今回は(医)たかやま内科医院院長 雨宮 直子先生の投稿です
初めて千葉の東金病院で天野惠子先生の女性外来を見学させていただいたとき、心療内科の診療と非常に共通するところが多いと感じたことを覚えています。
これが私の女性外来との出会いでした。今回は、心療内科と一般内科をベースに女性外来診療をしている私が、診察室で感じていることをお話ししたいと思います。
女性外来と心療内科の共通点は、患者さんの話をとことん聞くところだと思います。
とことん聞いた患者さんの話の中に患者さんの不調の根っこが見えてきます。この根っこ探しをして、その根っことどうやって上手に付き合うかを患者さんと一緒に考えていくのが、私の診療です。
私が女性外来でよく出会う不調の根っこは、ふたつあります。
ひとつは
「普通にできていない」「みんなと同じようにできていない」という思い込みが強い自己否定型の根っこ、
もうひとつは
自分の大変さに気が付かないまま頑張り続けている自己無視型の根っこです。
1.自己否定型
「みんな普通に家事したり、子育てしたりしてると思うんですけど、みんなと同じように私はできていないと思うんです。
朝、私が洗濯物干すころには、もうみんな干し終わってて…私は普通にできていないと思うと落ち込みます。」
30代の1児のお母さんの訴えです。
みんなと同じようにできていないと思うと、落ち込むだろうというのは大いに共感できるところです。みんなが100点取ったテストで、自分だけ50点だったら…落ち込みます。
でも、本当に、彼女が洗濯物を干す前に、みんな干し終わっているのでしょうか。
みんなって誰でしょう?普通に家事するとか、普通に子育てするとか、普通ってなんでしょう?
この人の不調の根っこは、みんなと同じようにできないところではなくて、みんなと同じようにできないと思っているところにあるのだと私は思います。
みんな同じにはいかなくて当たり前ですが、その当たり前を当たり前と思えないのが、自己否定型の根っこです。
2.自己無視型
このタイプの人は、自分の限界を超えて頑張ってしまいます。
仕事をして、育児をして、保護者会の役員をして、子供会の手伝いもして、朝は家族全員のお弁当を作って、両親の病院通いに付き添って…
女性は社会や家族の中でいろいろな役割を与えられます。
それらを全部完璧にこなそうとすると、限界を超えて当たり前です。でも、手抜きをできなくて、どこで手を抜けばいいのかわからなくて、自分のことはそっちのけでやり通してしまった結果、不調をきたしてしまう患者さんがいます。
これが自己無視型の根っこです。
診察室で客観的に話を聞いていると、どちらのタイプも当たり前に不調を来していると思えるのです。
でも、その当たり前に気が付けなくて、患者さんは苦しんでいます。
これを「それは当たり前です。こことここのやり方を変えましょう」と教えても、それは治療にはなりません。患者さん自身が自分で気が付くことが大切です。
医師は患者さんとは違う個人ですから、その患者さんにとっての真実は医師にはわかりません。
宗教者のように道を示すことは医師にはできないのです。
でも、お話を伺っていると、だから大変なのかもしれないという根っこはわかってきます。その根っこに患者さんに気が付いていただけるように診療を進めていきます。
これは非常に忍耐と根気を伴う作業ですが、ここで短気を起こしては患者さんとの関係も崩れますし、症状も改善しません。
実際の診療では、あまりにつらい症状には抗不安薬や抗うつ薬、漢方薬を使うこともありますが、薬が治してくれるというわけではありません。
患者さん自身が治る道を見つけるのを待つのが、医師の役目と日々診療に取り組んでいます。
医療法人たかやま内科医院 院長 雨宮 直子
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