天野理事長ブログ&スケジュール

2024.01.03

第97回 正解の無い難問『減量』〜肥満との仁義なき闘い〜Vol.5(最終回)

柴田先生からいただいた「正解の無い難問『減量』〜肥満との仁義なき闘い」の最終回を2024年のコラム第一弾として送ります。是非、再度Vol1~5をお読みになってください。色々と新たに気付かされることも多いのではないでしょうか?

桜医院の柴田です。昨年の夏から連続投稿となっております私のコラムも、これが最終回です。今回は私の自虐ネタも含めて、汗と涙の減量努力「努力が必ず報われるわけではない。でも出来る事を諦めない、挫けないが大事」をテーマにお伝えしたいと思います。皆様、長くお付き合いいただきありがとうございます。

 

 年末に「天皇の料理番」というドラマの一挙放送がありました。結核で亡くなる主人公の兄の役を演じられていた鈴木亮平さんは、このドラマでは役作りのために凄く減量され、げっそりされた姿で演じられていました。1週間前に見た「エルピス」では、長身でがっしりした体格の男性を演じられていたのに、まるで別人。ハリウッド俳優もそうですが、痩せたり太ったり、役柄に応じて自由自在に体格を変えられる人が世の中にはいるのですが、これはとても凄い能力で、誰もが真似できる技ではありません。むしろ、それを特技とする人こそが「俳優に向いている人」という事かもしれません。

 

私はずっと「スリムでスレンダーなモデル体型」に強い憧れがあり、そうなれるなら何でもやってやる!!くらいに思って、無茶なダイエット、どころか、栄養補助ドリンクしか口にしない1ヶ月とか、断食3週間とか、寝る時間をがっつり削って激しく運動するとか、それはそれはもう、色々な努力を試みましたが、一度もモデル体型になることはなく、50代の中年太りのおばさんにたどり着きました。(笑)

途中経過では、46Kgだったり、かなり細身のスーツを着こなしていた時代もありましたが、それでも、自分が完璧に理想とするスレンダーな体型ではなく、いつも「もっと痩せたい、もっと痩せたい。。。」と思っていて、常に「減量中」を意識する生活を送り続けてきました。

野菜ばかりを毎日食べていたり、四つ足の動物の肉は控えたり、白米にほとんど手をつけなかった時期も何年もありました。月経が終わった後の1週間は必ず断食するという事を何年にも渡って繰り返したり、高価な総合栄養バランスドリンクに高額を払ってそればかりを摂っていた時期もありました。とにかくいつもとてもお腹を空かせていましたし、空腹を我慢することが当たり前の日常で、エネルギー不足で真夏でも寒くて仕方ないと思うほど、いつも身体は冷えていました。ジャズダンス、エアロビクス、ヨガ、スポーツジム歴も多数あります。パーソナルトレーニングにも随分通いましたが、忙しい生活の合間にそれらの時間を捻出することはとても大変なことで、そのために睡眠時間が短くなったり、強くストレスを感じることもしばしばでした。

 

そんな私の横で、なぜかとてもスレンダーな友人が、ポテトチップスを大量に食べ続けていたり、かなり脂っこい食事もぺろっと一気に平らげてしまう場面を目の当たりにすることもあり、それを見るたびに、羨ましいを通り越して、なぜあの人たちは太らないのだろう???と、ただただとても不思議に思ってきました。ましてや、上記の俳優さんのように、太ったり痩せたりを自由自在にできる人って一体どういう特殊体質なのだろう???と。

 

医者として多くの患者さん達の生活習慣改善指導にあたる中でも、ものすごい大食漢なのにスリムな体型を維持している方もおられれば、とても一生懸命減量努力されているのが伝わってくるのに、なかなか健康体重まで落とすことすら難しい方もおられるのは事実です。そこにはまだ解明されていない医学的メカニズムがあって、解明しきれていないから誰もが「安全に確実に痩せられる」というお薬もありません。レプチンとかインスリンの感受性とか、GLP-1とか、ここ十数年の間にも、そういう研究はいろいろ進んではきていますが、残念ながら、まだ決定的なメカニズムの解明には至っていません。

 

このコラムを読んでくださっている方の中にも、ギャル曽根ちゃんほどではないにしても「痩せの大食い」という人に出会ったことがあるという方はいらっしゃるでしょう。ギャル曽根ちゃんの食べても食べても血糖値が上がらず一定を保つという体質は、奇跡に近い特殊体質なのですが、実際にホントにそういう人も存在するわけです。つまり生活習慣だけが、痩せたり太ったり、血液データの値を決めたりするわけではないのは事実で、医学的にもまだ不明な点は多く、だからこそ「減量」について、これが「絶対的正解」であるという方法論の定着はなく、個々に応じてあるいは時代によって対応策はさまざまに変化し、難問であるがゆえに都市伝説的な、眉唾モノの情報も多く、混乱が起きやすいのです。

 

ただ、それでも言えることは、「体質だから仕方ない」と努力を諦めてしまったり、新しい情報にすぐに飛びついて基本的な生活改善を怠ったり、結果を早く出したくて極端な暴走をしたりしていては、いつまでも真に減量に成功することは無いということです。他人(ヒト)は他人(ヒト)。自分とは遺伝的体質も、これまでの環境も、骨格もホルモンもみんな違うので、単純に比べるだけではいいことは何もありませんが、今の自分に合ったやり方で、努力を諦めず続けることはやはり重要です。難しいからと投げ出してしまったら、そこで全てはゲームオーバーになってしまいますので、常に軌道修正を繰り返しながら、前に進み続けなければ目指すゴールには決して辿り着けません。

