天野理事長ブログ&スケジュール

2022.11.28

正解の無い難問『減量』〜肥満との仁義なき闘い〜Vol.3

お待たせいたしました。柴田美奈子先生から「肥満との闘い」第3弾の寄稿です。

紅葉と滝

減量のお話しの第3弾です。

今回の話しが、このシリーズの要の部分になりますでしょうか。始めましょう、減量に関する食事の話しです。

 

3)基本はやっぱり適量の食べ方。食物繊維にミネラル、PFCバランス

 

 「ダイエット」という言葉の本来の意味は「食事療法」であって、減量という意味はなかったはずなのに、日本ではこの言葉が「減量努力」そのものの代名詞として使われ、定着し始めています。それだけ、減量には食事管理が重要で、まずはこれありき、だからです。皆さんは、自分がどのような栄養バランスで、どのくらいのカロリーを摂取しているか、直ぐに答えられますか?ほとんどの方は、あまりこれらを意識せずに毎日の食事をしておられると思います。それでも特に困らないし、カロリー管理だ、栄養バランスだって気にするよりも、その時その時に食べたいものを食べるれことが楽しくて幸せなことだと信じている方も多いでしょう。特に

「健康にいいものとか太らないものって、だいたい美味しくないものでしょ?健康にいいとか、太らないかどうかより、美味しいものを食べられる事の方がいいじゃない」って思い込んでいる方も世の中には多いのですが、これは絶対的な間違いです。健康に良いものは、たいてい美味しいものです。そう感じられないのは、貴方が健康じゃないから。健康になれば、味覚も変わります。そして健康であるかどうかは、幸せであるかどうかに直結します。これは前回までの中でもお話ししていますが、病気になって、痛いとか苦しいと思う経験は少ないに越したことはありません。

 

話しがちょっとそれましたね、減量のお話しでした。減量したければ、やはり食事管理は絶対的に必要です。どんなに良い食材でも、栄養バランスが良くても、食べ過ぎていたら、減量はあり得ないからです。その方にとってちょうど良い分量、丁度良い栄養バランスの食事にすることは絶対条件です。これは多くなければ良いということだけでなく、少なすぎてもダメです。「カロリーの少ない食事をしていれば必ず痩せられるでしょ?それが出来るか出来ないかだけでしょ?」と誤解している方もこれまた多く、かくいう私も、30代後半までは、とにかくがむしゃらに食事量を減らす生活をしていましたが、それならいつもモデルさんのようなスリムな体型でいられるかと言ったらそんな事はなく、それで解決するほど減量は簡単な話しでは無いから、きちんとした知識と指導が必要なのです。私は何度も努力と失敗を繰り返してようやく学びましたが、これから本気で減量に取り組もうと思う方たちには、先人の失敗経験とエビデンスから先に学んで、最短距離で努力される事を薦めたいのです。

「カロリーの少ない食事を継続できれば減量できるけど、どこかでそれが我慢できなくなって十分な管理ができなくなり、反動で前よりもたくさん食べてしまうからリバウンドするのだ」という思いこみは、ダイエッターあるあるなのですが、実はこれ自体が間違いなのです。私たちの体にはホメオスターシスと言って、体の状態を常に一定に保とうとする力が備わっています。これは生命体が生命を維持するためにとても重要な能力なのですが、この能力を騙せる範囲でなければ、私たちは太ることも痩せることもできないのです。なので、急激な減量の後には必ずと言って良いほどリバウンドが生じます。少ないカロリー摂取を続ければ、そのカロリーでも十分に生きていけるよう、低燃費で代謝力の低い体になってしまいます。こういった人間のメカニズムを良く理解した上で、減量に取り組まなければ、待っているのは失敗だけです。そして「努力が報われない」というのは、本当に辛いもので、頑張ったのに思う結果が出なかった時の悲しさ・虚しさは計り知れず、そうして多くの人が減量努力という闘いに惨めに敗れ、諦め、いつしか闘いから離れていくのです。

 

まずは、自分が日々どのくらいの消費カロリー能力を持っているのかを知ることから始める必要があります。これはかなり個人差があり、年齢、性別、その時の体重や、毎日の活動量、そしてストレスや自律神経バランスなどによっても変わってきます。おおよそは基本の計算式から算出できますので、それを参考にすると良いのですが、細かくは減量に取り組みながら己の消費カロリーを探っていく必要があります。この作業を丁寧に行うことが減量努力の最初の大きな要になります。おおよその計算式は、ネットでTDEE(活動代謝量)という言葉で検索していただくと、自分の条件を入力し、クリック一つで勝手に計算してくれるアプリやサイトがヒットしますので、それをご利用されればよいですし、最近は大変性能の良い活動量計がたくさんありますので、それらを購入し装着すれば、かなり正確に知ることができます。活動量計は携帯電話にも大抵その機能がデフォルトされていますが、携帯電話は常に体に装着はしていないので、それを参考にするのはあまりお勧めできません。活動量計は腕時計タイプのものを薦めます。私はPolarというものを長く愛用していましたが、今はGarminのLilyというシリーズを使用しています。有名なのはfitbitというもので、1万円くらいのものでもかなり性能の良い活動量計が多数市場に出ています。

