天野理事長ブログ&スケジュール

2021.10.07

コロナ禍における高血圧診療について

山形県立中央病院 糖尿病・内分泌内科 副科長/教育研修部 副部長 鈴木 恵綾先生の投稿です。

山形県は、全国でも有数の高血圧患者さんが多い地域です。

私が勤務する山形県立中央病院は、山形県の高血圧診療の中心を担う病院であり、難治性高血圧や二次性高血圧など、多くの患者さんが紹介・受診されます。

冬寒く夏暑い、四季の気温の変化が大きい山形では、血圧がその影響を強く受けます。これからの時期、秋から冬にかけては、気温が低下し血圧が高くなるため、降圧薬を増やしたり、患者さんに保温を心がけていただいたりして、血圧上昇を予防します。春、暖かくなると血圧は少しずつ下がり始めます。気温が上昇する夏には、血圧が大きく低下するため、降圧薬を減量するなどして対応いたします。ですから、毎年雪が解けて春になると、「血圧が落ち着く季節になりましたね。」と、患者さんと一緒にホッとするのです。

しかし、コロナ禍の昨年・今年は、例年と様子が違っていました。

暖かくなってからも血圧が安定しない患者さんが、少なくなかったのです。この傾向は女性の患者さんで顕著でした。なぜなのか、患者さんのお話を伺うと、「コロナが怖くて、ずっと家に籠っていました。外に出ないから、体を動かす事もなくて、太るし、気持ちはモヤモヤするし。」と、皆様口を揃えておっしゃいます。

楽しみにしていたコーラス教室に行けなくなったり、ママさんバレーができなくなったり、地域の活動が減ってしまったり。特にご高齢の患者さんでは、人との触れ合いが減り、ストレスが増えたと感じる方が多かったのです。感染拡大予防のためのステイホームにより、運動不足やストレス過多となり、その結果血圧が上昇する。これも、新型コロナ感染拡大による大きな弊害といえるでしょう。

 全国的にはどうだったのでしょうか?

厚生労働省の調査1)では、調査対象者の39.1%で、新型コロナ感染拡大前と比べて運動量が減少したとの結果でした。また、18.6%でゲームをする時間増えたそうです。一方、味の素の調査2)で、自粛期間中に最も多く食べたメニューを調べたところ、「ラーメン」、「パスタ」、「カレー」がベスト3でした。

ステイホームの中で、簡単に準備ができ、なおかつ、みんなが好むものが上位に入ったのだと思います。しかし、これらのメニューはいずれも塩分量が多く、炭水化物を多く含み、血圧上昇・体重増を来たしやすいものです。実際、コロナ禍において4人に1人が体重増加を示し、平均3.7kg増加したとも報告されています。皆様は、いかがでしたでしょうか?

 コロナ禍での生活習慣の変化は、運動不足や塩分過剰摂取、体重増加、ストレスの増大といった高血圧を悪化させる要因の影響を強めました。

その一方で、ステイホームにより、自分自身と向き合う時間が増え、食事や運動といった生活習慣を見つめ直す事ができた方もいらっしゃいます。

全国でワクチン接種が進み、新型コロナ対策は、今後新たな局面を迎える事が予想されます。それでも、以前のような生活に戻るには、まだ時間がかかるでしょう。ウィズ コロナ時代の高血圧診療では、薬物治療以上に生活習慣修正やストレスケアが大切です。明るい兆しが見え始めている今だからこそ、改めて、個々の患者さんの生活習慣や血圧上昇の背景を見つめ直し、オーダーメイドの高血圧診療が求められていると感じる、今日この頃です。

 

参考文献

1)厚生労働省社会・援護局 障害保険福祉部精神・障害保健課:新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査結果概要について 

2) 味の素(株):みんなの減塩調査2020

 

山形県立中央病院 糖尿病・内分泌内科 副科長
教育研修部 副部長 鈴木 恵綾

 

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