天野理事長ブログ&スケジュール

2021.02.03

女性診療の入り口を覗いて

石川県立中央病院脳神経内科 診療部長 松本泰子先生の投稿です。

メモする女性

 

「どこに行っても、『わからない』って言われ続けて、どんどん不安になっていたけど、ちょっと様子を見てみることにします。」と初診後に話され、後日、「少しずつ良くなってきました。」と笑顔で再診される、そんな方に女性外来で度々出会います。

 

男女雇用均等法施行の時代に医学部に入学し、「男女平等」という言葉に煽られ、「男女差なんて時代錯誤!」と思っていた私は、正直言うと、「女性外来なんて必要あるんだろうか?・・・でも、誰かがやらないといけないんだろうから。」という消極的な気持ちで女性外来業務を引き受けました。

その時、女性外来担当の上司から、医療の狭間で困っている女性患者さんを助ける女性外来の必要性を説明されたにも関わらず、心中、女性外来の必要性に疑問を抱いたまま、女性外来担当医師の一員となったのです。

 

そんなスタートでしたが、実際、女性診療を始めてみると上記のような女性の言葉に元気を貰い、「少しでも快適な人生をおくる手助けをする」という本来の医師としてのやりがいまでも新たに授けられました。

これまで、脳神経内科疾患を専門として診療してきた中で、「症状と上手く付き合っていく」ことの大事さを身に染みていましたし、また、元来「人とその人生」の話を伺うのが好きなこともあり、女性診療というスタンスの面白さが徐々にわかるようになった気がします。

 

女性外来では、患者さんの話を伺いながら、思春期の心の脆さ、出産・育児期の社会的変化を受け入れる中での戸惑い・悩み、病気になったことでの不安や人生観の変化、中年期の身体的変化から来る諸症状・・・と、自分自身の人生を振り返り、また、今の自分自身を見つめるチャンスを頂き、患者さんと共に、お互いに、それらを「受け入れ、付き合い、凪が来るのを待ちながら、その時々やれることをやっていく」ことの重要性を共有していく、そんな印象を持つことがあります。

 

勿論、女性器の器質疾患は該当専門科の診療が必要ですが、器質疾患がなくても日常的に不快症状がある方、器質疾患に関しては専門医治療を受けているものの、更なる総合的なサポートを必要としている方々が「医療の狭間」で戸惑い、結果的にDr. shoppingや医療不信に至っていることを知りました。

これらのことは女性特有とまでは言えず、いわゆる「総合診療」で一括するという考えもありますが、体格・性格的因子、ライフイベント、ホルモン変化などから、女性に特化した医療提供は意義深いと思えるようになりました。

一方で、検査や手技的治療は少なく、「話を十分聞き」、「日常生活習慣指導を行い」、「専門医と患者さんの隙間を埋める」・・・そんな診療内容を見て、「それって医者じゃなくてもできるんじゃない?」という声も聞こえてきます。

 

確かに、「医者じゃなくてもできる」とは思います。でも、臓器別ともいえる現在の医療で、そのようなことが等閑(なおざり)にされていることも事実なのです。

医師としての知識と経験があるからこそ、さらに、女性としての同様の経験があるからこそ、女性外来医師の言葉が説得力をもち、患者さんを前向きにできる一面があるのではないかと感じています。

 

今後の女性診療のあるべき姿としては、私のような女性器に関して門外漢の内科医師だけでなく、産婦人科、乳腺科、精神科医師とチームとなり、文字通り「総合的に」女性患者さんにアプローチ、サポートする体制だと思います。

当院の現状としては、理想の姿にはまだまだ遠く、当分は「専門医と患者さんの懸け橋、隙間を埋める」役割にならざるを得ませんが、女性の人生同様、「その時々やれることをやっていく」といった気持ちで診療しています。

 

まだまだ女性診療の入り口を覗いただけですので、今後、女性診療科の先輩の先生方の経験をお伺いし、女性器の器質疾患含めた知識を学び、より多くの女性の「少しでも快適に人生をおくる」手助けをできるように努力していきたいと思います。

 

石川県立中央病院脳神経内科 診療部長 松本泰子

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