女性外来の診察室から

No.49 ヴルヴォディニァをご存知ですか(山梨県立中央病院)

山梨県立中央病院女性専門科医師 塚本路子先生の投稿です。

ハートを持つ女性

 

2005年3月に山梨県立中央病院の女性専門外来を開設するにあたり、東金病院の天野恵子先生と竹尾愛理先生の外来に陪席させていただき、都立墨東病院では柴田美奈子先生と担当の看護師さんから大変ご親切に女性外来の運営について教えていただきました。

 

今振り返ってみますと、先輩の先生方のおかげ様で本当に幸せな船出であったとしみじみ思います。心よりお礼申し上げます。

 

天野先生はじめ東京支部・千葉支部の先生方はたくさんの勉強会も企画してくださり、その中で「エストロゲン低下による症状」のスライドを見たときの「目から鱗が落ちた」ような衝撃を忘れることができません。

エストロゲン低下によって骨粗鬆症も脂質異常症も起こりやすくなることは今や常識になっていることに、隔世の感があります。

 

女性外来では、性差医療を提供することと、内科や婦人科などの身体科と精神科の狭間の患者さんを治療することが求められます。

加えて、受診される患者さんの中には他の科では話しにくい症状を持つ方もいらっしゃいます。

 

Vulvodynia(編者注:日本での標記はヴルヴォディニァ)という疾患名をお聞きになったことがおありでしょうか?

「視診で判る明らかな病変や臨床的な神経学的異常を認めず、しばしば灼熱感を伴う痛みとして訴えられる外陰部の違和感」と定義されています。

 

International Society for the Study of Vulvovaginal Disease(ISSVD)によると、Generalized vulvodynia(外陰部全体が痛むもの)とLocalized vulvodynia(腟前庭痛)の2つの型に分類されます。前者は閉経後の50歳以上にみられ、ストレスや慢性疼痛性疾患に伴うことがあります。

一方、後者は2040歳にみられ、疼痛が腟口周囲の腟前庭に限局するタイプです。

 

Vulvodynia(ヴルヴォディニァ)の有病率は明らかではありませんが、16%の女性が経験するという報告もあります。

しかし、羞恥心のために医療機関を受診しない患者さんも多く、受診に至っても「(器質的な)異常なし」と言われて治療をなされないこともあります。発症の背景には心理社会的ストレス要因が関与していることがあるため十分な問診が必要であり、治療が難しい疾患でもあります。

 

病態については、漢方医学的には腎虚や瘀血の所見が見られることがあり、西洋医学的には血流障害や筋肉の攣縮ととらえられます。効果が期待される治療薬としては、漢方薬(駆瘀血剤、腎補剤など)や抗うつ剤、抗けいれん剤などがあります。

 

私が外来で経験した患者さんたちはいずれも閉経後であり、ご家族や長年飼っていたペットの死などの喪失体験の後に発症していました。薬物療法とともに、痛みの訴えを「受容・共感」する支持的心理療法が有効であったと考えています。

 

患者さんが外陰部痛などの訴えにくい症状も話しやすい環境を作り、治療者として患者さんの訴えを受け止める姿勢を心掛けながら、これからも女性専門科で診療を続けていきたいと思っています。

 

 

山梨県立中央病院 女性専門科

医師 塚本 路子

http://www.ych.pref.yamanashi.jp/shinryo/jyosei.html

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