質もしっかり食べること、動くことにより、体重、筋肉量増を目指ることになり、骨密度を評価、骨粗鬆症の治療を開始、お嬢様も同じ食事で痩せておられ、骨密度測定を受けていただき、一緒に受診されています。
【診察事例③】94歳の女性
主訴:めまい、頭痛、易怒性、倦怠感
高齢だけれど、頭はしっかりしているので「老年病科の初診外来」ではなく「女性総合外来」を希望され、かかりつけ医から、多愁訴に関する診療を希望する紹介状を持参されました。
糖尿病、高血圧などで、11種類の内服薬のポリファーマシーの状態。血液検査データを拝見すると、過去2~3カ月の平均的な血糖値を反映するHbA1C が5.8%と正常な方並みの低値でした。
若い方なら「良好」と言われるレベルですが、高齢者は、低血糖になりやすく症状も非典型的で、認知機能低下、転倒などのリスクが上昇するため、避けなければいけないもの。
詳細は省きますが、高齢者糖尿病のガイドラインでは、7%より下げない、という下限値の設定がある状況です。
ご本人、ご家族に一般のガイドラインと、高齢者糖尿病のガイドラインの違いを御説明、SU薬を中止、他の内服薬も整理、5剤にしました。
易怒性、頭痛、倦怠感はほぼ消失。めまいには苓桂朮甘湯を開始し改善。ヨガの時間が楽しいというデイケアの回数を増やし、辞めてしまった和のお稽古事の再開など、社会参加の機会を増やすことをおすすめしています。
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「女性」を全人的に診療するには、性差医学に加え、老年医学的知識が必要です。更年期世代の女性は介護のストレス、今後の健康への不安を抱えておられ、骨粗鬆症、認知症、誤嚥性肺炎、経管栄養、在宅医療、終末期医療、介護保険に関する知識などが役立ちます。
「高齢者を自信を持って診療する」ことができれば、女性外来のみならず、大学病院でも、急性期病院でも慢性期病院でも、在宅診療でも、老健施設でも、健診センターでも必要な知識です。
大学の老年医学教室に今から入局は難しくても、老年医学会では、「高齢者医療」「高齢者栄養療法」「老健管理医師総合診療」研修会を開催しており、専門領域にかかわらず、初めて老年医学を学ぶ方も多く参加しておられます。
これらの受講により取得することができる認定医制度もできました。https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/kensyu/index.html
老年医学会の学術集会、総会、地方会でも、基礎から臨床、介護や社会的な問題、緩和ケアや経管栄養、終末期医療や死生学など、分野を超えた様々なシンポジウム、講演があります。
内科認定医を持っている方は旧制度であれば、専門医取得も可能かもしれません。
HPで不明な点は、事務局にご相談ください。
東大病院女性総合外来
http://geriatrics.umin.jp/outpatient/woman.php
アットホーム表参道クリニック
関東中央病院代謝内分泌科
https://www.kanto-ctr-hsp.com/patient/department/taisyanaibunpituka.html
医師 宮尾益理子
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