 

私自身も「諦めて全てを投げ出したい」と何度も思ったことがありますが、いくつかの軌道修正を繰り返しながら、今も減量努力のあり方を常に進化させ、続けています。情報の収集、医学的検証、実践とモニタリング。クリニックにはInBodyという高機能の体組成計を置き、自分自身も患者さんもこまめに測っています。自宅の体重計にもほぼ毎日、条件を決めて乗るようにしており、これは現状把握と生活管理にそれなりに有用ではありますが、InBodyのように、筋肉量と脂肪量を詳細に把握して分析するのとは違うので、単純な数値に一喜一憂して間違った行動に走りがちになりやすい事もわかってきました。単に努力すれば良いというわけではなく、減量努力が過度なストレスや睡眠時間の減少につながるものとなってしまうと、肥満ホルモンのコルチゾールが過剰に分泌されたり、逆に夜中に分泌される痩せホルモンが低下してしまう事もわかってきましたので、がむしゃらに頑張れば望む結果が得られるというものではないのが、本当に皮肉で、まさに仁義なき戦いなのです。

私がもし、若い頃にタイムスリップできるとしたら、20代30代の自分に一番伝えたいことは、「体重計の数値に踊らされて極端な食事制限ばかりしていては、ただただ筋肉を減らしてしまうばかりで、その後待っているのは代謝の悪い太りやすい体になることで、結果は想いとは真逆だよ!」という事ですし、もし閉経前の40代の自分に会えるとしたら、「焦らなくても大丈夫、閉経直前はホルモンが乱れて体重が増える時期があるけど、それは閉経と同時に終わるよ」という事だったりします。

 

失敗の経験があるからわかる事や、医学の進歩によって「健康に関する常識」が刻々と変化している事もあって、今だから言えることは、過去を振り返って後悔しても、今、医師として患者様達に熱意を持ってお伝えしても、なかなかうまくは行かないものですが、苦労を最小限に抑えて、最大限の効果を引き出すために大事なことは、やはり闇雲な努力ではなく、正しい知識を持って取り組む事であるのは間違いありません。

 

そして減量に努力することはもちろん悪いことばかりではなく、時に副次的な効果をもたらすこともあります。若い頃からジョギングなどの軽く汗をかく運動の習慣を持っていたことで、私の更年期はほどほど軽く済んだと言えるでしょう。また40代でベジタリアン寄りの食事をやめたことで、閉経直前の体脂肪率増加は、それまでよりもかなり抑えられたと自負しています。また私は比較的実年齢よりも若く見られがちなのですが、これは童顔であるというだけでなく、何度も断食を繰り返したことで、サーチュイン遺伝子が活性化されたからではないかと思われます。そしてまた、医師という仕事をする上で、当院の減量指導に通う患者様達から、これまで出会ったどの医師よりも減量の難しさと現実的具体的な方法を熟知した医師であると認知いただいているとも思っています。

 

熱くなってすっかり長くなってしまいましたが、最後に一つ。減量の難しさを考える上で、最近、特に実感していることがあります。患者様の食事記録を拝見していると、毎日がっつり間食(おやつを食べるを)している患者様が結構おられるのです。その方達に詳しく尋ねると、その間食は食後のデザートレベルではなく、ほぼ1食分に相当するカロリーのものであったり、内容が糖質と油脂と食塩で構成されたもの(お煎餅など)だったりするのです。減量指導に通っていただき、食事に関する基本事項を何度もお話ししているにも関わらずです。理由を尋ねると、夕飯前にお腹がすく時間帯が必ずあるからとか、お腹が空かなくても「おやつは1日1回は食べるもの」と単に習慣になっていたり、なぜか「お煎餅ならケーキなどと違って太らないでしょ?」と、かなりトンチンカンな事をおっしゃる方もいます。フルーツは体に良いからたくさん食べてもいいと思っていたり、アルコールさえ摂らなければ脂肪肝にはならないと思っておられる方もいます。

こういう思い込みは全く医科学的ではないのですが、患者さん達にとっては、当たり前の日常を構成する基本的な考え方として強く染みついてしまっているようです。よく考えたり、ちょっと調べたりすれば気がつくような誤解も、一度染みついた習慣や刷り込まれた基本的な行動パターンになってしまうと、なかなか行動変容は難しいものです。これは学歴や教養があるとか無いとかとは全く別の問題のようです。本来は最初に(子供の頃に)きちんとした栄養学を身につける教育を受けることが大事なのだと思いますが、学校教育の中で、そういう授業を受けた記憶は私自身もほとんどないので、おそらく家庭の中で親からなんとなく教えられたことだけがベースになっている方が多いのだと思われます。こういうのを、まさに「親ガチャに外れた」というのかもしれませんが、そういう意味では私の両親もこの手の知識にはかなり疎いタイプだったので、結局は本人がどれほどそこに関心を持つか次第なのかもしれません。ただ、当たり前の生活の中で刷り込まれた思い込みを取り除いて、日々の染みついた習慣を根本から変える指導を行うことは、とても骨が折れます。単に「はい、このお薬を飲んでくださいね」と言うよりも遥かにパワーのいる作業ですが、そこに踏み込むことが医療の基本であると私は考えています。

桜医院 柴田美奈子

 ありがとう雲

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