女性外来の診察室から

No.2 更年期女性を悩ませる「胸痛」の治療法とは。

第1回目にお話ししたように、閉経前後に見られる女性に特有の狭心症(微小血管狭心症)が、私に病気における男女の差を気付かせました。私が40代の時です。

第1回目にお話ししたように、閉経前後に見られる女性に特有の狭心症(微小血管狭心症)が、私に病気における男女の差を気付かせました。私が40代の時です。

 

この不思議な狭心症は、通常の狭心症が「労作時に多く、ニトロが有効で、数分で軽快する」と相場が決まっている中で、その傾向と異なり、また女性に圧倒的に多くみられ、私が1999年に母校(日比谷高校)の卒業生1770名を対象として行ったアンケート調査では、ほぼ10人に1人の割合で認められました。

 

30代半ばから60代半ばにかけて発症し、そのピークは40代後半から50代前半。

安静時に多く、多くは5分以内で収まるが、なかには数時間または半日以上も続き、胸部のみならず、顎、歯、耳の後ろ、背中、左腕等にも痛みが生じます。また、寒さ、ストレスが引き金になる等の特徴をもっていました。

その頃、このような狭心症は心臓神経症といわれ、治療の対象になっていませんでした。しかしながら、1980年代前半の米国の学会で初めて、National Institute of HealthのCannon ROが見事にこのような胸痛が心臓由来であることを証明してくれたのです。カルシュウム拮抗剤が有効であることも報告されました。

 

ところが、当時の日本は未だ心臓カテーテル検査の黎明期であり、運動負荷心電図でも、核医学検査でも虚血が証明されないこのような患者に心臓カテーテル検査をやってくださる医師はおりませんでした。論文を読みながら、患者さんの治療にあたりました。やはり、カルシュウム拮抗剤が有効で、更年期と関係があり、けっしてその発症頻度は稀ではないと確信するに至り、私は雑誌や対談などで微小血管狭心症について話すことが多くなりました。

 

そのうちに九州大学、熊本大学などの日本人に多い冠攣縮性狭心症の診断と治療に積極的に取り組んでいる医師たちが徐々に微小血管狭心症に関心を寄せてくださるようになりました。

2010年に日本循環器学会から出されたガイドライン「循環器領域における性差医療に関するガイドライン」では、微小血管狭心症がきちんと書きこまれました。この時のエピソードですが、ある外部評価委員のかたから、赤く大きな文字で、「こんな狭心症はない」といって返って来た時には、本当にびっくりしました。しかし、多くのかたの協力を得て、このガイドラインが日の目を見、やっと女性の狭心症診断に小さな前進があったかなと感慨深いものがありました。

 

残念ながら、いまだ全国から私の所へ多くの女性が、「胸痛があり、先生が書かれている症状と同じなので、近所の循環器専門医を受診したが、理解していただけなかった」とやってきます。ヘルベッサーR(私が第一選択薬としているカルシュウム拮抗剤)の投与により、10年も続いた胸痛から解放され、「私の10年の苦しみは一体何だったんだろう」と涙ぐむ患者さんもいるのです。

 

是非、医師の方は、更年期前後の女性で狭心症様の胸痛を訴える方がいらっしゃいましたら、微小血管狭心症を念頭にヘルベッサーRを処方してください。副作用としては、脈が多少、少なくなる、血圧が多少下がる、便秘等がありますが、大きな副作用はありません。

 

シニア女性患者

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