和歌山労災病院女性専用外来 辰田仁美先生の投稿です。
ふらつきやめまいで女性外来にこられる患者さんの中に、水毒ではなく瘀血によるめまいの方があります。
水毒が改善してもめまいやふらつきが続いたので、駆瘀血剤で改善した症例を経験したので、報告いたします。
症例;64歳女性。
現病歴:半年前からめまいがあり、耳鼻咽喉科を受診しました。
耳鼻咽喉科的には特に異常を認めず、頭部CT,MRIでも異常を認めませんでしたが、ふらつき感と回転性めまいが持続するために女性外来を受診されました。
立った時にめまいを感じ、歩行時にもふわふわする感じがあるとのことでした。
現症:身長163㎝ 体重547Kg、中肉中背。
脈候は、浮沈。舌候は、やや胖大で歯痕を認め、全体にやや紫で、舌下静脈怒張も認めました。
腹力Ⅱ/Ⅴ、胸脇苦満なし、臍傍動悸認めず、瘀血の圧痛点と小腹不仁を認めました。
本症例では、
立った時のめまい、歩行時のふらつき、歯痕⇒水毒
舌下静脈怒張、瘀血の圧痛点⇒瘀血
と考え、立った時のめまいが本人にとって一番苦痛だったので、苓桂朮甘湯を開始しました。
立った時のめまいは改善しましたが、歩行時の浮動感は残っていたので、真武湯を追加しました。
3か月ほど、同じ処方を続けましたが、時々立った時のめまいと浮動感が悪化しました。
再度診察をしたところ、歯痕はほぼ消失していましたが、舌は全体に紫で、舌下静脈怒張も残り、腹診では両側に瘀血の圧痛点を認めました。
そこで、桂枝茯苓丸に変更したところ、4週間の服用ですっかりめまいは改善し、現在も継続中です。
日本では美人を表す言葉に、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という比喩がありますが、漢方のめまいの処方では、「立てば苓桂、回れば沢瀉、歩くめまいは真武湯」と言われます。
立った時にくらっとめまいがする時は苓桂朮甘湯、くるくる回るめまいの時は沢瀉湯、歩く時に浮動感のめまいには、真武湯と使いましょう、という意味です。
沢瀉湯はエキス製剤がないためにエキス剤では五苓散を代用することが多いようです。これらはすべて、水毒に関連する処方です。
苓桂朮甘湯の構成生薬は茯苓、桂枝、白朮、甘草です。水毒と気が上逆したために、めまいが起こっている病態と考えて、利水剤の茯苓と白朮に気を降ろす作用のある桂枝が組み合わさった処方です。
真武湯の構成生薬は、茯苓、芍薬、生姜、蒼朮、附子です。
真武湯を使う時は、めまい以外の症状として、頭重感、動悸、冷え症を合併していることが多いようです。附子は体を温める作用が強いので、冷え症もポイントになります。
また、雲の上を歩くような頼りなさ、まっすぐこうとしても、左右いずれかに寄ってしまうというような症状の方にも効果的です。
五苓散は、沢瀉、白朮、茯苓、蒼朮、猪苓、桂枝で構成され、桂枝以外は利水作用があります。
利尿作用(フロセミドなど)のある薬剤は体の中の水分を強制的に排泄しますが、利水作用は体の中の余剰の水分を水チャンネルのアクアポリンから排泄するので、脱水の心配は少ないです。
一般的にめまいの原因は水毒が多く、苓桂朮甘湯、真武湯、五苓散、半夏白朮天麻湯などで効果があります。
水毒が改善してもめまいが残り、舌診や腹診で瘀血が見られた時は、桂枝茯苓丸などの駆瘀血剤が必要な場合があるようです。
独立行政法人 労働者健康福祉機構 和歌山労災病院
呼吸器内科 女性専用外来 辰田仁美
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