天野理事長ブログ&スケジュール

2023.06.19

第95回 口内炎の漢方治療

今回は、誰でも一度は経験したことがあると思われる口内炎についての、和歌山労災病院 呼吸器内科・女性外来 辰田仁美先生からの投稿です。

漢方棚

 

 

 小児期からの口内炎が漢方で改善した症例を経験しました。

口内炎の原因は大きく分けると次の3つがあります。①ストレス・疲労・栄養不足、②機械的刺激、③ウィルス・細菌感染などです。

 ストレスや疲労を蓄積すると口内炎の原因となります。体自身の持っている抵抗力が落ちることが原因で、気がつけば、口内炎が頻繁にできる体質になることもあります。また、偏った食生活やバランスのとれた食事をしていないと口内炎の原因となります。特に、粘膜を守ってくれるビタミンB群のビタミンB1やビタミンB2の不足や、体の免疫や抵抗力を高めてくれるビタミンCの摂取が大切です。

 次に機械的刺激として、歯並びがあります。口内炎が頻繁にできる方の中には、歯並びの悪く、歯との接触により、粘膜を傷つけてしまいます。この場合は、同じような箇所に口内炎ができ、再発します。また、ドライマウスでは食べ物や歯などが直接触れるため、粘膜を傷つけやすく、口内炎となります。

 最後にウィルスや細菌によっても口内炎は発症し、ウィルス性口内炎の原因に単純ヘルペスや林病、クラミジアなどがあり、治療が必要です。

 

今回の症例は58歳女性です。小児期より口内炎になることが多かったがようですが、30歳頃より月の半分以上口内炎を患い、漢方治療を希望して受診されました。初診時に、患者は50歳であり、更年期障害によると思われるホットフラッシュもあり、舌下静脈は怒張していたので桂枝茯苓丸を処方しました。2ヶ月服用しても、口内炎は改善せず、その後、補中益気湯+桔梗湯、半夏瀉心湯、立効散などでは改善しませんでしたが、小柴胡湯加桔梗石膏で少し改善しました。便秘症もあり、こちらは大黄牡丹皮湯にてコントロールできました。口内炎に対しては口渇の自覚症状はありませんでしたが、滋潤作用を期待して麦門冬湯を処方したところ、2か月程度で改善傾向となりました。一方、大黄牡丹皮湯は患者がメラノーシスを気にしたため、一時中止しました。しかし、麦門冬湯単独では口内炎が再燃したため、大黄牡丹皮湯を再開したところ、口内炎は完全改善しないものの、2か月に1か所程度となりました。

 

口内炎を東洋医学的に考えると①食積や肺胃の湿熱②陰虚内熱③気虚あるいは血虚となります。

1.食積や肺胃の湿熱:抗がん剤で生じた口内炎やウィルスや細菌感染による炎症の場合などで、消炎・清熱の処方となり、黄連解毒湯や半夏瀉心湯が用いられます。

2.陰虚内熱:慢性疾患や疲労による消耗、影響状態の悪化、津液不足による乾燥による場合で、滋陰、虚熱の処方となり、温清飲や黄連解毒湯+四物湯などが用いられます。

3.気虚・血虚:体力や抵抗力を補う人参や黄耆の入った漢方薬、補中益気湯、十全大補湯、黄耆建中湯などが用いられます。

 

 今回の症例では、口内炎が長期間持続しており、気虚・血虚の状態にあったと考えられます。麦門冬湯の構成生薬は、麦門冬、半夏、人参、大棗、粳米、甘草で、半夏以外は滋潤作用があり、人参も入っているので、気虚にも対応できます。本症例では麦門冬湯のみでは改善できず、便秘に対して処方していた大黄牡丹皮湯も必要であったことから、滋潤+瀉下が必要であったと考えています。

参考図書:漢方の基礎と臨床 高山宏世編著 参考塾創刊

 

和歌山労災病院 呼吸器内科・女性外来 辰田仁美

Copyright © 2014 Japan NAHW Network. All Rights Reserved.