天野理事長ブログ&スケジュール

2023.02.19

忘れられない当直の夜

腎愛会上山病院 診療部 嘉川亜希子先生からの投稿です。

夜空天体

コラムの順番が回ってきました。さて何を書こうかと思っているうちに〆切を2日も過ぎてしまっていました。当直しながらこのコラムを書いています(こういう執筆物はたいてい当直の夜に書きますよね?私だけですか?)。今当直しているのは療養型病床のみの病院で、救急車が来ることもあまりなく、落ち着いていますが、若い頃は当直にいろんな思い出があります。患者さんの状態が悪くて、自分の心臓が止まるかというピンチの夜もありましたが、そういう状況ではない、忘れられない夜があるのでそのお話をしましょう。

 20代の終わりに地方の中核病院に勤務していた時です。お盆時期でした。熱発や頭痛等簡単な診察ばかりで、今日は平和だなと当直室で仮眠に入りました。「耳が痛い患者さんがもう救急外来に駆け込んできています」と夜中に起こされました。大柄の若い男性が脂汗をかき、片耳を抑えて七転八倒されています。耳の奥を診察したくても痛みでじっとできず、観察するのも困難です。寝ていたところに耳に何かが入ってきたとの訴えに、先の細長いピンセットを持ってきてもらい、よく見えないまま耳に入れました。何かを掴んだ感触はなかったのですが、引き出してみると、細長い物体が出てきて、なんとムカデでした。「あ、まだ生きてる」という声と共に、横から手が伸びてブチっとムカデを潰したのは、付き添われていたお腹の大きな身重の奥様でした。ムカデの死骸は記念に持って帰られました。仮眠に戻って1時間ほど寝入ったところでまたコール。「先生、嘘みたいですけど、耳に虫が入ったという人がまた来ます」。えー、うっそーと思いながら救急外来で待ち構えていたら、「先生、診察キャンセルです。今玄関でタクシーから降りた瞬間に虫が耳から出たみたい」。それはよかったねと仮眠に戻って、明け方にまたコール。「釣り針が顔に刺さった人が来ました」。救急外来のドアを開けて中を覗いたら、アフリカの部族の人がいました。びっくりして一旦ドアを閉めて、深呼吸してまた開けました。大きなカラフルな羽を顔の真ん中につけたおばさんが不機嫌に座っていました。港で散歩していた時に運悪く、後ろに大きく振りかぶった釣り人の針がおばさんの鼻に引っかかってしまったのでした。釣り針には返しがあるから引き抜けません。麻酔をして、ググッと押して針を抜きました。切った羽はいらない。と不機嫌なまま帰っていかれました。当直も終わったと検食の朝食を食べているところにまたコール。えー、もう8時だよ、一般外来開くの待てないの?「毒のある魚の棘が刺さったからすぐに診てほしいって駆け込んできた」と。診察に行きました。「ゴンズイの棘に刺されました。毒があるからすぐ病院行くようにみんなに言われて」。指が赤く腫れていました。でもゴンズイって?25年くらい前の話で、スマホですぐ検索できた時代ではありません。「先生、ボイラーの田中さんが釣りするから聞いてみたら?」。田中さんに聞き込みしました。「あー、ゴンズイは毒があるよ」。なんの毒?刺されたらどうなるの?「なんの毒かはわからない。刺されたら痛いよ!」。役に立たない情報でした。次に魚に詳しいという薬局の山田先生に聞き込みです。「ゴンズイの毒には詳しくないんです。ごめんなさい。でもリハビリの宮田くんならわかるかも」。8時半になったので宮田さんへの聞き込みはやめて、皮膚科外来へ診察お願いしました。朝の循環器内科カンファで昨日の当直どうだった?と聞かれました。「耳からムカデ→耳から虫アゲイン(診察未遂)→鼻に羽飾りおばさん→ゴンズイ射し傷」まで言うと、「あー、ゴンズイ、痛いよねー。熱いお湯につけるとタンパクが変性して弱毒化するよ」。なんと、ここにいました。ゴンズイの毒に詳しい人が!すぐに皮膚科へ情報伝達しましたが、「あ、もう切開洗浄しちゃった」。一歩遅かったです。

 

            腎愛会上山病院 診療部 嘉川亜希子

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