天野理事長ブログ&スケジュール

2023.10.26

第96回 正解の無い難問『減量』〜肥満との仁義なき闘い〜Vol.4

2023年1月2日に柴田先生から送っていただいていた原稿を見逃していました。ここに深くお詫びして、早速掲載いたします。

ガッツポーズする子ども

中高年女性の肥満対策にとても力を入れている桜医院の柴田です。私の連載コラム第4弾!!

長くお付き合いいただきありがとうございます。

 

今回のテーマは運動。

「え〜、やっぱり運動しなくちゃダメですか?食事をしっかり管理すれば減量はできるんじゃないですか?」と思う方も多いでしょう。でも、そう思った貴女はまだダイエット初心者。食事管理はもちろん大事です。これ無くして減量はあり得ませんし、食事管理だけでも、ある程度までは減量に成功できることも確かです。しかし!

「それでもやっぱり運動もしなくちゃいけない!」なのです。

 

それでは始めましょう。

4)「それでもやっぱり運動はしなくちゃいけない!筋肉や血液データは裏切らないし、誤魔化せない。」

 

前回、食事管理について書かせていただきました。食事の量(カロリー)や栄養バランス(PFCバランス)を考えた生活管理をすれば、「どんどん太る」という事はおおよそ無くなるはずです。それどころか、食事管理だけで、「10Kgも痩せた」「健康体重まで無理なく減量できた」という経験を持つ方も多数おられると思います。しかしその成功体験は、大抵は長くは続きません。人間の体は変化を好まず、減量すると元に戻ろうとする力(増量に傾く力)が一気に全開になる時期が必ずやってくることと、摂取する栄養が少なくなってしばらく経つと、その栄養量でも体が十分と感じる省エネモードになってしまうからです。これを回避するためには、運動して代謝力をあげ続けることが理論上重要なだけでなく、運動することで筋肉を増量し、脂肪を燃焼させることで、それほど体重を落とさなくても、痩せて見える綺麗なプロポーションを作ることが出来ます。

医学的な研究で、歩く量が減ると、善玉コレステロールが下がり、逆に悪玉コレステロールが上がることを示したデータもあります。そして、運動不足で筋肉量が少ないと、死亡率が上がることもわかっています。

こういう話しをすると、「健康的に痩せるには運動が必要ってことでしょ。そんな事はわかっているけど、とにかく健康的かどうかということよりも、今はとにかく早く減量したいのよ」と思う方もいるかもしれません。お気持ちわかります。私も若い頃はそういう気持ちがとても強くて、遠回りになりそうな運動よりも、早く結果が出そうな過度な食事制限ばかりに取り組んでいた時期が長かったのですが、しかし、減量こそ「急がば回れ」なのです。確実に結果を出すためには、長く健康的に行える方法でなければならないのです。更年期も過ぎたおばちゃんドクターの私が、タイムマシーンに乗って若い頃の自分に会いに行けたとしたら、一番伝えたいことは、それです。

それでは、減量のためにどういう運動をすべきか!?

についてお話ししていきましょう。

 

マラソン選手に太った人はいない。これに反論する人はいないと思うのですが、ジョギング、サイクリング、スポーツジムでのトレッドミルやエアロバイクといった有酸素運動を行う事は、体脂肪を落とすことに大変役立つ事は間違いありません。では、有酸素運動ばかりすれば良いかというと、それも間違いで、軽い筋肉トレーニングを先に行い、体を温めて筋肉を刺激してから有酸素運動に入る方が、より効率的に代謝を高めてくれます。逆に、体脂肪を落とすことよりも、筋肉を増やすことを主体に行いたい場合は、軽い有酸素運動で体を温めてから筋肉トレーニングを行う方が効率的です。最近はヨガやピラティスといったインナーマッスルを鍛えたり、体のバランスを整えたりするのに効果的なメソッドも色々あります。運動生理学の大家が考案した効率の良い運動方法であるスロートレーニングや、減量に効果的とされる有酸素運動と筋肉トレーニングを交互に連続で行うサーキットトレーニングなどを用いた民間の運動施設も等も色々あります。特にピラティスは、病気を持つ人のためのリハビリ学から生まれたメソッドで、かなり医学的な意味を持ち、以前だったら整形外科的な手術でしか治療法のなかった病態を、ピラティスで完治させられるようにもなってきています。こういったメソッドは減量には直結しませんが、骨格の歪みや動きの癖があるために、除脂肪させるための運動効果が上がりにくい人にとっては、本格的な運動に入る前に必要不可欠なものであったりします。体の左右バランスが崩れている人が、闇雲に運動をすると、効果が上がらないだけでなく、怪我に繋がることも多いので、私のクリニックでは、まずここから始めるよう指導する症例が多いのは確かです。

 

大手のスポーツジムのように、筋肉トレーニングを行うマシーンも、ヨガやピラティスを習えるスタジオレッスンも、有酸素運動を行うランニングやサイクリングマシーンも、全部揃っているようなところに入会して、計画性を持って定期的に通えるのは理想的です。さらには、経験値の高いトレーナーさんを個人的に雇って、個々の現在の運動レベルに合った筋肉トレーニングのプランニングやその更新、マンツーマンで指導を受けたり、出来たら運動後の筋肉ケアまでしてもらえたら、尚、良いでしょう。

