天野理事長ブログ&スケジュール

2022.02.03

統合失調症の一般周知の必要性

㈱ニッセイ基礎研究所 天野 馨南子シニアリサーチャーの投稿です。

悩む女性 ジム風景

※本稿は患者さんご本人の特定を回避するため、事象に関して多少のフェイクを含みます。

 

私は一般会員として当団体に所属しておりますが、一般会員だからこそ医療に関してご提案したいことが時折あります。先日、当団体の理事長にあることについてお伝えしたところ、「そのことをコラムに是非書いて欲しい」とのお話がありましたので、執筆させていただきます。

 

ある日、「Aさんの庭にあったとても可愛い置物が、うちの近所のマンションの駐車場の隅に飾られている。あの置物はうちの小学生の息子のお気に入りの置物だったものだし、Aさんのものに間違いないと思う」との話がBさんからでました。

Aさんが大慌てで自らの庭を確認すると、その置物がなくなっていました。Bさんに聞いたマンションを見に行くと、なんとその置物以外にもAさんの庭にあったものがマンションの共用廊下や駐車場に多数飾られていることがわかりました。

 

実は、この「謎の置物移動」をAさんに教えたBさんも、自宅に置き配達を頼んでいたアマゾン購入品が次々と何者かに盗られることが続いて困っていたのです。

Bさんがびっくりしたのは、Bさんがアマゾンで注文した人の身長より高さのある組み立て式物置の巨大サイズの置き配までが盗まれ、なんとその物置が近所のマンションの駐車場に組み立てられて堂々と置いてあったのです。 

2日ほど前から、その物置を駐車場でせっせと組み立てているマンション住人女性の姿が目撃されていました。

 犯人はすぐにわかりました。その女性のマンションドアの前には、これまた堂々と盗品と思われる飾り物や男女・大人用子ども用を問わず、沢山の靴が並べられていたのです。それ以外にもマンションの共用スペースには、あり得ないほどのものが溢れ、かわいらしく飾りたてられたりまでしていました。

 近所の間であっという間に噂になり、「そういえばうちの庭の○○がない」という方が続出。一度になくなるわけではなく少しずつなくなっていくので、すぐには気が付かない方が多かったようです。

防犯カメラがある場所のものは盗まれておらず、深夜に懐中電灯をもった女性が頻繁にうろうろしている、気持ち悪い、といった目撃情報がよせられました。

 そのマンションを眺める家に住む方によると「この半月くらいで一気に物が増えた。なんだか変だな、このままだとゴミ屋敷になるんじゃないかなと思っていた」とのことでした。

 

結果的に、警察に盗難通報が多数寄せられ、町内回覧板で情報が回り、離れた所に住むマンションオーナーさんにも被害が伝わりました。

大家さんとしては、この1か月くらいで彼女とのトラブルが増え、例えば部屋の中の故障の修理に入ろうとしても、彼女が断固拒否するといったことがあり困っていたそうです。大家さんもそれ以外にも何かあったようで、防犯カメラを駐車場に最近、新規で設置したとのことでした。

 

警察によると、数年前にも彼女はその当時の住まいの近所とトラブルを起こし、警察に記録が残っている女性とのことでした。そのトラブルの際に、今のマンションに転居となったようです。 

彼女の親御さんの連絡先が警察に記録されていましたので、親御さんに連絡がつきました。彼女は施設に保護、近隣住民は親御さんの確認の上で屋外のものを取り戻しました。しかし、彼女の家の中はベビーカーなども含めてものが溢れかえっており、とても盗品を探しだせる状態ではないため、転居クリーニング時にまた探しましょう、となっている物もあるようです。

おそらくですが、女性外来患者様の問診記入補助ボランティア3年間の経験、産後うつで通院していた時の経験、心理カウンセラー資格取得の経験という私の経験から鑑みるに、彼女は統合失調症を発症しており、それが何らかの原因でまた悪化したのだろうと思います。

 

統合失調症は、実は世界で約100人に1人(0.7%)はいる身近な疾患です。

厚生労働省の以下のサイトに詳しく説明されてはいるのですが、一般的に周知されているとはとても言い難い状況です。今回一番の被害額のBさんも「うつ病と統合失調症の違いが判らないし、そもそも統合失調症なんて知らなかった」とおっしゃっていたそうです。

https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/ (厚生労働省 こころの病気を知る)

実は私の仕事関係者にも統合失調症を発症した方がおられましたが、やはりその上司でさえも「うつ病とどう違うの?」「産業医の先生任せ」だったといいます。

今回の件では警察官の方も「メンタル案件だから。これは刑事事件になりませんからねえ・・・(遠い目)」と、関わっても点数(手柄)にならないからか、手を引きたくて仕方がない様子がうかがえました。

 

統合失調症は子どものころからではなく、むしろ思春期以降に発症し、20歳ごろからだんだんと悪化する方が多いと感じます。

以下は、私が直接的に知るケースですが(女性の例となります)

 

①卒業制作(芸術系)と遠隔地就職でのストレスがきっかけでオーバードーズして倒れていたが、本人は記憶がない

②小売業に就職したが、取引先の担当者全員から嫌われていると感じてまもなく離職した。長年鬱病だと思っていた

③歯科衛生士の学校に合格して通学し始めたが妄想妄言が酷くなり(聞かれてもいないことを突然答える、スパイに狙われていると信じ込むなど)、入院に至った

④海外転勤を機に、職場でいじわるをされているという思いが強まり、その後、監視されている、という発言が増えて職場トラブルが多発した

⑤夫と職場の尊敬する上司から「統合失調症ではないか」と言われて驚いて受診、確定診断となり、治療したら寛解してこれまでの不安や恐怖が嘘のようになくなり、元気に仕事を続けている

などです。

いずれも本人には全く病識がなく、周囲が気づいて受診+治療サポートしない限り、悪化の一途をたどります。

上の①⑤は症状が軽いうちに受診した医師や周囲が早々に気がついて治療を受け、社会生活に支障なくお仕事をされている方達です。 

最初に挙げた女性の事例では、ご親族が

「彼女とは話し合いにならない」

「親やきょうだいとも仲が悪くて疎遠だった・・・(仲が悪いことを強調)」

「数年前のトラブルで、いっそ一人暮らしさせたらストレスがなくなるかなと思って独立させた」

「きょうだいの妊娠出産で、年頃の彼女は暴走してしまったのだと思います。(彼女と連絡はしばらく取っていないのに)きっと知っていたんだと思います」

「お医者さんに任せたいけれど、まだ病院の空きが出なくて・・・」 

と、疾患管理の上では大きく外れた対応をし続けてこられてた(未だしている)感があります。

町内の皆さんに多大な被害と不安を与える前に、ご親族や学校や職場(彼女はバイト経験がそこそこある)やご近所が気づいてあげられていたならば、避けられた話だったかもしれません。

 

最後に、上の厚生労働省のサイトから以下を切り抜いておきたいと思います。

 

●周囲の人にもわかる統合失調症のサイン●

統合失調症に多い幻覚や妄想の症状は、本人には現実味があってそれが病的な症状だとは気づきにくいものです。周りの人が気づくことが、早期発見の第一歩となります。家族や周囲の方に以下のようなサインがあることに気づいた時には、相談窓口などに相談してみて下さい。

(サインに関してはサイトをご覧ください)

 

気持ちが悪い、扱いづらい、頭がおかしい人、といった周囲の考えが、患者さんの症状を悪化させ、重大事件を招くこともある疾患です。

ご専門外の医師の皆様も含めて、統合失調症についての啓発を促進し、早期発見・早期治療につなげていただけることを強くお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。

 

㈱ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子

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