女性外来の診察室から

No.45 Interoception 内的感覚あれこれ(香川県 回生病院)

女性漢方外来部長 野萱 純子先生の投稿です。

頬にてを当てる女性

内的感覚の安定は、健康でしあわせだと感じるための基盤です。

私の専門である痛みも内的感覚の一つなので、この領域の基礎研究は興味深く、時々のぞいてみています。

最近気づいた面白い研究をご紹介します。

 

 

<自律神経コントロールの左右差>

 

島皮質は内的感覚の統合を、帯状回が出力の調整を担当しています。

遅い呼吸+心地よい画像を見る場合、速い呼吸+不快な映像を見る場合の二つの状況で、fMRIを用いて島皮質と帯状回、交感神経/副交感神経の活動量を検討すると、左右の島皮質と帯状回が違う働きをしていることがわかりました。

左の島皮質、帯状回の活動は、副交感神経、快感覚と結びつき、右は交感神経活動、不快感と結びついているのです。左右の脳機能の違いはいろいろありますが、自律神経についてもはっきりした違いがあるようです。

左右半身からの情報入力や、迷走神経の左右出力に左右差があるのかどうかについて、興味があるのですが、今のところ報告はみあたりません。臨床では、左右どちらかにかたよって症状の出る方はよくありますね。

 

(出典:Strigo IA, Craig AD.Interoception homeostatic emotions and sympathovagal balance.Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2016 Nov 19;371(1708). )

 

 

<温度感覚>

 

温度感覚には、快不快の感覚が伴いますが、これは全身状態としての体温調整ニーズによって決まってくることが報告されています。

体温計の数字では熱もないのに熱っぽくて不快な感じだとか、皮膚温は正常範囲でも感じる冷えなどは、内的感覚としての体温と言えるかもしれません。

 

出典:Strigo IA, Carli F, Bushnell MC. 2000. Effect of ambient temperature on human pain and temperature perception. Anesthesiology 92, 699707.

 

 

<内臓以外の痛覚情報も交感神経が伝えている>

 

体性感覚以外に、皮膚、筋肉などには痛み微細な神経分布があり、交感神経から交感神経幹に入って内臓感覚とともに伝達され、体全体からの情報が自律神経によって伝えられています。

内臓以外の部分の痛みについても、交感神経系は直接に関わっているようです。

 

出典:Craig AD. 2003. Pain mechanisms: labeled lines versus convergence in central processing. Annu. Rev. Neurosci. 26, 130.

 

 

島皮質、前頭前野、帯状回、視床下部ー下垂体など、内的感覚の発生と調整にかかわる部分は、まさに慢性痛の研究で注目されている領域。

痛みも内的感覚なのだ、とあらためて納得します。

 

この領域はfMRIでみるとほぼ休むことなく全身の情報を受け止め、それに応じて出力し続けています。 豊かで繊細でおそらくタフな内的感覚ですが、今の社会環境ではバランスを崩しやすくなるのも当たり前かもしれません。

 

全身の情報を直接に島皮質に伝える神経系は、霊長類にしかみとめられず、内的感覚はサブリミナルな領域にとどまらず、意識にのぼりやすいのです。この内的感覚によって意識が形成されるとも考えられているようです。

 

内的感覚の安定は、漢方医学のいう中庸かもしれないと思います。

慢性痛を含むストレス関連疾患に対処するために、内的感覚の健康度アップを簡単に心地よくできる方法があると良いですね。

 

和温療法はまさにそれだと思うのですが、とりあえず身近な方法として、「ゆっくりした呼吸をしながら楽しい場面を思い浮かべましょう」と患者さんにお話している毎日です。

 

社団法人大樹会 総合病院回生病院

女性漢方外来部長 野萱 純子

https://www.kaisei.or.jp/patient/outpatient/department/lady’s/

 

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