ただ、いくら理想的な状況を整えても、実際にそれが現実に行えなければ意味がありません。立派なスポーツジムはお金もかかりますし、入会はしたものの、仕事が忙しくてほとんど通えなかったとか、最初は意気揚々と通ったものの、通いやすい場所ではなかったために「段々行かなくなってしまった」では、運動本来の効果を実感することがなく終わってしまいます。運動の最大の問題点は常にここにあります。多くの方が、本当に効果が上がるところまで何らかの理由で続けられないのです。そして多くの方は、自分の意志が弱いために続けられなかったのだと感じて落ち込んだり、運動は義務であって、ただ、「義務を熟す」ということが運動なのだという印象を持ち、「運動=楽しい、気持ち良いもの」では無くなってしまうために、よりそこから離れていったり、二度と近づかなくなっていってしまうのです。

続けられないのなら、続けられるものに変えましょう。工夫して続けられるように環境を整えましょう。これなら楽しいから続けられる、と思えるものを探しましょう。

私のクリニックでは、ご自宅で畳一畳分のスペースがあれば出来る、あまり特別な道具を使わなくても出来る運動方法を、できるだけ指導するようにしています。自宅でできれば、どこかに通う時間も必要ないですし、お天気に左右されることもありませんから。ただ、個人の特性として、決まった曜日の決まった時間にどこかに行ってやる方が、自宅で一人で行うよりも続けやすいという方もいますので、そういう方には、スタジオレッスンをおこなっている民間施設や公共の体育館などをご自宅か職場の近くに探していただくことを薦めています。内容は出来るだけ全身運動であるものの方が良いには越したことありませんが、体育館で卓球サークルに入るとか、テニス教室に通うとか、球技なら好きなので続けやすい、という方もおられると思います。まずは楽しく続けやすいものから始めてみるのも一つです。減量に何が最適かという以前に、減量のために運動するというのは、少なくとも、ある一定期間以上続けられなければ全く意味がないからです。まずは定期的に運動することに慣れることから始めて、徐々に減量に効果的な運動方法に近づけていくということでも良いと思います。楽しいから続けられる、続けていくうちに、体を動かすことは気持ちの良いものだと実感できるようになる、元気になる、元気になるとますますやる気も上がって、より良いものを探して積極的に運動するようになる。それで良いのです。

 

一つの事を始めたら、まず、3ヶ月は継続してみてください。3ヶ月続けてみて、それでどのような効果が上がったか、そこで初めて評価できます。ある時、「柴田先生に言われて、私、この2週間毎日1万歩歩いてみたんですけど、全然痩せないんです!どうしよう先生!」と診察時にとても不安そうに涙目をされた方がおられました。この方がとても頑張ったことは評価します。人は頑張ったらご褒美が欲しいのもわかりますが、運動が減量というご褒美に結びつくには、ある程度時間が必要です。焦って効果がないから別の運動方法に切り替える。。。を繰り返し、結局何をやってもうまく行かないと、経過途中で諦めてしまう方は少なくないのですが、それはとても勿体無いことです。

 

減量努力は結果に結び付きにくく、それゆえに挫折を繰り返す人が多いのは確かです。ただ、私は医学的に色々な角度から評価していますので、実際には、「体重は減っていないけど、体脂肪量は減っている」とか「体重は減っていないけど、腹囲が10cmも減っている」とか、「血液データでは脂肪肝のデーターが改善した」など、経過途中で体重の変化とは別の明らかな減量効果を患者さん達から感じる場面があります。特に、運動をきちんと定期的に行なっている人からは、その兆候は強く確実に感じられる事が多く、血液データーに反映される事は体重の変化よりも大抵は先に現れます。「筋肉は裏切らない」という言葉がありますが、私は、血液データーは努力を裏切らないし、またいくら見た目はごまかせても、その方の日頃の行いは必ず血液データーに出てしまうものだと感じていますので、ごまかしも効きません。

 

最後に、一つだけ気を付けて欲しい事は、運動はやり方を間違えると、時として凶器になります。適切な指導者のいないところで、自己流で運動することは効果が上がらないだけでなく、怪我の元にもなります。私の患者さんの中には、急に激しい運動を始めてしまった結果、膝を悪くして、手術しなければならなくなった方もいました。まずはマックスの体重から5%程度は食事で減量を行い、それから食事と運動の両方を取り入れていくことをお薦めしますし、テレビやネットで話題になっているから。。。というだけで、運動生理学に全く基づかない素人発想の運動にのめり込むことは全くお勧めできません。

 

さて、次回は、まとめの項になります。

色々なお話しをしてきましたが、減量はまだまだ奥が深く、なかなか理論的なことだけでは説明のつかない事もたくさんあります。次回はそのこともお話ししたいと思います。

 

桜医院 院長 柴田美奈子

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