天野理事長ブログ&スケジュール

2022.10.22

「冷えは万病の元。冷えを防いで体も心もホカホカに。」

今回は、山形県立中央病院 糖尿病・内分泌内科副科長 鈴木恵綾先生からの投稿です。

漢方薬剤セット

 

秋が深まり、紅葉が待ち遠しい季節となりました。一気に気温が低下してしたことで、体調の変化を感じていらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか?私の住む山形県は、「夏は酷暑、冬は極寒」の地域です。1年の中でも過ごしやすい「秋」は短く、10月中旬を過ぎると冬はすぐそこまでやってきてしまいます。私は高血圧診療を専門にしておりますので、気温が低下し、患者さんの血圧が上昇してくると、本格的な秋の訪れを実感します。

血圧上昇のみならず、気温の低下は私達の体調に様々な影響を及ぼします。寒さによる体調不良、その最たるものが、「冷え症」ではないでしょうか。冷え症とは、「通常の人が苦痛を感じない程度の温度環境下において、腰背部、手足末梢、両下肢、偏身、あるいは全身的に異常な寒冷感を自覚し、この異常を一般的には年余にわたって持ち続ける病態。」1)とされています。およそ1800年前の中国漢方の古典、「金匱要略」では、「女性は虚になることで非常に冷えて、その冷えが体の中に積もり、気が滞り、いろんな病気が起こる。」と記載されており、古くから女性は冷え症になりやすいと考えられてきました。実際、患者さんに伺うと、多くの方が冷え症を自覚されています。冷えは、月経不順や月経困難症、腰痛、肩こり、下痢、便秘など、様々な症状を引き起こします。体調不良だけでなく、生活の質にまで影響し兼ねない「冷え症」。どのように対応したらよいのでしょうか。

まずは、「温活」という言葉に代表されるように、身体を温めることが基本となります。特に、頭寒足熱に基づいて下半身を温めることは非常に有効です。また、筋力が弱くなると、血流が低下し冷えにつながります。筋力を維持するための運動は大切です。入浴も、シャワーだけで済ませずに湯船に浸かり、体を芯から温めましょう。過度のダイエットやストレスも冷えを引き起こします。身体を温める食事を摂ること、ストレスを貯めないことも、冷えの改善に効果的です。薬での治療はどうでしょうか?残念ながら、西洋薬で冷え症の治療をすることは困難です。一方、漢方薬は冷え症の治療を得意としています。例えば、冷え症の代表的な処方である「当帰四逆加呉茱萸湯」は、血液の巡りが悪くなって手足が冷える方に非常に有効です。お腹の冷えには「大建中湯」がよく効きます。新陳代謝が低下して、全身が冷えたり、倦怠感を伴ったりするタイプには、「真武湯」や「補中益気湯」などを用います。また、足は冷えるけれど頭はのぼせる、いわゆる冷えのぼせには、「加味逍遙散」で気の流れを整えたり、「桂枝茯苓丸」で血の滞りを改善することが、冷えの解消にもつながります。

「冷えは万病の元」というように、積もり積もった冷えは様々な体調不良をもたらします。冷えない生活を心がけ、漢方薬を上手に用いて、身体も心も温めて、これから訪れる厳しい冬を笑顔で乗り越えて参りましょう。

 

 

参考文献

1)      寺澤捷年:漢方医学における「冷え症」の認識とその治療,生薬学雑誌,41,85‐96,1987.

山形県立中央病院 糖尿病・内分泌内科副科長

教育研修部副部長      鈴木 恵綾

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