 

さて、1日の消費カロリーが分かったら、その80〜90%くらいを1日の摂取カロリーと位置づけ、食事の構成をしていきましょう。1800Kcalが1日の消費カロリーだとしたら、1440Kcalくらいが1日に摂って良い摂取カロリーということになります。この時の最も大事な注意点は、摂取カロリーが基礎代謝を割らないようにすることです。基礎代謝を下回るカロリー摂取になると、低燃費の身体になり、最初は順調に減量できても、直ぐに壁にぶつかります。それどころか、どんどん太りやすく痩せにくい身体に変わっていってしまうので、ここはとても重要なポイントになります。1年後に減量に成功できても、5年後に今より太ってしまったら、それは間違いなく失敗ですから、健康体重まで確実に減量し、それを何年後も維持できている事を目指す行動をしなければいけません。それには、ゆっくり確実に減量できる行動を取らなければいけません。カロリーコントロールをしつつ、代謝を落とさない生活を送り、時には代謝力を回復するためにあえてしっかり食べる期間を設けたりして、ようやく確実に減量を進めていけるようになります。年齢と元の体重にもよりますが、おおよそ、年間で3〜5kg減程度のスピードが、確実な減量の限界と思われます。長い道のりに頭がくらくらして絶望する思いの方もいると思いますが、目的を見失わずに確実に前に進むには、ホメオスターシスを騙し、リバウンドを阻止するための綿密な計画と時間をかけた丁寧な行動が必要になります。

 

さて、カロリー管理の方法が分かったら、次は内容です。同じカロリーなら中身はなんでもいいという事ではありません。ひと頃、1日1食しか食べない減量方法がもてはやされたり、最近ではオートファジー論理に基づくプチ断食などが流行っていますが、これらは相当、上級者向けの減量方法で、誰もが成功しやすい方法ではありません。どちらかといえば、「朝食を抜く人に太っているひとが多い」という統計もあるくらいなので、起きている時間を3等分にきっちり区切って5〜6時間間隔くらいに食事を摂られることを勧めます。しっかりお腹が空いてから次の食事が来ることが大事であること、それでいて空腹時間が長すぎて次の食事の時に食欲が暴走するのも減量にはよく無いので、それらを踏まえると、5〜6時間間隔くらいがちょうど良いからです。内容の構成は、腎臓や肝臓などの内臓の病気のない方であれば、タンパク質をしっかり摂る事を中心に食事のメインメニューを組み立て、デトックス力や代謝能力を落とさないようにするために、食物繊維やミネラル・ビタミンをしっかり摂れるよう、野菜や海藻、きのこ類を使った副菜を必ず複数摂られる事を薦めます。タンパク質やカルシウム、食物繊維は、大抵意識しなければ必要量をなかなか摂れないからです。また、患者さんたちの食事記録を拝見すると、最近はお魚料理をあまり召し上がらない方が肥満の方に多く見られます。メインのメニューはお肉とお魚が交互に出てくるくらいが理想です。難しい調理をしなくても、市販の照り焼きの素やムニエルの素を使用してもいいので、簡単なメニューから取り入れてみてください。

 

減量指導は、オーダーメイドであることがとても重要で、患者さんたちお一人お一人の年齢や骨格、血液データーなどによって細かい指導内容はかわります。一人一人、問題点が異なるからで、それぞれに合わせた修正作業がとても大事なので、万人向けにお話しをするのが難しいところはそこにあるのですが、基本の基であるのが、カロリーバランスであることは間違いありません。世の中に多くの減量方法が時代と共に盛衰してきましたが、その方にとって多すぎる分量の食事を摂っていたら、減量できるわけはなく、そこをきちんと踏まえた上で、さらに細かいところを練ることになります。またタンパク質と脂質、炭水化物のバランス(PFCバランス)を整えることは食事の内容を考える上ではそれが基本で、油抜きや糖質制限だけを考えた食事内容は、短期間の効果や、数キロ程度の微調整レベルの減量には効果を発揮しても、長期間にわたって、また見た目のスタイルが大きく変わるほどの減量には、ほとんど結びつきません。最近は食事のカロリーやPFCバランスを簡単に計算してくれる携帯アプリなども多数存在しますので、便利なツールは大いに活用し、まずは自分が実際に食しているものがどういうカロリーでどういう栄養バランスなのかを知ることが大事です。「今の己を知る」から始めないと、前には進めません。目的地にも辿り着けません。

 

この項目だけでも、まだまだお伝えしたいことが山ほどあるのですが、先に進めましょう。

次回はいよいよ桜医院の本丸である「運動指導」の話しに入ります。長くお付き合いいただき大変恐縮ですが、次回もまた是非よろしくお付き合いくださいませ。

 

桜医院 院長 柴田美奈子

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