天野理事長ブログ&スケジュール

2021.01.18

温故知新 ~漢方の奥深さ~

島根県出雲市 医療法人あべ医院 福原恵子先生の投稿です。

漢方三種

医学の進歩は目覚ましい。

とりわけ西洋医学では研究の発展に伴い新しい概念が提唱され、治療も目まぐるしく変化、新薬も次々に生まれる。それに比べ、東洋医学は2千年前の古典をひたすらに読み返してはそこにある条文に記されている治療を実行することこそが真髄である。当然、新薬など出現するはずもない。しかし知れば知るほど新しい発見、感動がある。まさに温故知新である。

私は田舎で内科の開業医を17年しているが、現在、外来患者の約8割に漢方薬を処方している。漢方治療に向き合った時、治療者側の私が感じるその世界観を一言で表現するなら、“絶対に足の着かない広い海の中を泳いでいるよう”だと思う。浅学ながら、時には自分の中の理論どおりに治療がうまくいくこともある。そんな時は岸にたどり着いたような気分になるのだが、しばらくするとまた海に投げ出される。こうしてほとんどの時間は右往左往して藻掻いている。きっとこれからもこんな医者人生が続くのだろう。

そんな私が一瞬だけ岸にたどり着いたような気分になれた症例を2つご紹介したい。

麻黄という生薬にまつわる症例である。

1例目は42歳女性、以前に下痢で何度か当院への来院歴があるが、その下痢には一般的には便秘薬として認識されている大承気湯が効く人である。

今回は20代から発症した通年性アレルギー性鼻炎の相談で来院。30代で症状が悪化し、ディレグラ®(フェキソフェナジン塩酸塩・塩酸プソイドエフェドリン配合剤錠)を飲むと治まるため毎日服用しているが、根本的な改善を希望しているとのことである。とにかく水様透明鼻汁が多量に出る、くしゃみが多く雨の日は悪化する。中肉中背で体表は汗でやや湿っている。舌は胖大で歯痕あり、冷えは感じない。むしろ冷たいものが好きで寝る前にアイスを毎日食べる。

所見としては、やはり水滞が目立つことからまずは小青竜湯を処方したが無効だった。そこで、この患者さんの鼻炎にはアレグラ®(フェキソフェナジン塩酸塩)ではなくディレグラ®が効くということをふと思い出し、エフェドリン作用が必要なのかもしれないと考えた。ということは麻黄である。小青竜湯にも麻黄は配合されているがその分量は多くない。麻黄の含有量が多い方剤をいくつか考えた。冷たいもの好きで、大承気湯が効くような下痢をするのは体内に熱がこもっている・・・越婢加朮湯だとピンときた。果たして内服開始した翌日から症状は劇的に改善、ディレグラ®は不要となり現在も良好に経過している。西洋薬がヒントになって処方が導けた症例である。

もう1つの症例は57歳女性。

普段は習慣性頭痛で呉茱萸湯を常用している。冷え症で胃腸が弱い。よく風邪をひく人だが、麻黄が入っている漢方を飲むと眠れなくなる。エフェドリン作用で興奮してしまうのであろう。麻黄湯や葛根湯はもちろん、麻黄附子細辛湯さえも処方できないため、いつも風邪の時は桂枝湯や香蘇散などを処方していた。

今回は前日からの食欲不振、38.4℃の発熱、悪寒、関節痛、頭痛を訴えて来院。診察すると全く汗をかいていない。いつも沈の脈なのだが今回ははっきりと浮である。どうみても桂枝湯では役不足、麻黄が必要な状態と考えた。不安げな患者さんをなんとか説得し、まず最初に葛根湯を服用し、汗が出た時点ですぐに桂枝湯に切り替えるよう説明をして両方を処方した。翌日、本人に確認したところ、葛根湯を1包飲んだら汗が出てきて体が楽になり、その夜はぐっすり眠れたと。その後は桂枝湯に切り替えてスッキリ治ったとのことだった。体がその生薬を本当に必要としている時には副作用は出ないのである。

生薬一つをとっても奥深い。

岸を目指して泳ぎ続ける毎日である。

医療法人あべ医院 医院長 福原 恵子

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